第18話 時に中嶋END

 結局、二回目の初日の文化祭は散々だった。


 中嶋教諭は食って掛かった僕に反省文を一日中書かせるという愚行を敢行し、僕はクラスメイトや、恋人のキリコが文化祭を漫喫するなか一人で閻魔の取調室、もとい、自習室で先日中嶋教諭に提出した反省文を模写させられた。


「先生、腕が腱鞘炎みたくなって」

「黙れ」

「……」

「何だその目は、僕を苛め抜いてください先生って目だな佐伯」


 中嶋教諭は文字通り柳眉を逆立てて、僕をさいなめる。


 この学校に勤める女性教諭の中でも、美人な顔立ちをした彼女が怒る様はまさに地獄の閻魔だった。


「先生、お昼のチャイムが鳴りました」

「黙れ」

「……」

「いいから反省文を書き続けろ佐伯、今日は19時までそのままだ。お腹が空きましただ? 舐めたこと言うな」


 頼む、誰か助けて、助けて。

 脳裏でジーニーが「修羅場ですかぁ?」とのんきな声で言っている気がした。


「先生、トイレに」

「黙れ」

「えぇ……」

「佐伯はそう言って逃げるつもりだろ? お前が嘘を吐く時は必ず後頭部を手で掻くと、君部が言っていたぞ」

「僕のこと、よく見てるんですね」

「いいから黙って反省文を書かないか! お前に付き合ってる私だって辛い」


 中嶋教諭は僕のことになると途端にムキになる。

 僕よりも素行の悪い生徒は探せば数人ぐらいいるだろ。

 だから僕は率直に、中嶋教諭に聞くことにした。


「先生、先生はどうして僕を特にターゲットにするんですか」

「決まってるだろ、お前が私の生徒だからだ」

「それだけですか?」

「それ以外に何があると思ってる、はぁ」


 はぁ、と彼女がため息を吐くと、蜃気楼が見えた。

 僕の目の錯覚かな、中嶋教諭の口からエクトプラズムが出ているようにみえる。


「……佐伯、もう金輪際こんな真似はしないと誓えるか?」

「誓います」

「なら私の足を舐めてみっともなく許しを乞え」


 と、中嶋教諭は右足のヒールを脱ぎ、肌色のパンスト越しに足の指をぐにぐにと動かす。


「……舐めればいいんですね?」

「冗談に決まってるだろうが!! やっぱりお前はわかってないよ、反省文の模写を再開させろ」

「僕だってもう我慢の限界なんですよ!」


 吼えると、中嶋教諭はびっくりしたように瞳孔を開いた。


「が、我慢の限界?」

「さっきから手が腱鞘炎気味だし、お昼は食べてないし、トイレにすら行かせて貰えないじゃないですか」

「それはお前がいつまで経っても反省しないからだろうが!」

「反省してますよ! その証拠に中嶋教諭の足を舐めますから!」

「お、お前な! あ、こら、私の足を離せ佐伯」


 中嶋教諭の右足を手でがっしり抑え、僕はまずパンストを破いた。


「止めろ佐伯! 聞いてるのか佐伯!?」


 先生の右足に鼻を近づけると、汗と石鹸の匂いがした。

 今日が文化祭だからか、いつもはシューズ姿なのに、今日はヒール。


 つまり、中嶋教諭も今日は特別な日だと見ていたのだろう。

 それとも、先生はこの後で恋人か何かとデートしようとしていたのだろうか。


 足の爪に塗られたピンク色のマニキュアを見て、僕は可愛いですねと彼女に言った。


「止めろ佐伯、それ以上は困る、止めてくれ」


 して、僕は先ず中嶋教諭の足の甲にキスをした。


「――っ」


 このキスは中嶋教諭に敬服している意志を表している。


 そして口づけしたまま足先に移動させると、中嶋教諭の足から力が抜けた。後は、ミサキにもよくやってあげているプレイのように、彼女の足を唾液に塗れた口で丁寧に、時に乱暴にぺろぺろしていくと。


「く、ハっ……佐伯、お、お前、自分が何して、ん!」


 中嶋教諭の反応見るに、彼女は小指が特に敏感なようだ。

 そんな小指は食べてしまえ、ぱくり。


 口の中に小指を含み、口内で小指をぺろぺろぺろぺろぺろ。


「アン――っ!? ちが、今のは喘ぎ声じゃな、くぅん」


 足を舐めるだけじゃ物足りなくなった僕は、教諭のふくらはぎを下から舐めとった。膝の側頭部から内太ももに舌を這わせると――ガシ! と、中嶋教諭に頭を掴まれた。


「……佐伯くん?」


 は!? しまった、ミサキといつもやっていたから、つい調子に乗ってしまった。

 恐る恐る中嶋教諭の顔を見上げると、――中嶋教諭は僕に接吻をしていた。


「先生、何を」

「……佐伯、先生も、我慢の限界だ。一発やらせろ」

「ふぇえええええええ!?」

「悪いのはお前だ、お前は生娘でもないし、童貞でもないんだから」


 ――セックスの一回や二回、黙っておけばバレやしないよ。


 後日、中嶋教諭は僕の部屋に直接謝罪しに来た。


「佐伯、本当にすまん!」


 中嶋教諭は僕の部屋でいさぎよい土下座で謝罪していた。

 そうか、謝罪ってこのくらいしなくちゃ時に駄目なんだ。


「いや、いいんですよ。あれはあれでいい思い出ですから」

「そ、そうか? 許してくれるのか?」

「僕の方こそすみませんでした、中嶋教諭の立場を考えず、盛ってしまって」

「……」

「ですから顔を上げてください」

「このまま聞いてくれ、実はお前とやった行為で、私は懐妊してしまった」


 ………………?

 …………?

 ……?


「懐妊?」

「ああ、妊娠検査薬を使ったら陽性だった。だから佐伯、お腹の子を認知して欲しい」


 あ……アァアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!


 目の前が途端に真っ暗になり、僕はその場で卒倒してしまったみたいだ。

 意識が醒めると、僕の隣には裸のジーニーが居た。


「どうしよう、どうすればいいんだ! あの後ループしなかったってことは、僕は中嶋教諭と添い遂げるのが正解だったのか!? 嘘だろ! キリコやミサキはどうなるって言うんだ!」


「落ち着いてくださいデュラン、悪夢でも見たんですか?」


 悪夢……? 電子カレンダーを見ると、今は文化祭が開催される週の日曜日を差していた。と言うことは、中嶋教諭と目合って、彼女を孕ませてしまったのは全て夢?


 安堵感が過ぎる余り、余波で心臓のドキドキが止まらない。


「一体、何だったんだ、今の夢は。すごいリアルだった」

「まぁまぁ、夢だったのならヨシとしましょう」


 ジーニーは裸身の状態で僕にそう言うと、ベットから抜け出して自分の衣服に着替えだす。女子の着替え姿って、見られて非常に恥ずかしいものだと思う。それを考えると僕はジーニーによほど信頼されているのだろうなと感じた。


「今の夢にタイトルを付けるとしたら、中嶋ENDって所ですかねぇ」

「単なるバッドエンドだよ!」

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