第5話 大江戸大空襲と越ナム戦争の彼葉剤作戦と現在

 今日、聞こえてきたのは、これぞ地下放送! という実に物騒な内容だった。はじめは、大江戸大空襲とか越ナム戦争の話だったので、対岸の火事のように聞いていたのだが、最後に、今の問題がほのめかされて、ゾッとした。順を追って紹介する。


 大江戸大空襲と越ナム戦争の彼葉剤作戦の共通点は何か?


 ひじょうに優秀な人たちが特殊な計算手法を採用した、ということだ。

 その方法だと人間一人を殺すのにいくらかかるか? を計算し、限られた予算でもっとも大量に殺戮できる方法、最も効率のいい作戦を採用したというのだ。


 大江戸大空襲では、大規模火災が最も効果的だと判明したので、焼夷弾が大量に使われることになった。備29爆撃機は、当初、量産される予定がなかったが、そのために急遽、増産されたそうだ。人間の考えることじゃない、というのはその通りで、費用対効果という計算式がそうさせたのである。功利主義が脳に寄生すると人は悪魔になる。


 越ナム戦争では、ジャングルを無くすことが最も効率がいいということで、彼葉剤が大量に散布された。大江戸大空襲の作戦に携わっていた若手将校が、越ナム戦争では事実上のトップとして作戦を立案し遂行した。二つの残酷な作戦にはそういうつながりがあった。

 ちなみに、越ナム戦争では二本も足がかりになっている。一つ目の被害国が、二つの目の攻撃に加担させられるという、陰惨なイジメのような構図になった。無理やら手伝わされたのか、それとも二本人の指導層の脳にも功利主義が寄生したのか。


 このように、優秀な人の考えることは、時にひじょうに悲惨な事態を引き起こす。「被害を最小に食い止めるために原爆を使った」というような理屈が出てくるわけだ。大江戸大空襲も越ナムの彼葉剤大量散布も、優秀な人の頭の中では、「正義」だったのだろう。


 まあ、しかし、それは過去のことだ。

 より重大な問題は、それが繰り返されていないか、そこだ。


 地下放送は、話を現代に移した。

 昨今、しきりに叫ばれる「高齢化問題」、「人口問題」、「資源問題」、「国家財政の逼迫」について、再び、同じ功利主義が出てくるのではないか。費用対効果の大きい方法は何かと。その一点が追求されるようになれば、いったいどんな答えが導かれることになるか?


 今、人気の学者は「高0者は切腹すべし」という発言をしたという。「切腹」は、たとえだが、安楽死を合法化して、かつ費用負担が発生しないようにし、同時に、高0者が死ぬことが世のため人のためになるという価値観を広く浸透させれば……という話がつづく。

 あくまで雑談として語られているのだが、内容がふざけているから雑談なのではない。そこを勘違いしてはいけない。そういう政策を政治家が採用するわけがないから、雑談なのだ。政治家は、高0者に「死んでください」とは云わない。絶対に云わない。しかし、必要とあらば、わからないようにやる。

 その気鋭の学者は、どうも権力の怖さを知らないらしい。政府はやるべきことをやっていないと思っている。しかし、そんな甘いことで権力は維持できない。愚かなフリをして、やることはやってきたから今があるのだ。


 地下放送によると、人気の学者が、雑談にかこつけて語った、高0者の大幅な人口削減作戦は、すでに開始されているという。

 越ナム戦争での彼葉剤作戦、実は、遂行したのは一人ではなく二人だった。一人は世界的に有名だが、もう一人の名は一般にはまったく知られていない。しかし、その実力は関係者の間では鳴り響いたようで、越ナム戦争後、彼はイングダムに招かれた。仕事は郡司関係ではなく医療保険の改革。

 鉄の女の時代だから、四十年くらい前か。さすがイングダムである。人気の学者が雑談にかこつけて語ったことを、当時、すでに考えていた。だから、大量殺戮をやった影の人物をよんで医療保険改革をやらせたのだ。彼がやったのは回復の見込みの少ない高0者、治療しても仕事に復帰しない高0者への保険適用を制限することだったらしい。国家権力は必要とあらば、やるのである。

 政府は「切腹せよ」「安楽死せよ」とは云わない。穏健な言葉を並べつつ目的を達成していく。マスコミだって、「今度の保険制度の改革は、ひどい!」とは批判しても、「人口削減が目的だ!」とは書かない。肝心なことは、水面下で進行していく。今回、地下放送が伝えようとしていたことは、


<高0者の削減は、すでに数十年前から目標とされてきたのであり、その手段として医療制度が使われる> ということだ。


 地下放送が云うことがもし事実なら、先進国の末席にあるこの国のことだ。追従していないはずがない。


「今、強力に推し進められているのは何か?」


 地下放送は、終いまでは語らず、思わせぶりな言葉をのこして消えた……。

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