15話 反撃の話

「おい、どうなってんだ! もう5人もやられてんじゃねぇーか!」


ガゼルは近くにいた5組の生徒の胸ぐらを掴み、すごい形相で問い詰める。


「す、すいません。奇襲されたり、味方同士で相打ちをさせられたりしている状態でして。まるでヤツは俺達の位置や思考を完璧に把握しているみたいで… 」


チッと大きな舌打ちをすると、ガゼルはその生徒を投げ捨てる。


「無能共が! そんな訳あるか、この人数の魔力感知だぞ! そんなの出来る訳ないだろ!!! 」


ガゼルの顔には怒りとともにどこか焦りが含まれていた。








僕に対してどのような感情を抱いているかは戦闘においてかなり重要な情報だ。


最初の5人は僕をかなりあなどっていた連中だ。


だから簡単に誘いに乗るし、単独行動もさせやすい。


そしてこの5人をかなり早い速度で沈めたことで、今度は僕に対して、焦りや怒り、恐怖を覚えてくるだろう。


次に沈めるのは怒りを抱いたものだ。


行動が短絡的で、我を見失うタイプ。


こういうやつには魔力感嫌悪を利用するとよい。


魔力感嫌悪とは自分の持つ魔法属性と相性の悪い人間の近くにいると、本能的に嫌悪感を抱くというものだ。


火属性なら水属性、水属性なら雷属性というように相性の悪い者同士を近くに寄らせる。


普段は理性がそれを抑制し問題なく過ごせるのだが、緊張状態に陥ると、短気なやつはかなり嫌悪感をいだくという。


そんな感じで、徐々に連中の怒りを溜め、それがピークになったところで、魔法を発動する余地もない接近戦を行う。


ただでさえ体術であれば僕に分があるため、怒りに任せた単調な攻撃なんてあたるわけがない。


そうして僕はわずか20分足らずでさらに5人を沈める。


「さぁ、次は焦りを抱いたものを落とすぞ」






「どうなってる、ヤツはたった1人、たった1人だぞ! 」


ガゼルは次々と気配が消える仲間の気配に焦りを隠しきれていなかった。


森の中からここ数分ずっと5組の生徒たちの叫び声しか聞こえない。


「なんだ、このやられ方」


魔力感知をしながらガゼルは違和感に気づく。


「まるで1人になるタイミングを狙ってるみたいなやられ方じゃねぇーか。 まさか、ホントに完璧に位置を把握してるってのか…… そんな、神みてぇなことが出来るわけが……… 」







ガゼルや5組の連中みんな、才能のある人達だ。


だけど僕と彼らには圧倒的な差がある。


それは実戦経験だ。


そもそも魔力感知の通用しない僕と戦うのに隠れる場所が無数にある森を選ぶのが間違いだ。


そしてこの森はレイナさん達との訓練で飽きるほど走り回っている。


地形把握の上で圧倒的情報量の差がうまれ、それゆえに移動速度も段違いだ。


冒険者時代には森で魔物と戦うなんてザラにあった。


魔物は聴覚や嗅覚が優れたものも多い。


そんな奴らを相手にしてきた僕にとって人間、しかも本当の命のやり取りを知らない子供なんて相手になるはずがないのだ。


「行動、判断、全てが甘い。 本当の戦闘の緊張感はこんなもんじゃないんだぞ」


全て予測した通り。







「全員、やったぞ」


僕は一言そう言ってガゼルの前に姿を現す。


僕の服には傷どころか、汚れもほとんどついていなかった。


「クソ、クソクソ! 本当に役に立たねぇな! 5組の連中は」


そんなガゼルを僕は嘲笑する。


「そうやって自身の弱さを人のせいにしていればいいさ」


ガゼルは頭に血管を浮かべる。


「あぁ俺が弱いだと!! ふざけるな! 俺は4組だ! こいつらよりもクラスが上なんだよ」


「でも今から俺に負けるぞ? 」


ガゼルは歯が折れるのではないかと言うほど歯を食いしばり、杖を取り出す。


「てめぇはバカだな! 魔力もスキルも無いもさお前がこの俺様に正面切って戦って勝てると思ってるのか!?」


ガゼルは勝利を確信したようであった。


「馬鹿野郎! ガゼルは単純な戦闘力でいったら3組にも引けを取らない実力だぞ! 」


ナナリは声を張り上げて僕にそう訴えくる。


でも―


「わかってる。今の僕じゃ正面切った戦闘で勝てないだろう。 でも、コイツはどうしても思いっきりぶん殴ってやらないと気が済まないんだ! 」


そう叫ぶと僕は懐から指輪を取り出す。


「なんだぁ? そりゃあ」


ガゼルもナナリもわかっていないようだ。


これは僕が敵と遮蔽も何も無い場所で戦うことになった時に使う24の魔法具の1つ。


「反撃の余地のない芸術的戦闘術ってやつをみせてやるよ」



<あとがき>

できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!

水曜日、金曜日、月曜日です!(土日もするかも)

投稿時間は20時です!


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