14話 いきすぎた所業の話

「てめえ、たった1人でここにいる13人とやり合おうっていうのか? 」


ガゼルは今にも吹き出しそうに堪えながら問いかける。


「そうだ。 その人数で足りるか不安か? 」


何を言ってるんだコイツはという意図を含んだ笑いが森に響き渡る。


「転校生は知らないみたいだが、ここにいるのは5組の生徒と4組の俺。 つまり格上の存在だけだぞ? 1人を相手するだけでも勝算がねぇーのに何を言ってるんだお前は? 」


「レイナさんはナナリに勝ったぞ? 勝算はある。 それに敗北や失敗を自分ではない誰かのせいにする5組のヤツらには負ける訳ないし、女の子に躊躇なく暴力を震えるアホに僕は負ける訳にはいかない」


ガゼルはチッと小さく舌打ちすると、周りにいる5組の生徒に顎でイケと指示をする。


「ちょっとまて、お前らは何故そこまでして7組を軽蔑する? 」


僕は詰め寄ってくる生徒達に手を向けて制止する。


「はぁ? そんなの家の品格のためだろ」


「7組に落ちたら人生終わりだからよ」


「7組に入るとゴミクズ同然だからな」


みながみなそれぞれの理由を口にする。


そうか、と僕は呟くと一瞬の沈黙が流れる。


「てめぇくだらないことに時間を取らせんな、お前ら7組と違って俺らの人生における時間は価値があるんだよ」


すると僕はまたすぐに同じような仕草をする。


流石に目に見えて苛立ちを感じる。


「最後にこれだけ、この中で好きなのはどれだ? 四角、三角、丸、ひし形―」


「うるせぇな! 早くやっちまえ!! 」


ガゼルの怒鳴り声にビクつき5組の生徒たちは杖を構える。


僕はすぐさま茂みに隠れる。


その様子を見てガゼルは天を仰ぐように体を反らせ大笑いする。


「あんだけの啖呵を切っておいて隠れんぼか? いいぞ見つけ次第ぶっ殺してやる」


30分後


「おい! さっきから逃げてばっかでやる気あんのか? 」


ひたすら逃げてを繰り返しているアレンにガゼル達はそう呼びかける。


「さっきまでの勢いはどこにいったんだよ、怖くなっちゃったか? 」


ガゼル達は馬鹿にするような笑みを浮かべる。


「レイナ見てみろ。さっきからヤツは逃げ回るばっかで戦おうとはしやしねぇ。 もうこの森からも逃げ出したんじゃねぇか? 」


ガゼルは倒れているレイナの髪を掴み上げる。


「お前の王子様はどこかへ行っちまったなぁ? 」


しかしレイナは臆することなくガゼルを睨み付ける。


「アレン…さんはそんなことしない」


その言葉にガゼルは眉間に皺を寄せ不快感を露わにする。


「あ? てめぇ俺に歯向かう気かよ。そうか………なら―」


バキッという嫌な音が森に響き渡る。


その瞬間レイナは物凄い叫び声を上げる。


ガゼルはレイナの腕の骨を折ったのだ。


「てめぇ! このゴミクズ野郎が!!!! 」


ナナリはふらつく体でガゼルに向かっていこうとするがすぐに取り押さえられてしまう。


ガゼルは顔をよく見るためにレイナの顎つかみ自身の眼前に近づける。


その目には激痛のあまり自然と出る涙を必死に堪えようとするレイナの姿が写る。


「ギャハハハハハハ! こりゃいい表情になったもんだなレイナ!!」


そう言うとガゼルはもう一方の折れていない方の腕を掴む。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


ナナリの叫びも届きなどしなかった。


バキッ


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


痛みのあまり絶叫するレイナに対しガゼルは満足そうな表情であった。


「おい! 転校生!! 早く出てこねぇとこいつの体使いもんにならなくなっちまうぞぉ! 」





数分前




「ハァハァ、流石にここまで一度に魔力感知を使って立ち回るのは結構大変だな」


僕は岩陰に隠れて息を潜める。


僕が魔法使いと戦う上で絶対に避けなければならない状況は、距離を開けて正面で戦うこと、奇襲されることの2つだ。


魔法は言ってしまえば飛び道具だ。


距離を開ければ一方的にやられる。


流石に魔法の飛んでくる速さよりも速く動くことなんてできないからだ。


そしてコチラが相手の位置を探るよりも先に居場所がバレれば瞬殺されるだろう。


そんなことを考えていると――――――


バキッ


聞いたことのない歪な音が森に響き渡る。


その後に聞こえるこの叫び声はレイナさん?


そしてこの叫び方は痛みを伴っている。


「骨を…… 」


そして、息付く暇もなくまたあの歪な音と叫び声。


今度はナナリの声も聞こえた。


そしてガゼルが僕を呼び出している。










僕は自分の頬を思い切り叩き、大きく息を吸って長めに息を吐く。


「落ち着け、状況を整理しろ」


僕は噛み締めすぎたせいか唇から血を流していた。


鉄の味のするそれを舐め取り赤く染った口でポツポツと独り言を喋る。


小枝を拾うと目をつぶり、地面にこの森の大まかな見取り図を書く。


そして戦闘が始まる前に聞いた質問を思い返しながら、どこにどの生徒がいるのかを書きその生徒の特徴も書き足していく。


四角に反応した生徒、丸に反応した生徒、三角に反応した生徒、ひし形に反応した生徒。


そこから大まかに魔力特性を予測して、それぞれの持つ杖の形状、色、質感から素材を予想し、魔力属性を考える。


さらに逃げている最中に観察した彼らの体型、顔、喋り方、人間関係を予測する。


正直情報としてはまだ足りていない。


けど、もうやるしかない。


僕は全てを地面に記した後、目を開く。


「いくぞ! 」



<あとがき>

できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!

水曜日、金曜日、月曜日です!(土日もするかも)

投稿時間は20時です!


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