非モテサラリーマンのデート商法ラブコメ

うみとそら

非モテサラリーマンのデート商法ラブコメ

2021年秋頃の話。


昼休みになったので、俺は会社から徒歩5分の場所にあるコンビニへ向かった。

しかし、コンビニの目の前についた途端、ふと、少し贅沢がしたくなった。

今日の午前中に上司に怒られたので、午後の活力を蓄えるために何か良いものが食べたくなった。

怒られた理由は、営業なのにワックスをつけずに出社したからだ。

もちろん言い分はある。

今日はお客様とのアポイントがなく、1日中社内にいるからだ。

まあ、こんなことを言っているから彼女ができないんだろうな・・・。

そんなことを考えていると20代くらいの女性から声をかけられた。

「すいませんー。アンケートをやってるんですが5分ほど協力していただけませんか?」

マスクをしていて顔の全てが見れている訳ではないが、垂れ目でストレートの綺麗な髪、さらに良い匂いだったので、なんとなく魅力的な女性には見えた。

なので、ついアンケートに協力してしまった。

「あ、は、はい。良いですよ」

自分ではクールに言ったつもりだが、人生で初めて女性に声をかけられた気がしてテンパった対応をしてしまった。

多分、童貞なのはバレた。

「本当ですか!?ありがとうござます!」

女性はマスク越しでもわかるほど笑顔になってお礼を言った。

「弊社はジェリーの会社でして新作を出すにあたって、今、男性の方にアンケートを取っているんです」

「へー」

正直、一生関係のない話だと思ってる。

「お手数なんですが、このアンケート用紙に記入をお願い致します!」

女性はバインダーに挟まったアンケート用紙とペンを渡してくれた。

「あ、はい」

内容は「結婚するならいつか」や「結婚する時の言葉は何か」など結婚に関することが書かれていた。

結婚どころが女性との関わりが母親以外ない俺には縁遠い内容だった。

ただ、一点少し気になることがあった。

「電話番号って書かなくちゃいけないんですか?」

「はい、お願いします!」

軽めに上体を傾けてお願いをされた。

少し胸が揺れた。

オフィスカジュアルなのかよくわからないが、ニットでボディーラインが目立つ服装だったので、この女性の梨2個の動きがよくわかった。

頭の中は梨でいっぱいになった。

アンケートを書き始めると女性は自己紹介を始めた。

「私、佐藤かなって言います!」

「あ、そうなんですね」

「ちなみにお兄さんのお名前を教えて頂くことはできたりしますか?」

「鮫島と申します」

「えー!かっこいい!」

「ありがとうございます」

「出身はどこなんですか?」

ぐいぐい聞くなー。

まあ、悪い気はしないけど。

「新潟の方になります」

「えー!良いなー!」

ここはキャバクラなんか?

そんなことを思うくらいやたらヨイショしてくれる。

それからもアンケートを記入している間に職業や趣味などいろいろなことを聞かれた。

ここまで聞いてくるなんて珍しいなと思いつつも、この時点で俺の中ではモテ期がきたと強い確信がうまれていたので、ちょっとした違和感などはどうでも良くなっていた。

「アンケート書き終わりました」

「ありがとうございます!」

記入済みのアンケート用紙とペンを佐藤さんに渡した。

「本当にありがとうございます!しかも、いろいろ聞いちゃってごめんなさい」

「いえいえ!全然良いですよ」

「鮫島さんって優しいんですね」

「いやいやー」

「ぜひ、お店の近くまで来たら寄ってくださいね!本当にありがとうございました!」

そう言って佐藤さんはまた軽くお辞儀をした。

やはり梨も揺れた。

俺は梨が動いたことを確認してコンビニへ入っていった。

もう贅沢することなんて忘れていた。


あれから3日後の土曜日に知らない番号から携帯に電話があった。

着信が午前の10時頃でまだ寝てたので気づかなかった。

「なんの番号や?」

気になりつつも眠気が勝ったので、また寝た。


それから5時間後にまたさっきの番号から電話がかかってきた。

「またか」

少し不信感があったものの緊急の電話の可能性もあったので出た。

「はい、もしもし」

一応名前はなのならなかった。

「あ!もしもし、鮫島さんですか?」

相手は女性の声だった。

「あ、はい」

え?誰?

「あ!あの、佐藤かなです。覚えてますか?」

小型犬の鳴き声を想像させるような声で聞いてきた。

「あー、アンケートの人ですか?」

「そうです!覚えてくれてたんですね!」

「まあ、はい」

そりゃ、女性とあそこまで話たのは社会人になって初めてだからな。

「え!嬉しいです!!」

本当にキャバ嬢なんじゃないかと思い始めた。

「ちなみに、今お時間よろしいですか?」

「はい、どうぞ」

どうせ、営業の電話やろ。

「ありがとうございます!実は鮫島さんにアンケートをしてもらってから誰も相手にしてくれなかったんですよ」

「そうなんですね」

普通そうだよな。

「はい、だから本当に鮫島さんって優しい方だなって思いました」

「そんなことないですよ」

俺が童貞でなければ多分無視してただろう。

「ちなみに今は何をされてたんですか?」

「遅めの昼食を食べてました」

「え!すいません!昼食中に連絡しちゃって」

「全然大丈夫です」

俺にとっては女性と喋る時間の方が有意義なのは確かではある。


それから1時間後。

「あ!1時間も電話しちゃいましたね!」

そう。あれから日常会話を1時間ずっとしていたのだ。

「本当ですね」

「なんか鮫島さんと話してると時間がすぐ過ぎちゃいます!」

「それは良かったです」

この段階ですでに佐藤さんが実は俺に少し気があるのではと確信をしていた。

「良かったならなんですけど、また電話してもいいですか・・・?」

まあ、そうくるわな。佐藤さんは俺と電話したいんだろう!

「全然いいですよ」

「え!ありがとうございます!」

ふふふ。

「鮫島さんは大体何時頃が空いているんですか?」

「平日だと20時以降で土日だと基本何時でも空いてますね」

「そうなんですね!じゃあ、毎日電話しちゃおうかな♪」

ぐいぐいくるねー。

「全然良いですよ」

「本当ですか!?じゃあまた近いうちに電話しますね!」

「どうぞどうぞ」

「やった!本当にいろいろとお話してくださり、ありがとうございました!」

「こちらこそです」

「また電話しますね!失礼いたします!」

「はいー」

電話を俺の方で切って、軽くガッツポーズをした。

ついに俺にも春がきたと思った。


あれから1週間後の土曜日。

「あー、今日も佐藤さんの声可愛かったなー」

あれから1週間毎日佐藤さんと電話をした。

「そうだ、明日服買いにいっとくか!」

しかも、来週の日曜日に佐藤さんと会う約束をしたのだ。

どうやら仕事に困っていて、営業のアドバイスを会ってして欲しいとのことだった。

「ふー!テンション上がるー!」

まあ、営業成績は良くないので、営業のノウハウ本を1日1冊は読んでるから、それを言えば良いだろう。


佐藤さんと会う2日前の金曜日。

営業についての本も7冊読んでアドバイスもしっかり紙にまとめた。しかも、身なりについても美容系の仕事をしている友達からアドバイスをもらって、髭や髪型はもちろん、眉毛もしっかりと整えた。

これでもう完璧だと思いながら退社をしようとしたら、隣のデスクの同期から声をかけられた。

「なあ?今日飲みに行かないか?」

「あー」

本当はコンディションを整えたいので早く帰りたかった。

けど、なんとなく今の状況を自慢したい自分もいた。

「いいよ」

自慢話をしたい自分が勝った。

「よし!じゃあ、支度するから先降りててくれ!」

「了解」


「おつかれー!」

「ういー、おつかれさまー」

大衆居酒屋について、さっそく頼んだ生ビールで乾杯した。

「鮫島と飲むのも久しぶりだな!」

「そうだな、ここ最近節約してたから飲み会にも参加してなかったしな」

「そういえばよー、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「ああ、いいよ」

「お前、彼女でもできたか?」

え?

「ど、どうして?」

なんで急にそんなことを聞いてくるのか驚いている。

「いやさー、ここ1週間かなー?なんか雰囲気が変わった気がしてな」

そうなんか?

「しかも、昨日なんか大口の受注ができたじゃん?」

たしかに昨日は偶然大きな取引ができたが、それは関係ない気がする。

「だから、彼女ができて良い方向に流れてるのかな?と思ったわけさ」

そう言われるとそんな気がしてきた。

「まあ、じつはな、良い感じの女の子ができたのよ」

元々このことを自慢したくて来たわけだし話すか。

「おー!やっぱりか!どんな人なんだよ!」


佐藤さんについてこれまでのことを目の前の同期に全部話した。

「ひとついいか?」

同期は真剣な眼差しで聞いてきた。

「あ、ああ」

「それ騙されてないか?」

「は?」

意味がわからん。

「だってよ、数分直接話した程度でいきなり毎日電話するような仲になるか?」

本当に言っている意味がわからん。

「それにジュエリーっていうのも気になるし」

「なんで?」

「たまに聞くんだが、ジュエリー系の勧誘でデート商法っていうのがあるらしい」

「デート商法?」

「ああ、恋愛感情を利用して高額商品を売りつける詐欺みたいなもんだよ」

「はあ?」

何言ってるんだこいつ。

それからこの同期は色々と言ってたが、何も頭には入らなかった。

どうせ嫉妬しているだけだろうと、俺の頭の中で処理された。


次の日。

やはり、昨日の同期の話が気になった。

「くそ!あいつのせいで最高だった気分が台無しじゃねえか!」

そう思いつつも不安を解消したくデート商法について色々調べていた。

調べれば調べるほど、自分の現状がデート商法だと裏付けるページが出てくる。

「ああ!くそお!」

近くにあるゴミ箱を蹴っ飛ばした。

「そうだ!佐藤さんの電話番号を調べるか!」

よくある手口なら電話番号から注意喚起の口コミがあると思った。

着信履歴から佐藤さんの電話番号をコピーして検索エンジンに貼り付けた。

検索結果を見ると何件かヒットした。

最初にヒットしたページを開こうとタップしたいが、なかなかできない。

変な汗が止まらない。


それから5分。

ようやく決心がついた。

タップしてページを開いた。

「あ」

そこに書いてあったのは「50万円の変なアクセサリーを買わされそうになった」「毎日電話がくる」「これデート商法やんwww」「この店まじ怪しい」などデート商法を裏付ける内容がたくさんあった。

目の前が真っ黒になった。


日曜日のデートは行かずにドタキャンをした。

加えて、2日間の有休を取得してずっと寝込んでいた。

結局、冴えない人生がこれからも続くんだ・・・。


と、思っていたが、実は続きがある。

なんやかんや1ヶ月後には傷も癒えて仕事に集中するようになった。

そしたら、驚くほどに営業成績が上がったのだ。

しかも、半年後には社内で一番の営業成績をとったほどだ。

こんな好成績を残せたのは、佐藤さんに好かれるためにやっていた営業ノウハウのインプットと美容に気をつけていたことが役に立った。

そしてなんと言っても一番嬉しかったことは、彼女ができたことだった!

営業成績で一番をとった俺は翌月から新卒の教育担当を任されて、その新卒の女の子と付き合うことができたのだ!


人生悪いこともあれば良いこともあるんだな!

「ふー!サイコー!」





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