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第32話 アンチとファンは表裏一体

 お花見から一週間。

 調整役として三人の意見をまとめながら、動画の編集をし終わって投稿した。

 動画は三本になって、二本はウチのチャンネルに投稿し、最後の一本はカザリちゃんのチャンネルに投稿することになった。


 結論から言うと、成功した。

 ここ最近の動画の中じゃ、再生数ナンバーワンの動画になった。

 苦労に見合った再生数でホッとした。

 お金や時間をかけても伸びない動画は伸びないからな。


 動画のコメントは、新鮮で面白かったですとか、コラボの人初めてみた人ですけど面白いし可愛いからいいですね、とか好意的なコメントばかりだった。


 まあ、うちのチャンネルで批判的なコメントは基本的にはないから、予想はできたことだった。

 アンチコメントがあるのは最初期の動画だけで、人気が出るにつれてほとんどなくなった。

 ファンもアンチも結局流されやすいだけなんだろうな。


「ハァーフゥ」


 嚙み切れない欠伸が出てしまった。

 動画制作の疲労が滲み出ている。


 大学の構内。

 周りに見られていなかったか気になって周囲を見渡す。


「?」


 何故か、みんな一斉に目線を外しだした。

 観られていることに気が付かなかったが、こうも露骨に目を逸らされると馬鹿でも気が付く。

 異様な食いつき方で、俺に視線を向けていたのだ。

 欠伸をしていたからでは決してない。

 あの挙動は、それよりも前に注視していた。


「何だ?」


 強烈に嫌な予感がする。

 人生で一番こんなに好奇な目を向けられている気がする。

 ShowTubeで感じることはない、生の視線だ。


「巧君っ!!」

「えっ、久羽せ――ちょ――」


 死角から腕を掴まれて、強制的に移動させられる。

 久羽先輩と腕組みして嬉しい――とか、そんなことを考えている余裕はない。


「ど、どうしたんですか?」

「いいからちょっと中庭まで来て」


 さっきより目立ってしまっているが、緊迫した久羽先輩の顔を見ると拒否できるような空気ではない。

 何か俺の知らない所で、最悪な事件が起きている。


 中庭までやってきて、ひと気のないことを視認すると、久羽先輩が接近して来て耳打ちする。


「噂になってる。ううん、もっとひどい。ネットニュースになってる」


 そう囁いてスマホを取り出すと、画面に映し出された文面に目を疑う。


「は?」


 スマホに映し出されたのは、


 【速報】人気カップルShowTuberが破局? ファンを騙して収益を得ていた件。


 という文面。

 俺も自分のスマホを取り出して検索すると、同じようなネットニュース記事が3個見つかった。

 かなり拡散されている。

 自分の動画やSNSを閲覧すると、炎上していた。


 ――何、これ? 応援してたのに別れてたの? 金返して欲しいんだけど。スパチャしたのに、嘘だったの? やっぱりな、こういう奴等ってビジネスなんだよ。まだ庇っている信者、まだ騙されるの? 馬鹿じゃないの。ずっとファンでしたが幻滅しました。前々から調子に乗ってたよね? お前らが騒ぐから動画観に行ったけど、こいつらのどこが面白いの? ここまでニュースになるような奴等じゃなくね?


 だがきっと、こんなのまだ序の口だ。

 今までにないコメント数と、再生回数。

 皮肉だが、確実に今までの動画の最高記録を叩きだしている。

 どんどん情報は拡散されて、もっと炎上するだろう。

 今まで、色んなインフルエンサーの炎上を見て来たから分かるが、こんなもんじゃない。

 恐らく、明日、明後日が本番で更に誹謗中傷が書かれるだろう。


 何で、こんなことになってるんだ?


「巧君と栞ちゃんが別れて、水上さんが彼女になった――っていうことになってる」


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