高嶺の花に告白してスッキリしていたら何か粘着された ~あっさり系でグイグイいく彼は、完璧な彼女を崩壊させる~

三葉 空

第1話 高嶺の花に告白してフラれた

「君のことが好きです、俺と付き合って下さい」


 高2の春、俺は校舎裏で告白した。


 相手は飛び切りの美少女というか、美人。


 黒髪ロングでおまけに巨乳。


 ぶっちゃけ、高嶺の花。


 そんな彼女は森崎千冬もりさきちふゆと言う。


 1年生の頃から、俺たちの学年でマドンナとして人気だった。


 2年生に進級したら、彼女と同じクラスになった。


 そして、俺は告白した。


 だって、せっかく同じクラスになれたんだから、このチャンスに挑戦しなかったら、一生後悔するだろうなって思ったから。


 結果として……


「……ごめんなさい」


 俺、川村勇太かわむらゆうたは、見事にフラれた。


「そっか……」


 俺は顔をうつむけて、小さく唇を噛んだ。


「あの……」


 森崎さんが何かを言おうとした時、俺はスッと顔を上げた。


「ありがとう、君に告白できて良かったよ」


 とびきりの笑顔で、そう言えた。


「えっ……?」


 森崎さんは、そのきれいな瞳をパチクリとさせる。


「じゃあ、俺はこれで」


 ひらっと手を振って、その場を立ち去る。


「あー、ちくしょう」


 歩きながら天を仰いで悔しがるも、俺の心は清々しい。


 この青空のように。


「ラーメンでも食って帰るか」


 すぐに新たな楽しみを見つけて、俺はルンルン気分で歩いて行く。


「……何なのよ」


 だから、背後でボソッと彼女が漏らした言葉が、聞こえなかった。




      ◇




 2年生に進級してクラスメイトが変わった訳だけど。


 1年生の頃みたいに、みんなほぼ初対面ってこともないから、そんな気まずい空気が流れることもなく、楽しんでいる。


「あ、そうだ。勇太、お前きのう、森崎さんを呼び出していただろ?」


 友人に言われる。


「バレてた?」


「当たり前だよ。で、告白したのか?」


「したよ」


「結果は?」


「ま、まさか、オーケーじゃないよな?」


「そ、そんなバカなことがある訳……」


「いや、普通にフラれたよ」


 俺が苦笑して言うと、


「「「だよな~」」」


 友人たちは声をそろえて言う。


「で、帰りに1人でラーメン食った」


「ウケるわ、マジで~」


「仕方ねえから、今日の放課後にまたラーメン食おうぜ」


「おごってやるからさ」


「どうせなら、違うのが良いな~。バーガー食いたいなぁ」


 とか、呑気な会話をしていると、背後でコッと音がした。


「んっ?」


 何気なく振り向くと、そこには腕組みをして立つ美女がいた。


「あれ、森崎さん?」


 俺が呼びかけると、彼女は何やら不機嫌そうな様子だった。


 どうしたんだろう……あ、そうか。


 俺が今、友達にあっさりと、彼女に告白してフラれた話をしていたから。


 それで注意しに来たのかもしれない。


「川村くん、ちょっと良いかしら?」


「あ、うん」


 俺は席から立ち上がる。


 先ほどまで騒がしかった友人たちは、すっかり大人しくなっていた。


 森崎さんの美貌に見惚れ、またおののいているのだろう。


 美人が怒ると怖いって言うし。


「悪い、ちょっと行って来る」


 俺が言うと、友人たちはコクコクと頷く。


 そのまま、俺は森崎さんの後に付いて教室から出た。


 彼女のきれいな黒髪が颯爽となびく。


 ただ廊下を歩いているだけで、絵になるなぁ。


 すれ違う生徒たちも、みんな彼女を振り返っているし。


 そして、その後を付いて行くのは、平凡な俺と言う男。


 まあ、俺はもう既にフラれている身だから、何か間違いが起きる訳じゃないし、安心して欲しい。


「……ここで良いかしらね」


 人気の少ない場所までやって来た。


「あの、森崎さん。ごめんね」


「え、何が?」


「いや、きのう君に告白してフラれた話を勝手にしちゃって……」


「……それは別に良いのだけど」


「そっか。じゃあ、どうして、わざわざ俺のことを呼び出したの?」


 尋ねると、森崎さんは少し答えあぐねた。


「……きのうは、あれからどうしたの?」


「えっ? ああ、さっきも言っていたけど、ラーメン食って帰ったよ」


「……それからは? お家ではどうだったの?」


「家に帰ってからも、腹が減ったから夕飯を食べて、風呂入って、適当に遊んで、寝たよ」


「よく眠れたの?」


「うん、ぐっすりと」


 俺が頷くと、森崎さんはわずかに顔をうつむけた。


「あの、森崎さん? やっぱり、何か怒っている?」


「怒っていません!」


 バッと顔を上げた森崎さんは、直後にハッとした顔になる。


「……ごめんなさい」


「あ、いや」


 珍しいな、いつもクールに穏やかな人なのに。


 もしや……いや、デリケートな話だから、深くは言わない。


 けどまあ、女子って色々と大変だから。


 完璧な美女の森崎さんと言えども、色々とあるだろう。


「あの、森崎さん」


「へっ?」


「俺、フラれちゃったけど、森崎さんとはこれからも仲良くしたいな。クラスメイトとして」


 俺が言うと、またきのうみたいに、彼女は目をパチクリとさせた。


「……そ、そうね。構わないわよ」


 少しそっぽを向かれてしまう。


「ありがとう。俺、森崎さんと同じクラスになれて、ラッキーだよ。これから、よろしくね」


「……ええ、よろしく」


 やっぱり、ちょっと迷惑だったかな?


 告白でフッたフラれたの関係のままだと気まずいから、あえて俺の方からそう言ってみたけど……まあ、良いか。


「そろそろ授業だし、教室に戻ろうか」


「ええ」


 今度は俺が前になって、森崎さんが後ろから付いて来る。


「……本当に調子が狂うわね」


 背後で彼女が何かボソッと呟いた気がしたけど……まあ、良いか。



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