第12話

「イザベル、ドロス。ユーナを見捨てて置いて自分たちは酒盛りか!? 恥ずかしくないのか!」

「あん? なんか不愉快な名前が聞こえたと思ったら、アルトじゃ無いか。まだ生きてたのか?」

 ドロスが乱暴な口調で答えた。

「賞金を返せ。そして、ユーナを探して謝ってこい!」

 アルトは仁王立ちになって、イザベル達を怒鳴りつけた。


「おや、怖いねぇ」

 イザベルが口の端を上げて、笑った。

「けっ、面倒な奴が抜けただけのことだろう? なんでお前が怒るんだ? アルト」

 ドロスは酒をあおった。

「賞金を不正に取得しただろう? ゴブリンキングは僕が倒してきた」

 アルトの言葉に、イザベルとドロスは顔色を変えた。

「何だって?」


 イザベルは立ち上がった。

「さあ、賞金を返して下さい」

 アルトは右手をイザベルに差し出した。イザベルはその手を叩き払うとニヤニヤ笑って言った。

「もう、飲み代と宿代で消えちまったよ」

 アルトは言った。

「不正はいけません、キチンと返して下さい」

「うるせえな!!」

 酒に酔ったイザベルが剣を構えた。

「ちょっと、喧嘩なら外でやって下さいよ!?」

 宿屋の女将が言った。

「ちょっと、町の外に出ろ、アルト」

「……わかりました」


 イザベル達とアルトはにらみ合いながら、町の外に出た。

「冒険者らしく、戦いでけりを付けようぜ」

「……話し合う気は無いようですね」

 アルトは鞄からすらすけとすらみを出して、元のサイズに戻るよう呪文を唱えた。

「はあ? スライムが二匹? それがお前の仲間なのか?」

「すらすけもすらみも、あなたたちよりずっと信頼できる仲間です」

「ユーナ、カワイソウ」

「ぷるん」

 イザベル達はアルト達を嘲笑した。


 次の瞬間、ドロスの弓がすらすけを狙って放たれた。

「すらすけ、強化!!」

「ぷるん!!」

 すらすけに当たった矢は、はじき返された。

「なんだ? スライムのくせに!?」

「ヒール!」

 すらみの魔法で、すらすけについたわずかな傷が回復する。

「炎の剣!」

 アルトはドロスに斬り掛かった。

「アブナイ、アルト」

 

 アルトを狙ったイザベルの剣に、すらみが体当たりをした。

「ちっ、スライム風情が!」

 イザベルはすらみに剣を立てようとした。

「すらみ、強化!!」

「!?」

 イザベルの剣はすらみに刺さらず、跳ね返された。


「もう観念して下さい」

「……あのアルトが偉くなったもんだな」

 攻撃を封じられたイザベルとドロスは、賞金を胸元から取り出し宿に帰っていった。

「ヤッタネ、アルト」

「うん……」

 アルトは戦いに勝利したのに、浮かない顔をした。

「ドウシタノ?」

「ユーナさんは、利用されていただけなのかなって思って……」

「アルト、ヤサシスギ。キニスルコト、ナイ」

 アルトは賞金を拾うと、すらすけ達を小型化し鞄にしまって冒険者ギルドに向かった。


「はーい、アルト。戻ってきたの?」

「はい、これ、賞金です」

 レイは驚いた。

「あのイザベルが素直に返したって言うの?」

「……はい」

 レイはビールを飲んでから、ニヤリと笑った。

「嘘が下手ね、アルトくん。おめでとう、イザベル達を倒したのね」

「え!?」


「そこのすらいむちゃんたちも、一緒に戦ったんでしょ? もう噂になってるわよ」

 レイは、アルトの差し出した賞金をしまうと、代わりにジュースをアルトとスライム達の分だけ並べた。

「おごりよ。どうぞ」

「……いただきます」

 アルトはすらすけとすらみを鞄から出して、ジュースを飲ませてやった。

「私から、宿に話を付けといたから、今日はスライムちゃんも宿に泊まれるわよ」

「え!? ありがとうございます」

 アルトがジュースを飲んでいると、レイは言った。


「有名になってきてるわよ。スライムマスター」

「……そうなんですか?」

「ま。有名になるのも善し悪しだからね。なんだかスライムハンターに目を付けられたって話も出てきてるし」

「スライムハンタ-?」

「ええ。王都から来たミキ・ヒカルっていう、黒髪に赤い目の少女ハンタ-」

 その時、ドアが開いた。

「そう、ちょうどあのくらいの年で、あんな風に黒いおかっぱ頭で……って本人!?」

 レイが声を大きくすると、入ってきた少女は言った。

「騒がしいな、ここは。……お前が噂になっているスライムマスターのアルトか?」

「僕に何か用ですか?」

 アルトが答えると、ミキは笑って言った。


「君を倒しに来たよ、スライムマスター君」

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