第33話

れいこの部屋。

れいこは、いつもと同じように紅茶を嗜みながら本を読む。

すみれは床に座り、れいこの膝に頬を寄せる。れいこは、すみれの頭を撫でながら本を読み続けていた。


「れいこさん。」

「どうしたの?」

れいこは本を読んだまま。


「れいこさん、好きです。」

「知っている。」

「れいこさん、大好きです。」

「知っている。」

「れいこさん、愛しているのです。」

「知っている。」

「れいこさん、私、何でもします。」

「知っている。」


最近れいこは変だ。

すみれでも分かる。

あの時から変だ。

れいこのロザリオを見つけた時から。


別にれいこはすみれを避けはしないし怒りもしない。

だが、何か違う。

もしかしたら、自分への興味が薄くなったのかもしれない。

すみれはそれが怖かった。

許してもらえなくなるかもしれない。

それが怖かったのだ。


「れいこさん。」

そこでれいこは、やっと本を読む手を止めた。

「すみれちゃん、さっきからどうしたの?本に集中できない。」

「れいこさん、謝ります。だから、嫌いにならないでください。」

れいこはすみれの言うことが分からず、眉をひそめる。

「何に対して謝っているの?私がいつ貴女を嫌いになったの?」

「あの日からです。私が、れいこさんの大切なものを触ってしまった日から。」

それを聞いた途端、れいこの声色が変わった。


「やめましょう?その話は。私、気分が悪くなる。」

「ごめんなさい、れいこさん。いつも通り許してください。私、何でもします。れいこさんのために脱ぎます。れいこさんの全てを舐めます。一人でしたって構いません。だから、れいこさん。お願いです。」


いつもは愛おしいと思えるすみれの言動も今は全てれいこの気に触る。

それより気に触るのは自分自身。

忘れていたもの。忘れたいもの。どうでもいいもの。

なのに、あれだけ取り乱すなんて。

腹立たしい。


そういう時は、いつも通り。いや、いつも以上に楽しむしかない。


「すみれちゃんにして欲しいことがあるの。」

「はい!何でもします!」

「ちょっと待ってね。山代さんと・・・ゆりも呼ぶから。」


しばらくして。

「どうしたのですか?ミカエル様。」

「何よ、れいこ。こんな夜更けに。」

みちるは不思議そうにれいこを見つめる。

ゆりはというと、嫌悪の目でれいこを見つめる。


「私、みんなで楽しもうと思って。どうして今まで思いつかなかったのかしら。遊びって一人より大勢で楽しむものよね!」

れいこは手をひと叩きすると、実に嬉しそうに言う。そしてゆりに微笑みかけた。

「れいこ・・・まさか、貴女。」

「さすが、ゆり。貴女って頭の回転がいつも早い。いつも私の言いたいことをわかってくれるのね。大好き。」

「れいこさん、私も早くれいこさんのしたいこと知りたいです。私だって、私だって・・・。」


「じゃあ、単刀直入に言うわ。すみれちゃん、山代さん。今すぐ脱ぎなさい。そして二人で抱き合いなさい。私とゆりは眺めているから。」


すみれとみちるは、震え出す。


なぜ?れいことではないのか?

なぜ?この人と?

なぜ?れいことゆりは見ているの?


二人が戸惑い続けていると、れいこは微笑む。


「すみれ、みちる。脱げ。抱き合え。早く。」


れいこの言うことは絶対だ。

彼女たちはお互い目を逸らしながら脱ぎ始める。

「れいこ!やりすぎよ、やめさせて頂戴。」

れいこはゆりの手首を掴むと彼女を引き寄せる。

そして、制服越しに彼女の胸を弄ると口付けた。れいこの持てる全ての悦びをその口付けにこめる。

あんなに嫌がっていたゆりもそれには抗えない。


もっとして欲しい。

もっと。

もっと、れいこが欲しい。

何でもして欲しい。


ゆりは、激しくれいこを求めた。


そうやって人を操るのがれいこである。彼女はやはり何でも意のままにできる。悪魔たる所以。


そんな二人を見てすみれとみちるも気がおかしくなってくる。

全てを思い通りにできる。誰しもが言いなり。

それを感じてれいこの気持ちは昂る一方。


「二人とも、お遊戯の時間よ。」


その声を聞いてすみれとみちるはお互い口付け合う。

お互いを触っては舐め合う。

二人の喘ぐ声は重なり合う。


「早く!早く!もっと!もっと見せてよ!!」


れいこの高笑いで、ゆりはようやく自我を取り戻した。

それに気づいたれいこは、ゆりの両肩を持つと、激しく抱き合う二人を自慢げに見せた。


「ね、みんなで遊ぶと。楽しいの。」


れいこはすみれとみちるに近寄り、そっと耳打ちをする。一瞬二人は止まったが、れいこに頭と顎を撫でられて恍惚とした表情。


「さ、お好きにどうぞ?」


もう、すみれとみちるに迷いはない。

二人は下部を絡ませ合うと、抱き合って繋がる。一つになる。


聞きたくない声が激しく聞こえる。耳をふさいでも聞こえる。

見たくもない光景も見える。目を覆っても、れいこはその手をそっと退ける。


「いい眺め。楽しいね、ゆり。楽しいよね、ゆり。そうだ、私たちも一緒に遊ぼうか?私と貴女ならきっと・・・。」

「・・・っ!!」


パンっと、ゆりは思い切りれいこの頬を叩いた。

一瞬にして辺りが静まる。


「れいこ!!いい加減にして!!話がある!!もう、我慢できない。私、貴女を引き戻さなければいけない!天使に戻さなければならない!!私にはその義務がある!!」

れいこは頬を撫でながら「興ざめだわ。」と言った。

手を叩くと、二人に解散を命じる。


「今日はここまでにしましょう。二人ともいい子。ご褒美あげる。」


れいこはそれぞれに深く口づけてやった。

そして、手を振る。


「少し出かけてくる。私、そろそろ決着を付けないといけないみたい。」

そして、ゆりを睨む。ゆりもまた、れいこを睨んだ。

どちらも譲らない。お互い目を決して逸らさない。


「終わりにさせる、れいこ。」

「私もよ。終わりにしてやる、ゆり。」

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