第32話
「美味しい?すみれちゃん。」
「はい!れいこさん!」
れいこの部屋。
れいことすみれはお茶会をする。すみれはいつぞやのようにショートケーキを頬張る。
大体はすみれと楽しく遊ぶれいこだが、こうやってすみれと語らうのも嫌いではない。
抱かれて喘ぐすみれも好きだが、純粋に喜ぶすみれも時々見たくなる。昔のように。
「それはよかった。」
「れいこさんは食べないのですか?」
「実は、私ケーキって嫌いなの。でも苺は好きよ。そういう甘さは好きなの。」
すみれはケーキの上の苺とれいこを交互に見た。
「どうしたの?すみれちゃん。」
「じゃあ、れいこさんは苺を食べてください。」
そう言うとすみれはケーキの上の苺を食む。それをそのままれいこの口へと運んだ。
その行為にれいこは少し驚いた。このようなことは躾けたことはない。しかし、すみれはこれを本能でしているのだ。さすが、至高の悪魔。
れいこもその苺をゆっくりと食んだ。すみれはそっと苺を離す。
「美味しい。」
「良かったです!」
「じゃあ、お礼に紅茶あげる。」
「れいこさん?」
れいこはすみれに近づくと彼女の紅茶を口に含む。そのまますみれの口に流し込んだ。
少しすみれの口からは溢れたが、すみれはそんなことお構いなし。
にこにこと微笑んでいる。
「いい子。」
「れいこさん、美味しいです。とっても甘い紅茶!」
「それはよかった。」
「私、こういう優しさのれいこさん、大好きです。」
「私もこういうこと嫌いじゃないわ。」
すみれはそれを聞いてさらに喜ぶ。
れいこは基本的にかんどりのいい子が好きだ。その最たる例が、ゆりであったが。
しかし、すみれのような子も最近は好きになってきた。
なんでも純粋に言うことを聞く。純粋さが悪に変わる瞬間がとても好きだった。
「すみれちゃんに何かあげようかな。私の大切なもの。」
「え!いいのですか!?」
「だって、すみれちゃんは私のものだから。私のものを持っていてもいいの。」
「嬉しい!!」
「別に隠すものもないし、好きなものとっていきなさい。」
「嬉しい!!」
そう言われ、すみれは宝探しをするようにあちこちを見て回る。
その姿がなんとも愛おしい。
言ってよかった。れいこも上機嫌である。
れいこのコレクションのガラス棚、ティーカップセットもあれやこれやと触ってみる。
机の上にある綺麗なガラスのペン。綺麗な色のインク。
どれにしよう。これにしよう。でも違うものがもっと見たい。
すみれはワクワクしながら部屋中を探し回る。
れいこは目を閉じながら、すみれのつぶやきを聞く。甘い紅茶と極上の音楽。これほど楽しい時はない。
すみれはというと、まだ探している。
本棚で美しい装丁の本もとってみる。
これは何の本かしら、これは何が書いてあるのかしら。
「・・・ん?」
本棚の一番上。背伸びをしないと届かない位置。普段なら目が届かない位置。
そこに何かある。小さな小箱?いや、オルゴールのような小箱?
すみれは疑問に思ってその小箱を開ける。すると音楽が流れだした。
今まで瞳を閉じていたれいこであったが、その曲を聴いて慌てて立ち上がる。
「これ、なにかしら?」
すみれは中にあった銀色に光るものを取り出す。
「綺麗。ロザリオだわ。」
「やめて!!触らないで!!」
れいこは大きな声を出すと、すみれの手にある銀色に光るロザリオをすぐさま奪い取った。
すみれは驚いたものの、その光るロザリオを見つめながら言う。
「れいこさん、私、それが欲しいです。綺麗。とっても綺麗。」
「駄目!!これだけは駄目!!触っても駄目!!」
「れいこさん・・・?」
「・・・ごめんなさい。でも、これは・・・ここに仕舞っておくのが・・・一番いいの。」
「そんなに大切なものだったんですね。ごめんなさい。」
「大切・・・。そういうものじゃなくて。これは・・・私の最後の良心。」
「?」
れいこは、いつになく優しく微笑むとすみれの頭を撫でた。
「でも、そろそろ捨てようと思っているの。捨てないといけない。そんなもの可愛いすみれちゃんにはあげられない。こんなもの、もったら・・・。駄目。」
れいこの言うことはいつも難しい。なので、すみれは最後の単語だけを聞くようにしている。
「分かりました。ほかのものを探します!」
「・・・いい子。」
れいこはそう言うと、そのロザリオの入ったオルゴール箱をしめて、そっと元の場所に置いた。
「れいこさん、このオルゴールの曲。『主よ御許に近づかん』ですね。私、授業で歌いました。」
「・・・昔、好きだった歌よ。今は大嫌い。」
れいこは微笑むとすみれの手を取った。
「さ、すみれちゃん、他の物を探しましょう?私も探してあげる。」
「本当ですか!?」
「ええ、一緒に探しましょう。もっともっともっと良いものを。」
れいことすみれは二人で探したはじめた。
もっともっともっと良いものを。
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