第25話 声かけてもいいのかな?


「んー、あの子は一人で来たのかな。ちょっと待ってね」


 白石さんが自分のスマホを操作し、何か調べ始めた。


「多分この子じゃないかな?」


 SNSで何かメッセージを出しているのは、多分あの子だろう。

自分の写真を撮り、アップしている。


 しかし、一人だとちょっと寂しいとか、友達がこれなくなったなど何回か投稿している。


「一人で来る人もいるんだな」

「そうだね、私も広瀬君がいなかったら、里緒菜がいなかったら一人だったから……」


 一人で参加して、一人で撮って満足なのだろうか?

やっぱり同じ趣味の人と話をしたり、写真を撮ってもらったりしたいのだろうか。


「おなかすいた」


 槻木さんのライフがそろそろなくなりそうだ。

というか、俺は休んでないんですが?


「お昼にしようか。このままでもお店に入れるからどこでもいいけど」

「ランチのチケットあるからそこにしよう! あおばはどこかほかにお勧めとかあったりする?」

「特にないかな……。広瀬君は?」

「んー、俺はどこでもいいよ」


 ふと、さっきの子と視線が合う。

何の衣装だろう。俺には全く分からないけど、何かのアニメかゲームなのだろうか。


「気になるの?」

「なんか、ちょっとね」


 なんで気になる? 会ったこともない他人。俺と何のかかわりあいもない子。


「広瀬っち、きっと写真を撮りたいんじゃない?」

「俺が?」

「あの子の恰好、何かのゲームのお姫様だった気がする」

「お姫様ね……」


 ゴシック調の白いレースが奇麗なドレスを着ており、髪も真っ黒で腰まで長い。

確かにお姫様と言われればそんな気もするけど、なんのキャラだろう。


「……広瀬君。あの子の事、撮ってもらえないかな?」

「俺が? なんで?」

「多分なんだけど、一人で来ていてほかの人に声かけずらいんじゃないかな?」

「そうなのか?」

「私たちみたいにカメラマンがいれば撮ってもらえるけど、ほらあそこ見て」


 白石さんの指さす方を見るとほとんどのコスプレイヤーの人には専属のカメラマンが付いており、一緒に行動している。

他にもグループで参加している人たちは、仲間内でカメラを使いまわしていた。

一人で参加って、結構孤独になるのか?


「俺が声かけてもいいのかな? 怪しくない?」

「大丈夫。撮影いいですかって聞けば、大体オッケーだから。お願いできるかな」

「わかった。だったら、その間に二人ともご飯食べてきてよ。その間にあの子を撮ってみるから」

「広瀬っち、変な写真とか撮らないようにね」

「撮らないわっ! 普通に撮るだけ!」


 ジト目で槻木さんにいじられ、白石さんは笑っていた。


「じゃ、ちょっと声かけてみるね」

「うん。ごはん終わったら連絡するね」


 二人は仲良く俺の前から去っていき、俺だけその場に取り残された。

さて、どうやって声をかければいいのか……。


 会ったことも話したこともない、まったくの初対面。

心なしか心拍数が高まる。

男は度胸! 当たって砕けろだ!


「あの、すいません……」


 無言で俺の方に視線を向けた女性。

俺と同じくらいの年か? すらっとしたスタイルに、ゴシック調のドレス。

何ともその雰囲気が彼女にあっていた。


「な、何か?」


 彼女は少しおどおどして、俺の方を見ている。


「えっと、少し写真を撮らせてもらってもいいですか?」

「わ、私の写真ですか?」

「はい、無理にとは──」

「お願いします。ぜひ、撮ってください」


 彼女が俺の手を取り、少しだけまぶたに涙を浮かべている。

白い手袋をつけている彼女の手は、その感触から結構細いと思われる。

近づかれてわかったことがある。

上から少し見下ろすと、何とも強調しているではありませんか。

そして、すごくきれいなメイクをしている。


 大きく開いた瞳はブルーに輝いており、異国の少女みたいに見えてしまった。

俺よりも背は低く、幼さの残る面影はまさにお姫様っぽく見える。


「あ、あの……」

「何か?」


 違います。なんでずっと手を握っているんですか?


「えっと、ここで撮りますか?」

「場所ですね。できればあの喫茶店の中でお願いしたいんですが、いいでしょうか?」

「もちろんいいですよ。荷物、持ちますか? 手伝いますよ」

「大丈夫ですよ。自分の分は自分で持ちますから」


 床に置いてあった荷物を彼女は持ち、先に歩いていく。

床につくかつかないか、ぎりぎりのラインでスカートの裾が揺れる。

きっと、サイズをぴったりに合わせて作ったんだろうな。

メイクもすごくきれいだし、みんなこんなに頑張っているんだ。


 俺もがんばって撮らないと。

自然と手に力が入った。

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