第24話 ほら、イメージ通りでしょ?


「私たち先に行ってるから、広瀬君は予定の時間でいいからね」


 イベント日の前日、白石さんからそんなことを言われていた。

どうやらコスする人たちは先に会場に入ることができるシステムがあるらしい。

着替えたりメイクをするために先に会場入りすることができる。


「わかった。でも、俺も少し早めに行くよ。会場の下見したいし」


 そんなわけで、俺は白石さん達と駅で待ち合わせをして一緒に行くことにした。

当日は最寄りの駅まで現地集合。シャトルバスを待つ人たちが大勢並んでいた。


「こんなにいるんだ……」


 俺は自分の荷物を抱えながら並んでいる人たちを眺めている。


「そうだね。ほら見て、キャリーバッグを持っている人はレイヤーさんだよ」

「こんなにいるんだ。私初めて参加するし、なんか緊張してきちゃった」


 槻木さんはなんだかいつもと違う雰囲気で、少し緊張しているようだ。

俺も初めての参加で少し緊張している。


「俺みたいなカメラマンはいないのか?」

「んー、ほとんど会場に直接行っているんじゃないかな。もしくはもう少し後に来るか」

「確かになれているカメラマンだったら現地の事も知っているだろうし、早めに行くことはないのか」


 バスが来るまでの時間、少しだけ話をして時間をつぶす。

俺も慣れてきたら直接現地に行ってもいいのかもしれない。


 今回の会場はアウトレットモールで行われる。

飲食店や併設している水族館、ゲームセンターなども自由に入ることができ、色々なところで撮影ができる。

一部禁止エリアや撮影に制限がかかる場所もあるみたいなので、先に現地を見ておきたい。


「あっ! バスが着たよ!」


 大きなバスが到着する。これで会場に行くのか。

荷物をトランクルームに入れ、俺たちはバスに乗り込む。なんかドキドキしてきた。

しばらくすると窓からレンガ調の城みたいな建物が見えてくる。

あそこが会場か……。何回か買い物に行ったことはあるけど、こうしてイベントに参加するのは初めてだな。


 会場に着くと受付の前に長蛇の列ができていた。


「こ、ここに並ぶのか?」

「広瀬君はあっち、私と里緒菜はこっち」

「並ぶ場所が違うのか?」

「うん。ほら、あそこにプラカード持った人がいるでしょ?」


 確かにコスプレとカメラマンと受付が分かれているようだ。

俺の方にはほとんど誰も並んでいなく、受付も早く終わってしまった。


「じゃ、俺会場の下見してくるね」

「わかった。お願いします」

「いい場所見つけてねっ」


 二人を残し、俺は色々と散策する。

レンガ調の柱に壁、おしゃれなベンチに窓もある。

良い雰囲気の喫茶店に水族館も。館内には撮影スポットがたくさんあった。


 カメラにレンズを付け、試しに何枚か撮ってみる。

動作は良好、いい写真が撮れそうだ。


 しかし、一時間経過してもまだ二人から連絡が来ない。

俺は時間を持て余してしまっている。


 チラホラ普段は見ない服装のコスプレイヤーの人たちが現れ始め、スマホで写真を撮り始めている。

一人で参加している人もいれば、二人や三人、同じような制服を身にまとったグループでの参加もあるようだ。

おのおの撮影スポットで写真を撮り始めており、俺と同じようなカメラを持った人も気が付いたら沢山いた。


 しかし、遅いな……。もしかして何かあったのかな?

少し心配になる。


──ブーンブーン


 スマホが震えだす。やっと連絡が来た。

待ち合わせ場所に行くと二人が待っているのが視界に入ってきた。


「準備終わった?」

「ばっちり。どう?」


 白石さんも予定してた衣装を身にまとい、メイクもしっかりとしていた。


「あおば……。やっぱりちょっと短すぎるような気が……」


 槻木さんも事前に合わせていた衣装を着ているが、思ったよりも露出が多い。


「そんなことないよ。ほら、イメージ通りでしょ?」


 スマホの画面を見ると確かにあっている。

耳も尻尾もオリジナルと比べて再現度が高い。


「二人とも似合っていると思うよ。場所かえる?」


 受付近くはまだ混雑している。

通常の時間に来たレイヤーさんたちがまだまだ列を作っていた。

こんなに人が来るんだ……。


「里緒菜行こうっ」


 白石さんは槻木さんの手をとり、先に行ってしまった。

俺も後れを取らないように二人についていく。


「広瀬君! ここで撮って!」


 レンガ調の壁を背に二人を撮る。


「広瀬っち! 私はこっちで!」


 ウッドデッキにあるテーブルとイスを使ってまた一枚撮影。


「広瀬君! 今度は──」

「広瀬っち! 水族館で──」

「広瀬君このお店の前でも──」


 気が付くと俺は白石さんに腕をつかまれ引っ張られている。


「思ったよりも楽しい。家で一人で撮るよりも、すごく楽しい!」


 笑顔ではしゃいでいる白石さんを見ていると俺まで楽しくなってくる。


 階段を駆け上がり、二階のフロアにやってきた。

見通しが良く、背景にはお城のような建物が奇麗に収まるスポットだ。


「広瀬君、ここでいいかな?」

「終わったら次私も。同じ場所で撮って」

「はいよっ」


 二人を撮影し、何枚か撮る。

思ったよりも忙しい。交代交替で撮影すると、俺は休憩時間もない。

二人はお互いが交代で撮ってもらっているので多少なり休憩する時間がある。


 ふと、フロアのすみに誰かがいる事に気が付いた。

うす暗く、目立たないところでぽつんと立っている。


「どうかしたの?」

「ん? いや、あんなところで何しているんだろうって」


 たまにスマホを出して操作し、自撮りしてまたスマホを操作する。

何してるんだ?

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