第二章 

第17話 私、アニメが好き


 学校で過ごす昼休みの時間はいい。

誰にも干渉されることなく、空を見ながら自分との会話ができる。


 今日も空が青く、自販機で買った紅茶がうまい。

毎日同じ味を出すのも大変だろう。変なことを考えていた。


 数日前に公園で撮った白石さんの写真を、家のパソコンでにらめっこしていた。

レタッチ。画像の加工や修正をする作業だけど、アップにした彼女はきれいだった。


 肌の色、目、表情。どれをとっても未加工の写真が一番俺の心をつかんだ。

加工なしでいいのか、そのまま渡していいのか明け方までずっと悩んでいた。

白石さんからはオフショと言われた写真。スマホで撮った二人が映った写真はその日の夜に送られてきた。


 悩んでもしょうがない。

自分がいいと思った写真を送ろう。俺は彼女にそのままの写真を送ってみた。


「どうぞ」


 白石さんの声がする。

白石さんの差し出した手にはカップがあり、いい香りが漂ってくる。


「ありがとう」


 なぜここに彼女が? そして、渡された紅茶はなんだ?


「えっと、いろいろと話したいことがあるんだけど……。どう伝えたらいいのか……」


 彼女は少し戸惑っている。

何を話す気なのだろうか。まだ日程が決まっていない撮影の件だろうか?


「撮影の事?」

「それもなんだけど……」


 彼女は何か決意したような表情で俺の事を見つめる。


「こ、告白しようと思うの」


 キタコレ。いいよ、俺にはわかっていました。

白石さんに進められ、渡されたアニメも見た。

他にもおすすめのアニメだと言われ、タイトルを三十作品くらいながーいLIMEが送られてきた。


 毎日のように感想を聞かれ。つらかった。

白石んさんがアニメが好きだったなんて、彼女の一面をまた知ることができた。

そんなアニメを見ていく中、あまり関係のなかった二人が、距離を詰めいずれ想いが通じ合う。

ラブコメも面白いと思った。


 今まさに、おれはその主人公になっているのだ。

俺は、主人公になる!


「やっと、決めたんだね。その想い、絶対に届くよ」


 白い歯を見せながら、おもいっきりさわやかに微笑む。

その想いは俺に届く、安心してください!


「大丈夫かな。引かれたりしないかな?」

「白石さん、自分を信じるんだ。真凛のように、自分に正直に!」

「真凛ちゃんのように……。うん、。わかった、自分を信じる! 見てて!」


 見てて?

ふと背後に気配を感じる。


「やっぽー、あおば来たよー。でも、お邪魔だったかにゃ?」


 少しニヤついている槻木(つきのき)さんの頭に、なんとなく猫耳が見えた気がした。


「そんなことないよ。あ、あのね……」


 風が通り抜け、白石さんのスカートがふわっとまくれる。

髪が流され、白石さんは両手で流された髪を耳にかけなおす。


「んっ、かぜ強いね」


 槻木さんも目を半分閉じ、やや短めのスカートを抑えている。

俺は目のやり場に困った。


「里緒菜、話したいことがあるの?」

「そうだと思ったよ。お昼に屋上なんて今まで一回もなかったもんね。どうしたの?」

「私、ずっと隠してた。自分の気持ちも心も」


 白石さんをまっすぐに見つめる槻木さんの目。

なんだかとてもやさしい目だ。


「私、アニメが好き。推しは真凛ちゃん。私も真凛ちゃんのように自分にまっすぐに、本当の自分を出して、生きたい」

「……アニメ、好きなんだ」


 無言でうなずく槻木さん。

俺は少しも心配していない。だって、槻木さんは白石さんの──。


「ごめん、こんな話して……。どうしても里緒菜には伝えたかった……」

「真凛ちゃん、可愛いもんね。私は雷華(らいか)が推しだね」

「え?」


 白石さんは少し困惑している。

だよね、突然そんなこと言われたら困惑するよね。


「雷華(らいか)はいいよ。あのストレートなところ。でも、仲間の事をみんなの事を考えてくれる。絶対に優しいし、なにより声がいい」

「な、なんで雷華(らいか)って? 知ってるの?」

「もちろん。私も昔からやってるベビーユーザーだからね。やっと話してくれたね、親友」


 槻木さんは一歩、二歩白石さんに歩み寄り、そっとその手を取る。

そのあと二人はベンチに座り、狭いベンチが余計狭く、俺は半分追い出されそうになっている。


 白石さんの入れてくれたお茶を飲みながら、二人は推しについて語り合っていた。

推し、か。俺って推しいないんだよね……。

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