即死モブ転生からの成り上がり ――バグ技&底辺社畜力でひっそり生きてたら、主人公のハーレム要員がなぜか全員ついてきたんだが。主人公はしっかり王道歩んで魔王倒せよ。こっちはまったり気ままに暮らすから

猫目少将

第一部 「王立冒険者学園ヘクトール」編

1 即死モブに転生したけど、俺はなんとしてでも生き残ってみせる

1-1 即死モブに転生って、地獄かよ

「なんだよ。ここにもバグあるのかよ」


 金曜二十五時、安アパートの一室。俺がプレイしているのは、バグ満載で炎上した、剣と魔法のRPGだ。良ゲーなんだが、バグ修正パッチが配布されるとパッチ由来の新バグが発生する状況に、開発元も投げ出した奴。なんたってデバッグに追いまくられた開発者が過労死したって噂まであるからな。


 俺は底辺社畜。残業代をごまかすブラック企業勤めで、金がない。やむなく別ゲーに行かず三周目に入ったところだが、またバグに遭遇した。


「そら攻略ウィキも投げるよなあ、これ」


 攻略ウィキはすでに掲示板しか稼働しておらず、そこはユーザーの愚痴とバグ報告、対処法ばかりが投稿されていた。


「どれ、報告しておくか」


 ウィキを開く。カキカキ。「腕輪の山のボスダンジョン、最初に右ルートで宝箱を取らないと、メインルートの迷路で道が開かず詰む。なぜか無敵になるので、クリアせず経験値とアイテム稼ぐ方法には使える」……と。


「したがってベストなのは――」


 あれ、なんだかめまいがして胸が苦しい。


「俺、どうしたんだろ……」


 今週は月曜から残業残業でキツかった。毎日四時間しか眠れてないし。土曜も出勤(もちろん休出手当なし)だから、あと一日だけ我慢すれば休みになる。それを励みにゲームしてたんだが、なんだろこれ。


「くそっ胸が痛い」


 悪魔に全力で締め付けられるような、尋常でない痛みだ。


「ダメだ。き、救急車――」


 胸を押さえて唸りながらスマホを取り上げたところまでは覚えている。俺は万年床に倒れ伏した。



         ●



「……ここは」


 気がつくと、知らない土地に立っていた。夜の狭アパートじゃない。のどかな田舎の村で、村を横切る小川に水車が回っている。しかも夜じゃなくて真っ昼間だ。


「いや見覚えがあるぞ、ここ」


 俺は見回した。ここ、今プレイしていたバグゲーの初期村じゃん。主人公の故郷で、ゲーム開始早々、魔族に皆殺しにされるムービーが入るところ。


 てことは俺、夢見てるのか。


 いや、夢じゃない。すごくリアルだし、風も匂いも感じられる。手をつねれば普通に痛いし。


 つまりこれ、転生とか転移って奴だな。死んで、ゲーム世界に魂だか肉体だかが転移したんだ。人生報われずに死んだんだから、普通はあの安アパートでみじめな地縛霊とか。それが本来の俺の未来だ。それよりはこっちのが五万倍いいわ。


「てか俺、誰なんだ」


 小川の水面に姿を映してみたが、普通に男だ。顔自体は、生前の……というか元の俺の姿。だいぶ若くなってはいるが。にしても地味面に貧乏臭い服。田舎の村人だなーどう見ても。


「なんだよ。ハイエルフの大魔道士とかじゃないんか」


 まあここ初期村だもんな。ゲーム開始十五分で滅びる場所なんだから当然か。


「ねえモーブ」


 後ろから声がした。振り返ると、村娘が立っている。十五歳くらいだろうか。ツギハギだらけの粗末な服だが、カールした長い金髪がきれいで、とにかくかわいい。温かく包んでくれそうな、大きな胸だし。タレ気味の瞳で、優しく俺に微笑んでいる。


 モーブ……。俺、モーブなのか。


 見回しても俺しかいない。


「キョロキョロしちゃって。変なモーブ」


 ならモーブ確定じゃん。てかせっかく転生したのに、大魔道士どころか、初期設定の主人公ですらないんか、俺。


 モーブってのは、主人公の幼馴染だ。といっても旅を共にする親友ポジションとかではなく、プロローグの魔物襲来イベントであっさり殺される、咬ませ犬にすらなれない、ただのモブ。名前までモーブとか、開発者、手抜きすぎだよな。このレベルで手を抜いてるんだから、そらバグ満載にもなるわ。


「あんたは?」

「いやだ」


 口に手を当てて笑ってる。


「幼馴染のランじゃない。寝ぼけてるの、モーブ」


 ランか。そういやゲームで見覚えあったわ。リアルで見るとゲーム内以上にかわいいから、まさかと思ってた。


 ランはモーブや主人公ブレイズの幼馴染。モーブ、つまり俺と同じく孤児だ。このゲームの開発者、主人公を際立たせたいのか知らんが、周囲に不幸な孤児をふたりも配置するとか、割と性格悪い。


 ランが十五歳あたりってことは、俺もブレイズもそのくらいか。幼馴染だからな。


 ランは、この村が皆殺しに遭い焼き払われたとき、唯一生き残るキャラだ。その後主人公パーティーに入って活躍する。このゲームは恋愛要素も人気で、主人公は女ばかりのハーレムパーティーを組む。中でもランは性格も素直で、一番かわいい。鉄板のメインヒロインポジションだ。


「ラン、ブレイズは」

「今、癒やしの洞窟に、キノコを取りに行ってる」

「ヤバっ!」


 それ、イントロのイベントじゃんよ。魔族が襲ってくるときの。不在のブレイズと、隠れていたランだけ助かるという。


 もう時間がない。すぐにイベント始まるぞ、これ。


「こっち来い、ラン」

「あっ、モーブ……」


 ランの手を引っ掴むと、村の広場に駆けた。


「おーいみんな聞いてくれ。魔族が来るぞっ」


 声を限りと、俺は叫んだ。なんだなんだと人が集まってくる。


「なに言ってるの、モーブ」


 ランが目を見開いた。それでも俺が握った手は離さないでいてくれる。やっぱ優しい子だな。ゲームでも、この現実?でも。


「魔族が来る。皆殺しだ。みんな、すぐ森に隠れるんだっ!」

「なにを言っとる、モーブ」


 笑い声が巻き起こった。


「また昼寝して夢でも見たんだろ」

「いいから逃げろっ」

「お前は本当に……」


 俺同様NPCの爺さんが、溜息を漏らした。


「いつまでも馬鹿言ってないで、ブレイズを見習え。ブレイズはお金持ちのロシノール家に生まれているのに、おごりもせず、性格がいい。それに比べお前は、なんの特徴もない」


 そりゃ、ただのモブだからな。孤児だという以外、開発者がバックストーリーなんか考えてくれてもない。


「早く逃げるんだ」


 笑われるだけだった。


「仕方ない。行くぞ、ラン。俺達だけでも生き残る」


 俺だって、転生した途端に死にたくはない。手を引いて、小川へと向かった。


「待ってモーブ。いったいどこに……」

「昔よく遊んだ、俺達の秘密基地だ」


 主人公ブレイズと俺達は、川沿い水車小屋の地下に、秘密基地を作っていた。水車小屋の石臼で挽いた小麦なんかを一時的に保管しておく地下室に。もちろん子供の頃の遊びだが、ゲームの上では、魔族の襲撃を見たランはそこに隠れ、生き残ったんだ。


 水車小屋に入ると床の跳ね上げ扉を開ける。地下室への階段が現れた。ランを押し込む。


「モーブどうしたの。今日は変よ」

「いいから隠れるんだ。俺はこれから偽装する」

「でも……」

「俺を信じろ、ラン」


 俺の真剣な表情を見たのか、ランは頷いた。


「……わかった。モーブの言う通りにする」

「ランプも点けるな。暗い中で息を潜めろ」

「うん」


 ランが階段の奥に消えると、俺は窓から空を窺った。


「ヤバっ。もう来てるじゃん」


 はるか上空に、ガーゴイルが数十体も見えている。どんどん高度を下げ、まっすぐ村に下りてくる。


「時間がない。急がないと」


 小麦の樽をいくつか蹴り飛ばして中身を開けた。空樽をひとつ選び、紐を繋げる。階段を半分進むと、跳ね上げ扉を閉じ、扉のノブ穴を通して紐を引く。完全に扉の上に樽を置けたあたりで、魔物が羽ばたく音があちこちから聞こえ始めた。村人の悲鳴や叫び声、逃げ惑う足音も。


「モーブ……」


 不安げに、ランが俺の背中を抱いてきた。


「大丈夫。入り口は偽装できた」

「モーブの言ったように、魔物が来たの」

「ああ」

「でもこんなとこ、なにもない田舎なのに」

「ブレイズを探しに来たんだ」

「どうして」

「主人公だからな。勇者の血筋だ」

「主人公……? 勇者?」


 真っ暗闇。扉の隙間からわずかに漏れる陽光の中、首をかしげている。そら知らんよな、ゲームの話とか。


 地下室はいつもどおり、湿気っている。ほこりと小麦粉の匂いがする。


「いいから隅に行こう」

「うん」


 ランの肩を抱くと、部屋の隅に。


「身を屈めろ。声を出すな。気配を消すんだ」

「怖いよ、モーブ」

「俺が抱いてやる」

「うん。……抱っこして」


 ランは震えていた。上では、甲高い悲鳴が巻き起こっている。焦げ臭い。村に火を放っているんだ。


 くそっ、ゲームどおりじゃんよ。当たり前かもしれないけど。


 水車小屋の扉を開ける音がした。


「誰もいません」

「念のため、ここにも火を放て。皆殺しだ」

「はっ」


 階上で、メラメラいう音がし始めた。


「モーブ……」

「しっ」


 ランを強く抱いてやった。


「大丈夫。この地下は焼け残るんだ」


 耳元で囁いてやる。


「どうしてわかるの」

「ゲームどおりならな。……とにかく俺を信じろ」

「うん……。信じる」


 しがみついてきた。ゲームの設定どおり、素直でかわいい。


 どれだけ経ったのか。暗闇で震えるランを抱いていると、外が静かになった。


「とりあえず序盤の即死イベはクリアしたか」


 モブとしては上出来だろ、これ。


 外で誰かの叫び声がした。


「なんだこれはっ!」


 大声だ。ランが顔を起こした。


「ブレイズだよ、モーブ」

「だな」


 声に聞き覚えがある。てかゲームの声優そのまんまだな。


「もう魔物は消えたはず。ゲームどおりならな。……立てるか」

「うん」


 立とうとしたが、へなへなと座り込んだ。


「ダメ。……手を貸して、モーブ」

「ほら」


 腰を抱くようにして、地下室を出た。


「これは……」


 水車小屋は焼け落ちていた。焦げ臭い異臭が、周囲に漂っている。


「あっラン。それにモーブ」


 手にしたキノコの籠を放り投げると、イケメンが駆け寄ってきた。ブレイズだ。


「大丈夫か、ラン」


 俺の手からランを奪い取ると、抱き締める。


「いやっ怖い」


 ブレイズの手を、ランは振り切った。


「モーブ……」


 俺の陰に隠れてしまった。


「ご、ごめん。僕、心配で……」


 ランを抱く腕の形のまま、なにかもごもごと言い訳している。こいつ本当に、ヒャクパー欠点のないイケメンだよな。キャラデザがブレイズとヒロインズだけ本気になったの、よくわかるわ。


 おまけに性格も良く、金持ちの家系。しかも実は勇者の血筋で剣法も魔法も万能って、後でわかるんだからな。そら主人公張って魔王に挑むわけだわ。


「見てきたけど、村は全滅だよ。ひとりも生き残っていないんだ。僕の両親も……」


 ブレイズは呆然としている。


「モーブも大丈夫だったの」

「ああブレイズ」

「なにがあったの、モーブ」

「魔物が襲ってきたんだ。ガーゴイルだった」

「ガーゴイルだって……」


 顔をしかめた。


「なんでこんな田舎に、そんな強い魔物が……」


 そら、お前が拾い子で、実は勇者の血筋を引いてるからだわ。それにこの会話はゲームだと本来、ブレイズとランのやり取りなんだけどな。死ぬはずのモブが生き残ってて悪かったな。


          ●


「くそっ魔物め」


 大虐殺の話を聞いたブレイズは、息巻いた。


「村のかたき、両親の敵だ。僕は絶対強くなって魔王を倒すぞっ」


 拳を強く握り締めている。まあブレイズは、本当の親のことはゲーム中盤まで知らないからな。


「そのためにも僕は、予定通り王立冒険者学園に入学しようと思う。ランも来てくれるよね。……ついでにモーブも」


 ランがついて来るのは当然だと言わんばかりだ。俺はなんかオマケ扱いにされたが。そら死ぬはずだったモブだからな。主人公からしたら、なんでお前まだここにいるの? ってな感じだろうさ。


 ブレイズは村一番の金持ちの家系だから、すでに入学金や学費は払い済み。孤児である俺やランは、貴族の子弟が集まる王立学園のど高い学費なんか、一生掛かっても払えやしないけどな。


 まあ実際、ゲームだとここでヒロインがついていくんだわ、冒険者学園に。入学試験で高い魔法適性を発揮して、特待生扱いになるわけよ。


「私はいい。ブレイズはひとりで行って」


 柔らかな胸に、俺の腕を抱いた。


「村の人を、モーブと一緒に弔いたいし」

「えっ……」


 ブレイズは絶句した。口がぱくぱく動いている。


 ゲームの主人公とはいえ、シナリオを知ってるわけじゃないんだな。ただなんとなく「これ違うんじゃないの」とは感じてるんだろう。そんな雰囲気だ。


「そうだな。俺もランと残るよ。俺やランは孤児とはいえ、村のみんなには世話になったし。ちゃんと弔ってやりたい」

「そ……そんなあ」


 俺の言葉に、勇者ブレイズは泣きそうな顔になった。




●第一話、いかがだったでしょうか。

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