第3話「襲撃と脱出」side マリア

「ライルっ!!!!!」

ウェルシア様の悲鳴が艦橋に響き渡る。

その悲痛なお声を聴いた私はなんて無力なのか、と自己嫌悪になりそうになる。

しかしながら、起きたことは受け止めるしかない。受け止めて、次にどう行動するのかが大事なのです。

私はこれまでのことを思い出します。



「ウェルシア様・・・・」

あのくそ野郎、失礼いたしました。辺境伯の手先である薄汚いサラスが帰った後、私とウェルシア様のみが残った部屋で私は確認します。

「マリア、言わなくてもわかるわ」

普段はおっちょこちょいの塊であるウェルシア様は意外と聡明な方です。あ、意外は失礼でしたね。

「ではいかがされるのですか?」

ウェルシア様が生まれた時より御そばにお仕えさせていただいておりますので、ある程度ウェルシア様の考えもわかります。全て、などとはうぬぼれてはおりませんが、姉の様な感覚でいることも確かですので。

「ライルを失うようなことには絶対にさせません」

唯一のお子様であるライル様はウェルシア様のすべてです。

このような蛮族ども、失礼いたしました。辺境の貴族になぜ嫁ぐようになったのか、経緯はいちメイドである私には理解できませんが、ウェルシア様は気丈に振舞ってこられました。

しかしながら、殆ど愛情もなく、娼婦の様な側室にうつつを抜かしているあの男は論外です。

最も、ウェルシア様もライル様を身ごもられてからはほとんどお会いになっておりませんが。

「ええ、それはもちろんです。しかしながら、現状でとれる手段は非常に少ないかと」

先ほどの三下が言っていた言葉を解釈するに、ライル様は御一人で主星であるゴルドネアまで行かなければなりません。それもあいつらが用意した船を使って。ほぼ確実に殺しにくるでしょう。

娼婦まがいの側室が男児を身ごもったと聞いた瞬間から懸念されていた事です。

「マリアの言う通りね。貴族の伝統を盾にされるとは思っていなかったわ」

ウェルシア様にとってはここらの貴族の伝統などどうでもよい事でしょう。

しかしながら、今のウェルシア様の身分である、辺境伯婦人という足かせが動きを悪くしてしまいます。

「ああ出られては、表立って反対することができません・・・」

「そうね。あれほどライル一人で、と強調されたらもう確定なのかもしれないわね」

おかわいそうなウェルシア様。こちらに来られる際も私たちメイドのみで、それ以外もモノはすべておいてこられました。

事情が事情だったので致し方なかった部分もありますが、私物含めてほとんど持ち込みができないのではどうかと思います。まぁ、今更ですが。

「そう、あの人がそこまでするのならば、もうどうしようもないのかもしれないわね」

ウェルシア様が深いため息を吐きます。こちらに来られてから当初、よく見られた光景です。

どうしようもなかった事ですが、ライル様を身ごもられるための行為の後、念入りに湯あみをされていた際のウェルシア様の表情と重なります。

「・・・・決めました。」

数分ともいえるほどの沈黙のあと、ウェルシア様は一言呟きます。その言葉は、私にとっても非常に喜ばしいことにつながる決意です。

「ウェルシア様、でしたら・・・」

「ええ、連絡をいれてくれる?」

ようやく決心されたようです。メイド一同が待ち遠しかった音言葉です。

「かしこまりました。急いで迎えを寄こします。」

でしたら今から忙しくなります。

一応この屋敷では外からの監視を受け付けないようにしておりますが、念には念を入れて準備する必要がありますね。

「あまり目立つのもアレだがから、それは考慮してね」

「仰せのままに」

仕方がない。この際だから派手に行こうとした私の考えを見破るとは、さすがウェルシア様です。このマリア、感服いたしました。


さて、やる事と言ってもウェルシア様付きのメイドである私が自らやる仕事などたかが知れています。まあ、ウェルシア様に手がかかると言っても過言ではありません。手がかかる妹の様な存在ですからね。目に入れても痛くありません。

それにそのご子息であるライル様は私にとっても宝です。

筆頭メイドという立場でなかったら、私がライル様御付きのメイドをしたいくらいです。

失礼、脱線しました。


改めて、ライル様がご出立される日までそう時間がありません。実働3日です。

まぁ、十中八九、お迎えは間に合わないでしょう。ですので後追いで追うことになるとは思います。

連中がどのような手段でライル様を害そうと考えているのかはわかりませんが、万難を排して臨む必要があります。

「さて、久々にシャーリーに連絡を取らなければいけませんね」

こちらに来る前からの古い付き合いである悪友に連絡を取る必要があります。まあ、仕様上、通信文1本で済みますが。

「あと、ライル様にできる限りの対策をしておかなければいけませんね」

そちらはミリアの仕事としましょう。

しかし、ライル様はどこか気が付いているような気配がありましたね。そもそもご年齢にしてはとても利発なお方で、自由なウェルシア様の気質を引き継がなかったことに関しては感謝しております。

あの場での即答、とても10歳の子ができるような返答ではありませんでした。

そもそも10歳の子供などまだ母にべったりの時期です。我が家の場合は、母子が逆転しておりましたが。よそはよそ、うちはうちです。はい。

とりあえず、そんな頭の良いライル様が感づかないわけがありませんね。

以前、側室に男児ができたことを聞いた際にメイドの誰かから聞いたのでしょう。まあ彼女たちを責めることはできません。そもそもこの結論にたどり着くには様々な要素の情報が必要になります。

それらを10歳ほどの子供が集めて精査して判断するなど、ほぼ不可能です。それこそ神童と呼ばれるような子供出ない限り。

まぁ、とにかく。ライル様は恐らくこの旅で自分が危機的状況に陥ることはある程度予測されていると思います。であるならば、対応方法も些か楽になりますね。

「とりあえず、ミリアからサバイバル系統の話しをそれとなくさせておきますか」

私はそう呟きながら、シャーリーに対してのメールを端末で入力するのでした。



そうして迎えたお見送り当日。

予想通り、あの男は見送りには来ませんでした。あらかじめ調べておいた情報では、ヤツは自身の生まれたばかりの息子とのんきにピクニックらしいです。そのまま毒虫にでも刺されるといいです。失礼いたしました。

さて、お見送りにはもちろんウェルシア様も来られています。そして案の定というか、予想通りというか、ライル様にくっ付いて離れませんね。この引っ付き虫。

いい加減にライル様から剥がすためのリムーバーが欲しいところですが、今回は手持ちがありません。

それに今日はライル様へお渡しするものがあります。本当はウェルシア様からお渡しいただきたかったのですが、こうなる事が予想できていたのであらかじめ私が預かっておきました。私、できる子です。

「ライル様、こちらを」

私はライル様に一歩近づき、あるモノを渡します。

例の引っ付き虫はミリアに引き取ってもらいました。息子の事となると途端にダメになりますね、ウェルシア様は。

まあ、よいでしょう。万が一にもありませんが、今生の別れになるかもしれないのです。仕方がありません。

ですのでそのような恨みの視線を向けないでください、ウェルシア様。私は鬼ではありません。あと可哀想なのでミリアを睨まないでやってください。

「これは?」

私から受け取ったライル様はそれを見ながら問われます。

私が渡したのはペンダントです。その中には小さな赤ん坊を抱えたウェルシア様の画像があります。その画像は、ライル様が生まれてすぐに取られたものであり、ウェルシア様が嫁入り前から所持していた数少ない私物です。

「奥様からのお守りです」

そのペンダントにはある機能が詰め込まれていますが、使用方法は教える必要はありません。その持ち主の危機の際に自動で反応し、対応する。そのような代物です。

小さくありがとうと言われたライル様は皆に手を振りながら小さな宇宙船に乗られて行きました。

事前に考えられるところはすべてチェックしましたが、特に不審な点は見当たりませんでした。

しかしながら私でもプログラムやナビAIの中までを細かく確認することはできません。表層上であれば、それなりに心得はありますが、船を確認する時間が少なすぎました。それだけが心残りです。


宇宙船のハッチが閉まり、ドックから浮き上がります。

それにしてもシャーリー、あなた結局間に合いませんでしたね。後でウェルシア様に問い詰められても知りませんよ?

そうこうしている間にライル様の船は超空間ゲートに向かって進み始めます。ここまでくるともう見届けるしかありません。

「行っちゃいましたね」

どこかさみしそうにそう呟く後輩のミリアが近づいてきます。

取りつく先をミリアに変更した引っ付き虫もつれて、ですが。

「ええ、さて、私たちもそろそろ」

そう呟いた時でした。私の端末に一件のメッセージが届きます。

「・・・相変わらずタイミングが悪い子ですね」

噂をすればなんとやら。どうやらシャーリーが到着したようです。通りで、視界の端にいる宇宙港職員が慌てている理由がわかりました。

「ウェルシア様、遅くなり申し訳ございません。お迎えが到着したようです」

これで引っ付き虫から羽化してくれるに違いない。私たちの主として。

「ええ、そのようね。私の端末の方にも連絡が来たわ」

先ほどまでのダメっぷりはどこへやら。シャキッとしたウェルシア様の復活です。

「急いで準備致します」

「ええ、そのまま乗り込んでもいいかしら?」

「お気持ちのままに」

やはり、ウェルシア様のお気持ちはすでに固められているご様子。ではそう気に病む必要など微塵もありませんね。

「ミリア、ウェルシア様をお連れしなさい」

「かしこまりました」

ウェルシア様をミリアに任せ、私は港の職員を捕まえて段取りします。

急な船の来航です。いくら貴族専用港だと言っても急な来航にはある程度の段取りが必要になります。まぁ、今回の停泊はほぼ一瞬だけになるとは思いますが。


30分ほどそれらの雑事に走り回った後、ようやくウェルシア様に合流することができました。

さすがは辺境伯婦人という肩書。港のVIPルームを貸し切り、船の入港が完了するまでお茶を楽しんでおられました。ええ、私が汗水たらして走り回っている間に、ですね。いいんです、メイドですもの。

「お待たせいたしました、ご準備が整いました」

すでに船は貴族専用港に入港を完了している。残念ながら船員が下船することまでは認められなかったが、特権のおかげで入港には問題がなかった。

「そのようね。じゃ、一応一言だけ、言っておきゃなきゃね」

そうお茶目に呟くウェルシア様。その笑顔は幼少の頃によく悪戯をしたときの笑顔にそっくりです。

ウェルシア様は端末を操作し、とある人物へ通信を送ります。それも、大画面表示のテレビ通信です。これは私たちに見せる意図もあるのでしょうね。

『なんだ、いったい』

やはりウェルシア様がご連絡した先はあの男でしたか。

画面に映る男は30代前半の男で、この辺境領地の領主である男です。名前などさっき忘れました。

「ええ、ごめんなさいね。最後だからあなたに一言だけ言っておきたくて」

神妙な言葉とは裏腹にウェルシア様の表情はとてもよろしいです。笑顔です。満面の笑みです

『なんだ?・・・ん?なぜ港に帝国の船が?』

ようやく男の所に連絡が行ったようですね。まあ今更どうしようもありませんが。

「私、ウェルシアは現時点をもってあなたとの婚姻を破棄します。では、実家に帰らせていただきますので、ごきげんよう」

それだけでした。なんとすがすがしいお言葉。一度は行ってみたいセリフ第3位です。

ウェルシア様は言いたいことを言い終えるとすぐに通信を終了しました。そしてすぐに通信リストから男の連絡先を削除しています。なんと念の入れようでしょう。

それに、最後にですがあの男の呆けたバカ面を拝めたのも点数高いですよウェルシア様。

我らメイド一同、改めてご主人様であるウェルシア様に忠誠を誓いましたよ。


さて、さっさと引き上げますか。

あの男に今更何ができるわけでもないでしょうが、これ以上の面倒ごとは御免被ります。

それにすでに超空間ゲートに入られたライル様が気になります。早く追わねば。


それから私たちは急いでしたくし、到着した船に向かいます。

「お久しぶりです殿下。」

そこで私たちを迎えたのは男装の麗人、もとい私の悪友でもあるシャーリーです。

同性の私からみても中性的で薄い胸のせいでイケメン男性にも見える、女性です。ここ、間違うと死にますよ?主に殺されます、誰にとは言いませんが、彼女結構気にしているようです。胸部装甲があると色々大変なのですがね。

「ええ久しぶりね、シャーリー」

ウェルシア様もシャーリーとの再会は約12年ぶりになります。こちらへやって来る際もシャーリーの護衛でやってきたのです。まあ、その時の記憶は彼女にとっても非常に屈辱的でしょうが。

「さて、すでにライル様が出発されております。お急ぎください」

私的にはある程度旧交を温める時間が欲しいところですが、そうも言ってられません。

「ええ、そうね。ごめんなさいね、シャーリー」

「いえいえ」

ウェルシア様に会えたことがとても嬉しいのでしょうか。まぁ、気持ちは理解できますが、その辺にしておきなさいシャーリー。さもないとメイドから数名の流血者が出そうです。

急ぎ足で船へと駆け込む一同。その先頭をシャーリーの先導でウェルシア様と続きます。私はもちろんウェルシア様の隣です。

そういえば、この船の事をご紹介しておりませんでしたね。

大型船も停泊できる貴族専用の港でも少し狭そうにその船体を収めているのはシーウェルです。

全長は、確か1900メートルほどで、こちらの基準ですと大型船に分類される大きさの船ですね。流線形のフォルムを特徴としたとても美しい船です。

ウェルシア様がご誕生になられた際に建造されたウェルシア様専用の船です。

ええ、ここまでくればすでにお気づきでしょう。

「では改めまして、お帰りなさいませ、ウェルシア皇女殿下」

そう、ウェルシア様は皇族です。皇女殿下です。

この銀河連邦には帝国という国はいくつか存在しております。しかしながらここでと表現される国は一つしかありません。銀河広しと言えど、帝国の二文字がさす国は一つだけ。

「念願のお迎えの命を賜り、非常にうれしく思います」

今回のお迎え隊の代表であるシャーリーが代表で挨拶しております。

ちなみに、すでに船は出航中です。通された艦橋でオペレーターが港の職員と言い争いをしておりますが、問題ないでしょう。そもそもこの船を止める事などたかが辺境貴族にできるはずがありません。

「突然ごめんなさいね」

艦橋にあるウェルシア様専用のお席にお座りになったウェルシア様がねぎらわれます。

「いえ、このシャーリー、御用とあらば恒星の中までもお迎えに上がります」

相変わらず調子のいい事を言って。実際に恒星の中まで行ける船もありますが、この子の場合、普通の船でも行きかねませんね。

「ありがとう。じゃぁ早速で悪いのだけれど・・・・」

「ええ、把握しております。ご子息様ですね」

すでに状況は彼女に伝えております。その為これだけ短時間でこの辺境までたどり着くことができたのでしょう。それなりに無理をした移動でなければ、この速さでたどり着きません。

「ライルはもう超空間ゲートに入ってしまったみたいなの」

こちらでは一般的に超空間ゲート内で追いつくことはできないとの認識です。

しかしながら我が帝国ではそれはすでに過去の話し。具体的には数百年前の話しですね。

「承知しております。すでにビーコンは補足しております。すぐにでも追跡を開始致しますが、よろしいでしょうか」

「ええ、お願いするわ」

「はっ」

そうそう、帝国の話しの途中でしたね。

我が祖国である帝国は、この銀河連邦の宙域からは非常に遠く離れた場所にあります。いえ、こちら基準ではそうですね。

にお伝えするのであれば違った表現になります。

そもそも人類の発祥の地である地球、アースとも呼ばれておりますが。そこを聖域として中心に据え、恒星を挟んだ反対側にある人工の惑星が銀河帝国の首都星です。そこからすると、この銀河連邦と帝国から派生した集合体は辺境の星々をまとめた地点の国家群です。

距離的には1億と3千光年の距離ほど離れております。

そんなに離れた場所は辺境と言っても差し支えないでしょう。


さて、こんな場所になぜウェルシア様が嫁いできたのか。

本当であれば格下も格下である銀河連邦。それもいち辺境伯程度の家に皇族であるウェルシア様が降嫁された理由。これは非常に複雑で高度な政治的な御話しになります。

ですので改めてお時間があるときにお話しさせていただきます。


さてさて、ようやく追跡を始めたシーウェルですが、高速艦であるこの船でも流石にすぐには追いつくことなどできません。

時間的には3時間ほど、でしょうか。それほどの時間の差は如何ともし難い距離に置き換わってしまっています。

まぁ、このままであればライル様が一つ目のゲートから出られる前には追いつくことができるでしょう。

「船速、安定しました」

オペレーターの一人がそう報告してきます。

軽くうなずくだけで受け取ったシャーリーは、改めウェルシア様へ振り替えりました。

「ご子息様に追いつくまでには今しばらくお時間をいただきます」

「ええ、わかっているわ」

先ほどの別れの通信の時と違ってあまりお元気がありません。ライル様のことがご心配なのでしょう。かく言う私も同じですが、メイドたる者、それを表に出すことはありません。それでこそ、一人前のメイドです。

「2時間後には追いつくかと思われます。それまで暫しご休憩ください」

確かに、そろそろご休憩される必要があります。とても元気なウェルシア様でも流石にお疲れが溜まってきた頃でしょう。先ほどご休憩はされていたはずですが、まあ、よいでしょう。

「シャーリー、お部屋は?」

「もちろん準備している」

短いながらも久々の会話です。あまり変わっていない態度と返答は懐かしく思います。それに、こちらが必要とする事を即座に返してくれるのはとても助かります。

「ウェルシア様、お部屋へご案内致します」

流石に2時間もこの椅子に座らせておく訳にはいかないでしょう。

「ええ、お願いするわ」

ウェルシア様ご自身もお気づきの様です。皇族であるウェルシア様が艦橋に居られる事で気持ちが休まらない者もいるようです。

まぁ、私から言わせればそのくらいで緊張するな、と言いたいですが、それは酷でしょう。そもそも彼女たちはウェルシア様とは初めてお会いになる者達が大概です。

先ほどちらりと目を通した乗員名簿にある名前に記憶があるのは数十名ほどでしたので。

皇族専用船と言えど、十数年間動くことのなかった船に優秀な乗員を遊ばせておくのは合理的ではありません。そもそも皇帝陛下がお許しにはならないでしょう。

なので今回の様な急な出航には比較的若い乗員が乗り込んでいるのです。ああ、もちろん皇族専用船ですので、身元や能力はそれなりに高い方を選んでおりますよ。

そもそも彼女たち、恐らくはシャーリー直下の戦乙女ヴァルキリー隊でしょう。

彼女がそんなに軟に鍛えているはずがないでしょう。


ウェルシア様へお茶やお菓子をお出ししているとすぐに時間が過ぎました。

途中、例の辺境伯の悪口大会になりかけましたが、まぁ概ね女子会というやつです。その会にはもちろんシャーリーも召喚しております。

殆どが彼女とウェルシア様のお話しになりましたが。

そんなところで部屋に連絡が入ります。

「どうやらライル様の船を光学センサーで補足したようです」

待ちに待った一報です。

私たちは全員ですぐに艦橋へと向かいます。

やはり予想通り、ゲートの出口近くになってしまいました。が、追いつくことができてよかったです。

艦橋のメインモニターにはすでにライル様の乗る船が表示されております。約5時間ぶりですね。


ですがそんな私たちの安堵を奈落に突き落とすような出来事が発生します。

突如艦橋に鳴り響く警報。

「何があった!?」

その警報と同時にライル様の船が揺れます。

「民間船、進路逸れます」

その言葉を聞いた瞬間全員が思いました。

「バカなっ、なぜ進路を外れるっ!」

「船舶AIの誤作動かと」

「そんな致命的な誤作動があってたまるかっ」

シャーリーのいう通りです。恐らく、というかほぼ確実に奴らが仕掛けた罠に違いありません。でも、なぜこんなに早く動いたのでしょうか。

まだ自身の領土であるこのゲート内で事に及ぶのは、辺境伯にとっても諸刃の剣でしょうに。

「最大船側、有効距離に入り次第トラクターで捕まえろ」

光学補足しているとは言え、まだ距離があります。あのままの進路であれば、そう遠くない未来でライル様は異空間へ飛ばされてしまうでしょう。

この船であればそれでも助かることは可能でしょう。しかしながらライル様の船は民間船。それも小型に分類される船で、それくらいの出力ではそもそも異空間の圧力に耐えきれずに圧壊するでしょう。

「だめです、最大出力でも間に合いません」

悲痛の声が艦橋のそこかしこから上がります。それは私のすぐ後ろにいらっしゃるウェルシア様からも同じでした。

「ライルっ」

「くっ、高速艇で出るっ!」

決断が速いシャーリーはすでに別の行動を起こしているようです。小型の高速艇であれば間に合うかもしれません。

しかし、そんな願いも現実世界では無力だったようです。

「船より救難ポッド射出っ!」

「なっ、救難ポッドが進路を変更っ!?」

「救難ポッド、進路を超空間の狭間へ向けて進んでいますっ」

「救難ポッド信号より、要救助者1名を確認っ」

不幸な出来事は大抵立て続けにおこるのがデフォルト、なのでしょうか。私はこの時初めて神に祈りました。

「ライル様をお助けください」

そして私の耳にウェルシア様の悲鳴が聞こえる中。ライル様の乗る救難ポッドが狭間へ消えていき、続いて船も飲み込まれて行きました。

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