YUMESORA∞
「食らいなさいっ!」
先に動いたのはアキュートだ。
だがドレイクは拳を寸前で回避、
「甘いですわ!」
ローキックが火を噴くより速くアキュートは高く跳躍し、
ドレイクは腕を十字に組んで、垂直落下する鋭利な踵を受け止める。だがその衝撃は腕を伝って体の内部にダメージを与えたらしく、「ぐっ」と声を漏らす彼女の顔には苦悶の色が浮かんでいた。
「まだまだいきますわよっ!」
怯んだ隙を見逃さず、下ろした踵を再び振り上げると、今度は
「がはっ!?」
「今のは効きましたでしょう?」
技あり、一本。
どちらでもいいが、間違いなくこの一撃は重い。アキュートは余裕たっぷりに、倒れ込んだドレイクを見下ろしている。
「早く負けを認めてくださるのでしたら、私も寛大な判断をして差し上げますわよ」
「誰が、負けたなんて……!」
脇腹を押さえてドレイクは立ち上がる。
無傷ではないが、ダウンするほどのダメージは残っていないようだ。
一般人なら一撃で死、たとえ
その秘密はコスチュームにあるだろう。
ドレイクの胴体に走るスパンコールはただの飾りではない。彼女が持つ属性のひとつであるドラゴン、その
「手加減し過ぎたようですわね」
「じゃああたしも、少し本気を出そうかな」
にっ、と両者が口元を歪めると、工事現場の
ドレイクとアキュートがほぼ同時に駆け出す。
振り上げた右拳には、それぞれ
「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
拳と拳、炎と風が激突する。
巻き起こった爆煙が晴れると、そこには両者共に健在。互いに肩で息をしながらも、相手を射貫く視線に衰えは見られない。
属性を
「どうして、どうしてエルルを奪おうとするの!?」
「決まっていますわ。私は生徒会長を任されるほどの立場で、あなたは学校一の落ちこぼれ、お馬鹿さんですもの」
「ばっ、馬鹿かどうかは関係ないじゃん!」
「他学年の間でも有名ですわよ、龍崎ほむらさんは史上稀に見る頭の悪さだって」
それは、うん。認めざるを得ないな。
中学生レベルの勉強すら怪しいんだもの、どうして入試に落ちなかったのか不思議なくらいだ。
しかし、頭脳面をやり玉に上げると、アキュートにもブーメランがぶっ刺さる。詐欺メールもどきの指示に従い、個人情報を平気で打ち込んじゃう危機管理能力だもの。任せられなさは大差ないだろう。
なんて、どっちもどっち理論で納得してくれたら苦労しないし、指摘したらふたりからフルボッコにされそうだ。
「「アルギュレイスタクト!」」
今度はふたり同時に、銀の鍵を模した短い杖を虚空より召喚。
『-
『-
自身が司るカラーのボトルをはめ込むと、流れ出したインクが溝を伝って先端へとエネルギーを送り込む。
「ドレイクバーニング!」
「アキュートストーム!」
ドレイクが撃ち出すのは火炎弾。それに対してアキュートは、その名にふさわしく風で構成された鋭い
――ズドンッ!
再び炎と風が激突し、戦場一帯に衝撃が波及していく。ふたつの力が相殺されて発生した余波だ。オレは思わず目を
だが、ふたりは止まらない。衝撃波を掻き分けて突き進み、至近距離から火炎弾と三角錐を撃ち合い応酬している。
「生徒会長の言う通り、あたしは馬鹿だけど! エルルを守れないなんて、決めつけないでほしい!」
「決めつけではありませんわ! 守る役目は私がふさわしい、ただそれだけのことなんですのよ!」
「エルルのお世話はずっとあたしがしてきたの! だからこれからもあたしがするんだから!」
「勉強もろくにこなせていないあなたに! 学生と
「そう言う生徒会長だって! 吹奏楽部に所属しているくせに、ずっと幽霊部員だって知っているんですからね!」
「それは……えーと、生徒会の仕事が忙しいせいですわ!」
痛いところを突かれて動揺したアキュートの手がコンマ数秒止まる。ドレイクはその瞬間を逃さず即座に火炎弾を放つ。一呼吸遅れて三角錐で打ち消すも、火炎弾が目の前で爆発したため、アキュートの全身が黒煙で覆われる。
「これでとどめだよ、ドレイク――」
「アキュートストーム!」
黒煙に向けて必殺技を叩き込もうとした、その時。
ドレイクの真後ろにはアキュートの姿。その手に握られた杖から、鋭い三角錐がゼロ距離で放たれた。
「きゃあああああああああっ!?」
――ドガンッ!
背中に着弾すると同時に炸裂。
吹き飛ばされたドレイクは、荒れた地面を激しく転がっていく。
いつの間に背後に回っていたのか。恐らく黒煙が上がったタイミングで、既にその場を離れていたのだろう。アキュートは風の属性を有しているので、音速並の素早さで移動したと推測できる。
だが、それ以上に驚きなのが的確な攻撃だ。
回し蹴りは鱗のスパンコールに阻まれて威力を発揮できなかったが、今度の三角錐はがら空きの背中に撃ち込んでいた。スパンコールのない部分なので大ダメージは必至。
さすがのドレイクも戦闘不能だろう、オレは思っていた。
「まだ……あたしは、負けられない!」
しかし、彼女は折れていない。
コスチュームはボロボロで、特に背中は焼け焦げて肌が露出している。生々しい
それでも闘志の炎は消えずにむしろ燃え盛り、立ち上がる気力に変換されている。
「あなた、まだ戦うつもりですの……!?」
「ビビキューなエルルは、絶対あたしが守るって決めたんだもん。自分で決めたことは、なにがあってもやり通してみせるんだから!」
立っているのもやっとのはずなのに。
ドレイクの、ほむらの信念だけが、
「待たせたな
そこに水を差す声がひとつ。
決闘の場に乱入してきたのはひとりの少年と、化粧品を取り込んだ触手の化け物だった。
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