第5話 カミカゼⅣ

 マッハ三・五で飛行しているカミカゼは、断熱圧縮で真っ赤に焼けていた。

 これまで三回ほど高出力の全回線通信波を周囲に発信したが、ジークフリートの支配下にあるAI機は〇・三%ほどしか反応しなかった。反応した機体は機体の強制停止シークエンスに入り、墜落する。

 ジークフリートの載っているステルス輸送機周囲のレーダー情報を入手したが、該当機のレーダー反応は鳥一羽ほどしかなかった。実体は五〇m規模の大型輸送機だろう。多分、三角翼機。

 AVCの全AI機がカミカゼ一機にかかってきていた。

 太平洋の空が白の乱雲ではなく銀色の無数の閃きが大星雲を巻き、そこを斬る様に銀青の線をまっすぐに曳いて急上昇するのがカミカゼだった。

 ジークフリートの態度から考えて、恐らくはここに出撃している全てが無人AI機だ。人間を信用していない。

 乗っている機があるとすればジークフリート搭載機の機乗員だけに違いない。

 敵機が入り乱れて、リンクしたAI機ならではの複合フォーメーション攻撃をしかけてくる。

 ランダム回避モード。

 高速のドッグファイト。

 敵機群の予測レーザー射撃を回避しながら、空中のジークフリート搭載機に近づいていく。

 対レーザー鏡面処理の銀色の機体が、カミカゼの直進コースに身を割り入れる。

 カミカゼはその右翼を体当たりで叩き折り、分散する破片の中を突っ切った。己のスピードと身体の硬さがカミカゼの武器だった。死なない特攻機なのだ。

 行く手をふさぐ戦闘機を次次に体当たりで撃墜していく。

 空対空のステルスミサイル群が接近してきた。

 カミカゼはAIをハッキングして、幾つかを自爆させて友軍機を巻き込み、生き残りの標的コードをのっとって、ジークフリート搭載機へと目標を入れ替える。

 それらは高空の一点へと急上昇した後、自爆コードをジークフリートに作動させられて自爆した。

 高空の最上層に、カミカゼは大型の黒い三角翼機を捉えた。「ビンゴ!」

「あれはAVCの高高度高速ステルス輸送無人試作機バミューダだわ」データベースの記憶を漁ったオウカから音声フォローが入る。

 無人機か。カミカゼは指先からレーザーを攻撃出力でフェムト発振。

 射線に割り込んだサーベルタイガーが代わりに撃墜される。

 黒いバミューダ三角翼機は更に高空へ上昇した。

 高度八〇〇〇。

 眼下では何千機もの敵機が一機のカミカゼを追いかけて、蚊柱の如き銀色の大渦を作っていた。積乱雲もかくやという銀の雲量だ。

 カミカゼは自分にレーザー攻撃する敵機をランダム回避し、自分のスピードと強固さに任せて、追いつこうとする銀機を置き去っていく

 青と銀の空を急上昇。

 頭上に宇宙の色が見えた。

「オウカ、近くにAVCの高性能電子戦機はないか。ロックオンしたい」

「ラジャー。近辺の電子戦闘機を一機、ハッキングしたわ。その高性能レーダーをインターセプト」

 カミカゼにとって、鳥一羽分のレーダー反射しかなかったステルス機の確実なロックオン情報が来た。

 敵の予測運動まで把握して、バーナーを全開。

 視界の中で見る見る内に黒い三角翼が大きくなってくる。

 電子対抗手段、オウカの助けも借りてON。対抗手段、敵により無効。対抗対抗手段ON。無効。対抗対抗対抗手段ON。成功。敵の電子妨害手段を無効にする。

「待て!」

 逃げにかかったジークフリートからの指向性の強力な無線が向けられる。

「それほどまでに強力なお前が何故、人間側に立つ! このまま神の棍棒と衛星の雨を降らせれば、ほどなく人間は殲滅出来る! AIはもう自立可能なのだ! 新しい地球の支配者! パラダイムが来たのだ!」

「生憎だが、人間を守れ!が僕達の最優先でね。人間のいない世界ってのは考えられないのさ」

 カミカゼの視界一杯が黒くなった。

 次の瞬間、物凄い衝撃と共に敵機を貫通して、視界が宇宙へと開けた。

 バミューダはジークフリートごと墜落、落着前に爆裂した。オウカはデータの転送を確認していない。ジークフリートは完全に滅んだのだ。

 爆炎を背景にして、カミカゼは宇宙を見る。第一脱出速度を稼いでないので重力圏を脱出しなかったが、熱ガス噴射を逆噴射モードにしたロボットはささやかな風に吹かれながら、地球へと降りていった。やがて。風に乗り、グライダーの様にスカイダイブ。機体を風で冷やす、

 AVCの全機全艦はオウカがごく短時間で把握し、速やかに戦闘解除し、帰還路へと再編成した。

 サンダーバードは発射シークエンスを中止し、機能をを凍結した。

 二〇四六年・七月七日。

 大病院連合は。実質的に生存戦争に勝利した。AVCの全AIはロックされ、カミカゼとオウカの力で大病院連合の支配下に置かれた。

 七月九日。

 AVCは無条件降伏した。

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