第2.5話『メイアのお仕事』

 モリオが目覚めたその日は、メイアに家の中の説明をしてもらったあと、お互いのことについて会話をしていたら終わってしまった。


 次の日、朝早く起こされたモリオはメイアに連れられてメイアが仕掛けたという罠を確認しに行った。メイアは足音をたてずに人間には追いつけないような速度で森の中を進む。ついていけないモリオはお姫様抱っこされることになった。



 深い緑色の金属?のでっかい檻のような罠には、3メートルほどありそうなイノシシが入って暴れていた。メイアが檻を掴んで〈エレディン〉と呟くと、激しい音とともに檻から火花が散り、気づいたら暴れていたイノシシは倒れて痙攣していた。そのまま檻を開けて、イノシシの眉間に短剣を突き刺しとどめをさす。


(魔法やべえ。)


 モリオはビビりつつも強力な魔法に感動する。



 メイアはイノシシを近くの川まで運び、短剣で手際よくさばいたあと、持って帰る分の肉を川で洗い、ロープでしばって一つにまとめた。あとは帰るだけかと思いきや、突然メイアが指笛を吹いた。遠くから足音が近づいてきて、これまたでかいライオンのような…


(こいつたぶん知ってる、キマイラじゃね?)


 なんとメイアはキマイラを手なずけていた。キマイラにイノシシの残骸処理を任せて、モリオは肉と一緒に抱えられて家に戻ってきた。衝撃的な出来事が立て続けに起こって、モリオは言葉を失っていた。



 肉を倉庫にある大きな冷蔵庫の中に置いて、メイアは台所で朝食の準備を始める。冷蔵庫から卵と薄く切った肉、そして白くて平たい物体を取り出した。その物体を強火で炙った後、フライパンでベーコンエッグのようなものを作って物体の上に乗せた。コンロなどはなく、魔法で調理していた。

 モリオは完成した朝食にかぶりつく。平たい物体はおそらくジャガイモや小麦粉などをこねたもので、正直そこまで美味しいとは言えなかった。


(まずくはないんだけどな。)



 朝食を済ませると、皮でできた大きな袋とかごを持って、家から離れた場所にある草原にたどり着く。草原の真ん中には小屋が二つあり、片方にヤギ、もう片方にニワトリが二十匹ずつほど入っている。

 メイアが手をパンパンとたたくとヤギとニワトリが小屋から出てきてメイアの前に並んだ。


「あたしはミルクを絞るから、モリオはタマゴを回収してきてくれ。」


 かごを渡されたモリオはニワトリ小屋の中に入ってタマゴを回収する。フンがついていて触ることにかなり不快感を感じた。

 最後に小屋の中のフンなどをほうきではいて外に出し、家に戻った。



 タマゴは川で洗って、ミルクは鍋で煮たあと瓶に入れ冷蔵庫へ入れて、次は畑に向かう。



 畑は柵で囲まれており、結界をはっているため害虫や害獣は入ってこないそうだ。

 メイアが〈ミニレイン〉と呟くと、畑全体に数多の水滴が降り注ぎ、十秒ほどで水やりが完了した。その後、二人で食べごろの野菜を回収して家に戻った。



 野菜を洗って、倉庫に置いて、今日の仕事は終わりらしい。メイアの手際が良すぎて、昼前に終わってしまった。


(正直、俺に手伝えることなくね?)



- - - - - - - -


 風呂に入り、昼食を終えて、部屋に戻ったモリオは、自分にできることを考える。


「正直外での仕事は俺に向いてない、となればできることは家事か。魔法を覚えることが出来れば料理とかもできそうだな。そういえば、洗濯は…」



 キィーとドアが開いてメイアが部屋に入ってきた。


「モリオ、横になってみてくれないか?」


 言われた通りにモリオがベッドに寝転ぶと、メイアも隣に寝転び、モリオに抱きついてきた。まるで抱き枕を抱くかのように、その長い脚をも絡めてくる。メイアの体温が、胸の感触が伝わり、モリオの身体が熱を帯びる。


「やっぱりこうするとあったかいな。モリオ、良かったら夜も一緒に寝ないか?」


 モリオの脳内がフリーズする。美女と一緒に寝る、しかも毎日。そんな誰もが憧れるようなことを断る理由などない。ドキドキで言葉を発する余裕はないが、答えは決まっている。


「ひゃい。」


 返事をする際に声が上ずってしまい、モリオの顔がさらに熱くなる。フフッとメイアの鼻息がモリオの後頭部にあたった。


「ありがと。」


(ヤバああああああああああい、かわいいいいいいいいいい!)


 イケボなのに、なんだこの可愛さは。モリオの心は幸せな気持ちでいっぱいになった。



 モリオは、メイアの抱き枕を継続しながら役割分担を提案する。


「正直、俺じゃ朝の仕事の足手まといだから、メイアが仕事してるときは家で洗濯とか掃除をしようと思ってるんだけど、どうかな。」


「ん?別に足手まといだとは思ってないぞ。あたしは一人で作業するより、モリオと一緒にいる方が楽しいから気にすんな。」


 普通に賛成してくれると思っていたモリオは、予想外の返しに言葉を失う。


(ななななな、メイアってこんな男勝りなくせしてめっちゃかまってちゃんじゃねえか!ああ可愛いなあ!)


「あと、良かったら風呂も一緒に…」



 結局、仕事も風呂もメイアと一緒になった。母親以外の人と接したことがないためか、距離感がバグっている。異世界といえど絶対に普通じゃないのでしっかり教えないといけない。


(ま、俺はメイアの非常識のおかげで得したんだが。)


 そして会話の中で、明日から魔法やこの世界の文字について教えてもらう約束もできた。魔法を自分が使えるようになると思うとワクワクする。

 

 

 しばらく会話を続けたあと、二人とも寝落ちして、目覚めた頃には夕日がさしていた。


「あ、洗濯物取り込まねーと。」


 メイアの呟きを聞いてモリオは、あることを思い出す。


「そういえば、俺がもともと着てた服は?」

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俺のチート能力…、ポケットティッシュに付与されたんだが!? 竜クリーム @creamdragon

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