第12話 誤解してる子


 福岡に転校して僕は迷っていた。

 それは部活動のことだ。


 幼いころから、兄ちゃんの『モテない』に部活のことでよく注意されていた。


「童貞、いいか? 中学に入ったら部活はバスケとサッカーだけはやめておけ」

 険しい顔で僕に注意する。

「なんでぇ~」

「鼻をほじるな! ちゃんと真面目に聞け!」

「うん~」

「あのな、バスケ部とサッカー部の奴らは、真面目に部活動してる男たちはいない!」

「え、どうしてぇ?」

「だから、鼻をほじるな! というのもだな。兄ちゃんは野球部で丸坊主だった……だから女の子にモテなかった。だが、兄ちゃんがグラウンドで練習している隣りで、サッカー部の奴らが試合してるとたくさんの女の子たちが『キャーキャー』言って、モテやがる……」

 それを聞いた僕は不思議に思う。


「モテるならいいじゃんかぁ」

「バカ野郎! 奴らは長髪のナンパ野郎、いや、ヤリおてんてん野郎どもだっ!」

 その時の兄、モテないは見たこともないぐらい怒った顔をしていた。鬼のような怖い顔。

「なんだってぇ!?」

「つまり、バスケ部とサッカー部はヤリサーだな……兄ちゃんが惚れた女の子たちも全員盗られた。奴らはきっと部室で、乱交パーティーをしているに違いない。だから、童貞。お前も好きな女の子ができたときは、近づけるなよ。そしてお前自身もだ」

「えぇ……」

 

 今、考えると、兄ちゃんはモテないから、ひがんでいたのだと思う。

 だから、僕は変な洗脳を受けてしまった。


 でも、坊主は嫌なので、野球部は避けて、陸上部を選んだ。


 入って間もないころ、先輩たちに歓迎と称して、一年生全員がジャンケンをさせられた。

 罰ゲームだ。

 負けた生徒が、近くに転がっていた破れたバレーボールを『ヅラ』として、頭に被り、変態おじさんになる。

 そして、同じ運動場で練習していた女子テニス部に行き、上級生の生徒に「すいません、乙ぱい揉ませてください」と言ってこい、と命令された。

 上級生だから、僕たち一年生は逆らえない。


 だが、僕は少し期待してしまう。

(これって、まさかパフパフできるチャンスの到来では?)


 僕がジャンケンで負けしまう……キターーーッ!


 長距離を選んだのだが、僕は短距離に向いているようで、先輩たちが驚くような速さで運動場を駆け抜ける。


 そして、テニス部の女子生徒たちに声をかけた。


「あ、あの……おっ、おっ……」


 勇気を出して言おうとするが、相手の女性陣は、もう何回も突撃されているので、冷たい目で僕を睨みつける。


「はぁ、君。陸上の一年生でしょ? バカな先輩のいいなりでいいわけ?」

「また来たの? バッカじゃない!」

「男って本当、いやらしい……」


 背の高い年上の女性陣に囲まれた。


「おっ、おっ、おっ……」


 緊張してそれ以上は、言えなかった。

 だが、そんなことよりも、僕は目の前に釘付けだ。


 だって、中学生とは言え、相手は3年生。

 たった二歳年上というだけで、こんなにも発育しているなんてっ!?

 体操服姿とはいえ、けしからん大きさのお胸だ。


(大きな乙ぱいが三個……いや、正確には六個か……)


「ねぇ、聞いてんの?」

「この子、鼻息荒くてキモいんだけど」

「なにが言いたいの?」


 年上のお姉さんたちに、汚物を見るかのように蔑まれるこの状況……。


 何か別の扉が開く、音が聞こえてきた……。


 このお姉さん達、僕をショタっ子として、めちゃくちゃに踏んづけたいんだっ!

 と、思った瞬間だった。


「あ、あの……童貞くんだよね?」


 女子の先輩の後ろから、一人の女子が現れた。

 見た顔だ。

 同じクラスの植田 下子うえだ したこさんだ。

 日焼けしていて浅黒い。

 体つきは華奢で、おっとりとした性格。

 今、気になっている森盛さんとは、また違う魅力を持っている。

 森盛さんが低身長のカワイイ系とするなら、植田さんは、ぐんぐん発育中のキレイ系。

 だが、胸はまだ未発達。微乳と表現すべきか。


「植田さん、この子と知り合い?」

「ハイ。童貞くんは、同じクラスの男の子です! 多分、悪い先輩に言われて、無理やり来たんだと思います!」

 かばってくれているようだが、僕はこの状況を楽しんでいたというのに。

「真面目な植田さんがそう言うなら……。童貞くんだっけ? もう陸上部に戻りな。男の先輩たちには、私たちが先生に叱ってもらっとくから」

 僕は肩を落とす。

「は、はい……すみません」


 そう言って、その場を去ろうとしたその時だった。

 植田さんに声をかけられる。


「童貞くん! あの……もう、こういう事はしない方がいいと思うよ」

 小さな、いや微乳の前で、祈るように両手を重ねていた。

「え、どうして?」

「だって、童貞くんって真面目な人でしょ。いつも授業中に一生懸命、教科書を読んでいたの、私、後ろから見ていたもん!」

「……」

 返す言葉がなかった。

「なんか、いつも難しい顔して、顎に手をあててさ。出題された問題を何度も何度も繰り返し読んでた……すごいと思う。だから、悪い先輩の言いなりにならないでっ!」

「……あ、うん。とりあえず、僕は戻るよ」

「うん、ファイト! 童貞くん!」



 熱弁する植田さんを見て、僕はなにも言い返せなかった。

 だって授業中、顎に手をやって、教科書を睨んでいたのは……。


『あれぇ……超わかんねぇ。なんで、みんなスラスラ書けてんの?』

『よし、問題解くのあきらめよう。授業終わるまで放置。“考えるふり”でもして、昨日見たブーミンのグラビアでも思いだそう♪』


 が、事実だったからだ。


 はっ!? 後ろからじっと僕を見つめていた!?

 あの子、間違いなく、僕に惚れているに違いない!


 福岡に来ても、二人も女の子を落とすとは、罪深い男だな……。

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