明けて、翌朝。


 公達は、静かに襖を開ける。


 初めて、骸が骸と見えていた。容貌は整っているが、それだけだ。

 憑き物は去っていた。

 男を門にして、旅立ったのだ。美しきものを覚えて。


「風聞ならば、吾もしたさ」


 誰よりも美しい姫がいる。ただ、それだけである。

 それだけで、この際は事足りた。


「報せぬわけにも、いくまいて……誰か、誰かある」


 かくして、父母は娘の死を知った。

 骸は手厚く弔われ、公達は法華経を写しながら、禊祓を終えた。


 仕上がった法華経の横には、一首の歌があった。

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骸姫奇譚 豆苗わかば @catfist

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