第七恋 カチッとハマったオタク君

 ああ、好きだな。

 そう思った瞬間、心がハマった感覚がした。凸と凹がカチッと子気味の良い音を立ててハマって、そのままどっくんどっくんと力強く脈を打つ。余りに力強いから痛くて息ができなくていっそ止まって欲しいのに、それがひどく心地よい。苦しい苦しい苦しい痛い痛い嬉しい嬉しい楽しい苦しい息ができない痛い痛い痛い。脈に慣れてもひたすら心が痛くて苦しい。なのに甘くて溶けてしまいそう。人間歴19年にして初めて味わったその感覚が、また蘇った。これが恋と言わないのなら何なのだろう。不整脈か心臓発作か。何にしても救急車召喚不可避だ。

 俺の人生初の心臓発作のお相手は、大好きな幻獣擬人化学園コンテンツの中の青龍キャラ(♂)。今までのどの推しの特徴にも当てはまらないけれど、一人の人間(?)として好きになった。その事に気がついてから公式ゲームにも二次創作系巡回にも力が入って、必然的に悶える機会も増えた。既に「好きなコンテンツのBL及びGL二次創作」「夢属性」という己の対戦車用大地雷を踏み抜いているからか、このコンテンツに関しては大分雑食になった。いやそれでもCPとかで地雷はまだ残っているけど。世界から地雷が無くならない理由はその簡単な製造過程と設置方法と威力だ。

 公式が出している簡易マンガに二次創作を加えた作品で、そのキャラは小さい子どもが苦手でプレイヤーに助けを求めるタイプだと描かれていた。

 「おい、見てないで助けろよ」

 ともすれば高圧的に聞こえるその台詞を困惑顔でプレイヤーに言う。そのシーンで、自然にスルッと思った 

 ああ、好きだな。

 

 公式の延長線上とはいえ二次創作は二次創作。実際そのようなキャラの行動もイベントも台詞もないが、それでも、そのキャラらしいと感じたし、もっと言えば何回目かの惚れ直しをした。解釈違いはもちろん認めるどころかドンと来い。原作派の抗議も全て受け入れる所存だし素直に怒られよう。

 でもさ、好きになっちゃったものは好きになっちゃったの。もう変えられないの。

 誰にともなくそんな声を心の中で上げた。その間も心臓はバクバクしていて倒れそうなくらいだった。

 個人的な意見として、夢属性しているオタクはオタクじゃないと思っていた。だってそのキャラが恋愛として好きなのって、オタクじゃなくてただの懸想じゃん。普通の恋する人と変わらないじゃんって。あ、炎上は勘弁して下さいお願いします。ぶっちゃけまだそれは思っていて、じゃあ自分は何なんだと聞かれればとても困るのだけれど、やはりそのキャラがオタクとして好きだとは言えなかった。純粋に、ただ一人の人物(?)として好きだとしか言えない。

 何かが欠けていた所に寸分違わない何かが合わさる。俺が初恋を通して得たのはそんな感覚だった。息苦しくて痛いのに甘くて気持ち良い。今までどんな推しにも持たなかった感情がそのキャラを相手に溢れて止まらない。

 すっごいじゅーしょーじゃん、おれ。

 赤くなる顔も早い脈も壊れそうな心臓も、全部あのキャラのものだ。そう考えて、先日俺は恋愛に関しては重いとの知見を得たばかりだが、案外間違っていないらしいなと思った。

 

 

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