エピローグ

エピローグ

人生は、高速道路のようだと僕は思う。

全部同じスピードで走っているかのように思うが、実際には各車によって遅かったり、少し速かったり人を追い越したり、追っかけたり、とある場所で分かれる人もいれば、新たに出会う人もいたりする。

また、トンネルのようにライトに照らされて明るくて楽しいこともあれば、陰になって少し暗い気持ちになることが交互に起こることが多かったりする。


今僕は、単にライトから離れていて暗いだけなのか、それともこれからの方がとても明るくて、眩しくて目が眩んでいるのかもしれない。これはどっちだろうか?これからのことは僕にも、誰にも分からないだろうと思う。今後、もしこの人生のトンネルから出ることができたのなら、ずっと自由に誰にも縛られることなんかなく自分のスピードで走り続けていきたい。

そして、可能ならば夕暮れの雨の中でまたに会いたいなぁ、なんて思ってしまう。

魔法はいつかは溶けてしまう、なんてことはわかっているはずなのに....、

それでも、もう一度その魔法に....恋の魔法にかかりたくなってしまう。


そんなことを思いながら生活しているうちに気がついたら夕雫の死から6年もの月日が経っていた。あの後、彼女が望んだとおりにした結果、街の復興が著しく進み、街でまた暮らせるまでになっていた。全てはあの子が教えてくれた事が無かったらなし得なかっただろう。僕たち(僕、汐音、碧唯、湊本さん、紗矢)は大学を無事卒業し、社会人1年目になっていた。

時の流れは相も変わらず早いものである。今日は彼女の命日で、後で碧唯や汐音たちと合流して改めて参りに来るんだけど、何となくその前に一人で行こうと思った、というか行かないといけないのではないかと思った。そして、一人でぼんやりとだけど、甘くて苦しくて切ない、いかにも青春!っていうあの夏のことを思い返していた。


そして、今はそのまま昔に何度も行き過ぎていて未だに足が憶えている、いつもの図書館への道をダラダラと歩いていた。待ち合わせ場所なのだが、時間よりもだいぶ前に来てしまった。

まぁ、昔のようにぼんやりと見回っていればいいかなとかと気楽に考えていると、急に雨が降ってきた。『雨が降るっていう予報じゃなかったのに!』と心は不満たらたらながら、急いで図書館へ入る。結果としてはだいぶ濡れてしまった。一応持ってきていた自前のタオルで拭きながら、館内を散策していた。


自然と足はへと向かっていた。それは、夕雫がいつもいた奥にあった長机だった。

そして、あの子の定位置には、もう何度も見て見慣れていた彼女の姿があった。頭ではわかっている。この子はもういないって、分かってる。分かっているのにどうしてこんなに嬉しいんだろう?自ずから「夕雫?」と呼んでいた。その声で彼女は振り返り僕がここに来るのを知っていたかのように微笑んだ。その笑みを見た途端、視界が曇り始めた。

あぁ、この子には負けてばっかりだ。今回も彼女に魔法にかかってしまったみたいだ。

涙を拭き顔を上げると彼女はもういなかった。


それでも、僕の心はすっかり暖められていた。『本当にありがとう。たぶん僕は君に出会うために生まれたんだと思う。だから、君に会えてよかった』なんかってちょっとカッコつけてみたりしていたけど、知らず知らずのうちに黄昏の空に掛かっていた虹へ会釈を返していた。

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君に会えて良かった 紫泉 翠 @sorai_4572_

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