第4話 甘い夏祭りと日常崩壊へのカウントダウン③

「うーん、なんか雲行きが悪いねぇ。花火が中止にならなきゃいいけど...」とまぁ、なんか女の子っぽいことを言い出されたのは一番後ろからゆっくりと石段を上がってきている碧唯だ。

『まぁ、女の子っぽいとかって僕が言ったら絶対にどつきまわされるので言わないけどさぁ。僕だったら、嫌がるけど、汐音が言ったら喜ぶんだよなぁ...ちょっと気に食わんが、付き合ってるっていうのはそういうことなのかな?僕には分からぬわ。』とかとボヤいといとく、もちろん心の中でだが。

すると、隣を歩いていた夕雫が忍び笑いしてた…。多分、読んだんだろうな。こんなにも力使って大丈夫なのか?前みたいに、入院しないといけない、なんてことないよね?頼むからそんなことはやめてくれよ?とふと思っていたら、お隣の顔が一瞬蒼白になったと思ったら、真面目そうな顔になって『何もないぞー』と言わんとしている様な顔になった。そんなことしても見たちゃったからなぁ…と、考えていたら頂上まで着いていた、即ち神社に到着していた。


「花火大会は何時からだったっけ?」と、皆に問いかけつつ、後ろを向いた…のに誰もいなかった。あれ!?どこ行きやがったんだ、あいつら?

「令央ー、こっちー!」と明後日の方向から汐音の声がした。いつの間にか、屋台の方へ移動していたようだった。といっても、屋台は後回しらしく先に本殿へ参りに行くようだ。


夏祭りで、本堂に参るのはいつぶりだろうか。父の仕事が忙しくなり、家族全員で一緒に夏祭りに行けなくなってから以来だと思う。父は夏祭りだろうが、お彼岸だろうが、初詣だろうが、仕事だろうが、なんだろうが神社やお寺に行ったならば、絶対に本堂に参る人だ。だから、一緒だと毎回参らなくてはいけなかったけれども、今や家族でそろって神社なんかには行かなくなっているし、それぞれの時間を持つようになって、生活の仕方も変わってきたから、こうやって誰かと一緒に行くこと自体も何かと久々なんだよな。

とかと悶々と考えていましたら、ドンッ! 「いったぁ...」と目の前で女性が倒れていた。というか、これ絶対に僕にぶつかった感じだよねぇ?なんか最近人に良くぶつかるんだよなぁ!湊本さん然り、この女性然り、なんだけど...。なんでだよう!なんか俺悪いことしたぁ?とか思っていて、彼女を助けるの忘れていたら、横から女の人の連れらしい人が来て「大丈夫か~?ちゃんと前見て歩かないとダメじゃんwww」と言って、彼女に手を差し伸べていた。

『かっこいいなぁ、紳士かよ。』と、心で突っ込んでおきまして、彼氏さん?の言葉が僕にも向けられている気がして、少しへこんでいながらも謝ろうと顔をあげたとたん、容赦ない平手打ちを食らい左頬が、悲鳴をあげております。『ものすごくイテェ!夕雫との比じゃないよ、これ!てかさ、なんでこの人急に殴ってくるのさ!彼女さんにぶつかっちゃったから?だから?でも、急には止めてくれよぉ!』と心でも悲鳴上がりっぱなしでしたけども!


そんなことを何で感じ取ったのか。夕雫たちがこちらへ駆けよってきた。

「えっ?大丈夫?」と心配しているのは、汐音。お前ってどことなく女子っぽいよなぁ。

って、それは今どうでもよくて、頭からこのことはいったん引き離そう。そんでもって、苛立ってしまっている彼氏さんにどうやったら許してもらえるのだろうか…。と頭を悩ませていると「おおー、いたいた!なんでこんなとこにいるんだよぉ。ここ待ち合わせ場所じゃないぞ。」と聞き覚えがある声が少し離れたところから、こちらに、というか彼氏さんたちに向けて発せられていた。


うん?あれ?ちょっと待てよ。この声、聞き覚えがあるんだけどなぁ...。ああ、そっか。分かったわ、誰の声か。聞き覚え在りすぎてげんなりするくらいなんだが…。そう思っている間に先ほどの声の主が、こちらに来たらしい。「おい、なんでこんな人ごみの中なんだよ...。ってあれ?令央じゃん!どうしたんだよ。こいつらとぶつかったのか?」と人が多く身動きがあまりうまく取れないため不満たらたらでやってきたのは、我が兄、龍一であった。


その後を追うように来た女性が「リュウ君、早いよぉ。まってぇ」と泣きすがるようにくっついていて、僕はその人を見て、『ああ、やっぱりこの人と来ていたか。』なんてのんきに考えていたりした。というのも、この人は...


ぐへぇ!?気がつくと兄にくっついてきた女の人がバックハグの要領で頭わしゃわしゃし始めたのだ。なんで我が家関係の女性陣は頭をわしゃわしゃするのがお好きなのだろう...。 「わぁい!令央君だぁ!久々だねぇ!背伸びたぁ?」なんて感じで天然さんなんですな。そんな様子に戸惑ってのか。彼氏さんたちは兄たちに、そして、当然の如く訳解ってない汐音たちは僕に事情を聴きに来た。


「どうなってんだ、これ?お前あの人たちの知り合いなのか?」と問われ、

「えっと、ぶつかっちゃった方の人は知らないけども、後から来た人は嫌でも知ってるよ...」と苦笑いで答えたが、やはり、いまいちわからないようだ。

みんな混乱しているような顔をしている。そりゃそうだなぁ。えっと、どうして説明しようかと思っていたら「おう、説明終わったかぁ?」とのんきな兄が来ました。「終わるか!兄貴たちが急に来るから僕の方も整理が付いていないんだよ。」と反論。

「ああ、そうですか。えっと、俺は令央の兄の龍一だ。そんでもって、こっちは俺の彼女の白縫しらぬい 花だ。よろしくな。」と軽くあいさつを交わす。こういうのは兄の得意分野だったりする。「どうせ、本堂行くんだろ?だったら一緒に行こうぜ。」と人の気持ちが分からない特性からか、今一番言ってほしくないことを単刀直入に言いよって...もう、どうにでもなれ。


そんなこんなで、本堂への道中「そういえば今日なんか星多いねぇ。」と花さんが何となくだとは思うが言ったことが、きっかけで僕らはこれから起こる恐怖の一部を知ることになる。

「そういえば、今日って何千年かに一回のペースで地球に大接近する彗星が日本上空を通過するんだってな。」と汐音が何でもないことのようにつぶやく。

「なんでそんなこと知ってるの?」と碧唯。普通に気になるだろうなぁ。こいつそういうのに興味なさそうだし、でも多分あいつからの情報だろうなぁ。「うん?モグリからの情報だよ。」と呟いた。ああ、やっぱり。『モグリ』というのは汐音の友人で天体オタクの守口 凌空もりぐち りくのことを指す。

「ふーん、その彗星こっちに落ちてこないといいねぇ。」とそっけなく言った夕雫の言葉がこれから起こることを暗示しているとは、まだ彼女以外の誰もが気づいていなかったのだった。

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