第5話 二日酔い探偵現る②

「初対面でなんだが、僕の調査を手伝ってくれないか?」


癖毛で膨らんだ頭の探偵はいちごのシェイクを片手に、そう切り出した。三人は場所を変えて、近くのファストフード店に移っていた。商店街の中にある店舗で、二階の奥まった席に腰を下ろしている。テーブルの上には二人分のドリンク、ポテト、そしていちごのシェイクが一つ置かれている。いちごシェイクを飲んでいる怪しげな中年男性という組み合わせに、祐実も勲も違和感を覚えていた。


「手伝い?」


 セットメニューを目の前に勲は腕組みをして聞き返した。


「やりたい!やってみたいです!」


 祐実はポテトを頬張りつつ挙手して言った。


「お前なぁ、もうちょっと考えてから言えよ」


 呆れた顔で勲は祐実に言う。


「それで手伝いってどんな?」


 祐実は勲にはお構いなく探偵に訊ねた。


「さっき見せた絵というか落書きのようなマークだね。あれについて学校とその周辺で調べてきてほしいんだ。詳しくは話せないが、僕はあのマークを描いた人物を探していてね。色々手がかりを探っているんだ」

「おもしろそう~」

「紺藤、そんなことしてる暇あるか?お前成績あんまりよくないんだろ」


 勲は釘をさすように言った。


「ゔ~~」


 祐実は思い出したくなかった勉強のことに思わず呻いた。


「そんなに難しく考えなくても良いんだ。先生とか知り合いの子たちに、いつから落書きがあったのかとか、書いた人を見たかどうか、とかそんなことを聞いてくれれば大丈夫さ」

「まぁそのくらいならできるかな」


 祐実はもう一本ポテトを手にしながら言った。

「もちろん謝礼はさせてもらうよ。そうだなぁ…この店のバイトの時給の1.5倍の金額を出そう」

「やるしかないでしょ」


 祐実は声を弾ませた。


「俺はやめた方が良いと思うぜ…」


 横で勲が唸るようにして諌める。


「別に彼女一人でも構わんのだが、君はどうする?少年」


 探偵は興味深そうに、面白がるように薄笑いを浮かべて訊ねる。勲は何か見透かされたような気分になった。しばし黙考して、


「ちぇっ、しょうがねーな!俺もやりますよ」


 投げやりに言って、勲はポテトを数本一気に頬張った。


「やった!」


 祐実は勲の肩を手でたたく。


「…交通費とか出た場合は実費で請求していいすか」


 釈然としない表情で勲は、ポテトを食べながら事務的なことを言った。


「実費て…君本当に高校生かい?もちろんOKだが。ま、よろしく」


探偵はニコリと笑った。


「さて、君たちには一つ守ってもらいたいことがある。仕事で知り得た情報を他人に勝手に教えちゃいけないってやつだ。俺の仕事では依頼主以外には漏らしては駄目なんだ」

「守秘義務ですね」


 祐実は得意げに言う。


「俺たちに話しても良いんですか」

「君たちは今から俺の仕事仲間だ。いわば同じ会社の同僚だな。仲間内なら問題ない。そう、仲間というか部下みたいなものかもな」

「探偵の助手ってことですね!」


 祐実の声は完全に弾んでいた。


 一方で勲は不満げな様子で事の成り行きを傍観していたが、祐実の活き活きとした雰囲気に半ば諦めかけて、「あー、もう」とため息をついた。


 かくして、怪しげな探偵と高校生の調査チームが出来上がった。

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