第39話 シア島 (キュン1)
ボルジア家の商船が思った以上に有能で3時間でシア島近くまで行くことができたのだ。
そこから手漕ぎボートに乗り換えたのだが、魔法で船を押した。
飛ぶよりもずっと簡単なのに、誰も思いつかないなんて自由な発想力に欠けている。
シア島は火山島だけあり、綺麗な丸い形をしていた。海岸線から頂上まで火成岩でできており、一見もろいように見えるが固く表面がゴツゴツしている。
「アンジェラ、転んだら危ないから」
ボートから島に上陸した途端、レイモンドが私を抱きかかえる。
最近のお約束すぎて怒る気もしない。
「レイモンド鬱陶しから離して」
「だが……」
「これを見て!」
私は横抱きにされたまま膝まである皮のブーツを履いた足を高く上げた。
「これは滑り止めにダイヤモンドの屑を靴底に練り込んであるの」
レイモンドが何でそんなことをしたんだ? と言う顔をしているが、雪国の常識である。氷の上でも滑りにくい。
「しかも、この乗馬服はニット素材で作られた優れものなのよ!」
「どう見ても毛糸のセーターに見えないが……」
「素人ね。ニットっていうのは1本の糸でループを作りながら編まれた生地のことなの」
現代では珍しくない生地だ。伸縮性や着心地が良くシワになりにくい。
とにかくコスプレ……じゃなかった、体を動かす洋服の素材にぴったりなのだ。
「だから?」
「だから、転んでも大丈夫。それに怪我をしてもコートニーがいるし」
「はい、もちろんです。ち、治癒の腕もかなり上がりました。腕がもげてもすぐにくっつけます」
おお〜。
コートニー、自信がついてきたからかスラスラ喋れるようになったじゃない。
「そうだな。この岩場じゃ横抱きの方が危ない、どうせならおんぶが一番いいんじゃないか?」
アスライが明後日の方向でアドバイスをくれたところで、レイモンドは私を地面に下ろした。
「では、私はコートニーと二人でドラゴンの巣を偵察してきますので、アスライ殿下とレイモンド、ララはここでおとなしく待っていてください」
「はぁ? 何をいいだすんだ、そんなのダメに決まってるだろ」
「静かに!」
私はレイモンドの顔の前に手を突き出して静止する。
「人の話はきちんと聞く。私とコートニーがなんの作戦もなくこんなところまでのこのこ来たと思いますか?」
「この数ヶ月魔法の訓練をしていたのは知っている。だが、とても勝算があるとは思えない。相手はドラゴンだぞ?」
「魔法の特訓は念の為です。それ自体が作戦ではありません」
「じゃあどんな作戦なんだ?」
「それは企業秘密です」
ふん、と横を向くとレイモンドはいきなり私を肩に担ぐと向きを変え船に向かって歩き出した。
「ちょっと、下ろしないさい!」
「ダメだ。どんな作戦でも令嬢二人だけでなんて行かせられるわけないだろ」
私はバタバタと手足を動かして抵抗したが、レイモンドはびくともしない。
仕方ない。ここで帰るわけにはいかないから。
私は今までの練習の成果をレイモンドで試した。
ピタリと、レイモンドの動きが止まる。
「へー面白い魔法だな」
なんとか動こうともがくレイモンドの横でアスライが感心して嬉しそうな声を上げる。
「面白がっていないで、なんとかしろ」
「君に解けない魔法が、私にどうこうできる訳ないだろ」
「アンジェラやめるんだ」
「やめるのはレイモンドでしょ。私を下ろして」
「……」
「レイモンド、諦めた方がいい。これはただの動きを封じる魔法じゃない。君だってわかっているだろ」
「……」
「君の婚約者はかなりの魔法のセンスがある」
こんな楽しそうなアスライを初めてみた。
これはチャンスじゃない?
「この方法はコートニー様が考えだしたんです」
「彼女が?」
アスライの視線がコートニーを捉えた。
聖女に無関心であることを隠そうともしなかったのに、今は面白いものを見るような瞳で目を細めている。
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