第22話 魔法が使えそう!! (キュン2)
「おい、痛いからやめろ」
レイモンドはララの腰をギュッと掴み、高い高いでもするように自分から引き離す。
ララはそれでもバタバタと手足を動かしてレイモンドをもう一発殴ろうとした。
「この本は魔力を注ぎ込んで作ったニャ。運命も変えられるほどの力をくれるニャ」
「ちょっと待ってララ、それはどういう意味?」
私は暴れているララのひらひらのスカートを引っ張って尋ねた。
髪の毛と一緒に逆立っていた尻尾の動きがぴたりと止まる。
「もしかしてアンジェラは知らないニャ?」
「何を?」
「アンジェラを主人公に選んだのは、ものすごく不幸な運命を持っていたからニャ」
「それって呪いのことよね」
「違うニャ」
え? 違うの?
じゃあ、呪われてなくても不幸な運命ってこと?
それってちょっと悲し過ぎない?
「主人公が不幸なほど、最後のハッピーエンドは感動するニャ。でもそれには不幸に対抗するだけの力が必要だニャ。だから力をこの本に注いで主人公が使えるように応援したニャ。おかげで、今ララはほとんど力が残ってないニャ」
「つまり私は魔法が使えるってこと?」
「そうニャ」
うそ、うそ、うそ。すごい!
ファンタジーの世界に転生したことだけでもすごいのに、自分で魔法が使えるなんてめっちゃついている。
ん?
でも待って。
「昔、神殿で魔力検査を受けたけど、使えるほどの魔力はないって言われたわ」
魔力がないのに、魔法って使えるの?
「こいつに本を渡すから、アンジェラはまだ魔法の章を読んでないニャ」
あえて、こいつ発言は無視する。
「それはどこに書いてあるの?」
ララは走ってベッドに飛び移ると本のページをめくり指さす。
「ほらここ読んで」
「アンジーは女神から祝福を受け取りました」
昔は気づかなかったけど、アンジーはアンジェラの愛称だ。本当にこの本って私がモデルなのね。そう思いながらララに言われた通り、声に出して読み上げた。
その途端、魔力が身体中溢れ出す。ってことはなくて。
さっきまでと何も変わらない。
やっぱり、そう上手くはいかないわよね。
はぁぁ。
とため息をつくと。
なぜかララは目をキラキラさせて「やったニャー」と大喜びする。
「魔力は感じないけど?」
「アンジェラって、意外に鈍いニャ。もう長いこと猫の姿でそばにいたのに全然気づいてくれなかったニャ」
「確かに、俺なんて何度も好きだって言ってるのに、未だに信じてもらえてないんだぞ」
なぜかレイモンドにまで責められる。
誤解はしてたけど、誤解するようなことをしたのはレイモンドなのに。
しかも、あのニヤけた口は絶対に私を揶揄って楽しんでいる顔だ。
これからも揶揄われないようにこの際、思いっきり拗ねてみる?
いや、まずは魔法だ。
「ララ、私魔法が使えるようになったの?」
「そうニャ。身体中がララの魔力で満たされてるよ。でも、このまま使ったら暴走するニャ」
「あり得るな。少し練習が必要だ。今日は遅いから明日からこっそり俺と練習しよう」
レイモンドが私の頭を慰めるように撫でる。
「こっそり? お父様に報告すれば魔法の先生をつけてくれるわ」
「それはやめた方がいい。魔法のことを話せば本のことやこいつのことも説明しなくちゃならないし、何より王妃の暗殺者に狙われたときの武器になる」
あー。
王妃様ね。
自分の息子が可愛くて、アスライを何がなんでも皇太子にしようと企む人。
レイモンドの母である側妃をいじめ毒を盛った人。
常々、レイモンドに暗殺者を送ってくる人。
当然、レイモンドと婚約することになれば私のことも狙ってくるような人。
「わかった。いざという時のために魔法のことはないしょにしておく。でも、教えてもらうのはララからにする」
「まかせるニャ!」
ララは嬉しそうにベッドの上で跳ね回った。
レイモンドはうるさそうに顔を顰めているわりにララが勢い余ってベッドから落ちそうになると、さっと手を伸ばす。
なんだかんだ言って、レイモンドは優しい。
「そういえば、本には女神の祝福って書いてあったけど、ララって女神の使い魔なの?」
「違うニャ」
そうよね。どう見ても女神というよりは魔女の使い魔だもの。
本はあくまでもフィクションなのかも。
「アンジェラ、どんな魔法が使いたいニャ?」
ララが耳をピクピクさせて私の腕に絡みついてくる。
触りたい。
そーっと手を伸ばしもふもふの耳を触る。
「ニャッ!」
ララが耳を抑えて飛び跳ねる。
その仕草が本当に可愛くて私はレイモンドと一緒に大声で笑った。
「ごめんごめん。もう触らないから」
ぷくーっと膨れるほっぺたを突くと、ララは私の頭をくちゃくちゃにして「おあいこ」と抱きついた。
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