番外編

北海道警に屈した北海道新聞はいじめ問題を報道できないのか?~『ジャーナリズムの可能性』原寿雄著2009(岩波新書)より引用~

 旭川女子中学生凍死事件では、学校と教育委員会の対応に批判が集まっている。

 同時に界隈の人々は、警察の不実な対応や、事件をほとんど報道してこなかったメディアに対しても、不信感を募らせている。


 この地元の北海道警と北海道新聞との関係で、少々気になる記述を発見した。

 共同新聞社の元社長でジャーナリストの原寿雄氏による『ジャーナリズムの可能性』2009(岩波新書)から引用しながら解説したいと思う。


 時は2003年まで遡る。

 当時、北海道新聞は、北海道警による裏金疑惑を追及していた。


『最近になってテレビや地方紙が果敢に追求し始め、〇三年一一月二三日のテレビ朝日「ザ・スクープ・スペシャル」は、旭川中央署の内部資料を入手しスクープとして放映した。これを機に北海道新聞が追いかけ、北海道で初めて警察と新聞の組織的対立に発展した。』


 この一連の報道により、北海道新聞社は新聞協会賞を受賞する。


『北海道新聞は、旭川中央署の捜査費用報償費の不正支出疑惑を契機に、北海道警の全部署で裏金が作られているとの疑惑を、平成十五年十一月二十五日付朝刊を皮切りに粘り強く報道し、道警が組織的に裏金作りを行っていたことを認めざるを得ない状況にまで追い込んだ。』


『道警は大量処分者を出し、一〇億円近い金をOBと現職警察官から集めて国と道に返還した。』


 『新聞にとって重要な情報源である警察権力との、前例をみない全面戦争』で大勝利を収めたという訳だ。


 ところが、この報道を根に持った道警は、陰湿かつ執拗な嫌がらせを開始する。


『北海道警はそれ以前から、北海道新聞に対する事件情報の不提供をはじめ、嫌がらせや不買運動など、北海道新聞の孤立化を狙った作戦をあの手この手で進めていた。』


 情報をストップし、記者を脅し、業務上横領で社員を逮捕した。

 麻薬と拳銃事件の「泳がせ捜査」の記事に関連して、道警はどうしんに対して、取り消しを求めた。どうしんは圧力に屈し、その要求の一部を認め、二〇〇六年一月四日に、お詫び記事を掲載し、編集局長ら幹部と担当記者ら七人が処分された。


『道警トップクラスの幹部でありながら裏金批判に積極的だった原田は、これを警察と新聞の「手打ち」と見て、雑誌『世界』(二〇〇六年六月号)で「これはジャーナリズムの自殺だ」と厳しく糾弾した。違法捜査の失敗についても当時の担当警部自身が逮捕・起訴されて法廷で証言している事実を挙げ、「事実無根とは思えない」と北海道警に反論している。同時に北海道新聞に対する警察のあからさまな取材拒否、差別、圧力に対し、記者クラブの他社の記者たちが見て見ぬふりをしていたことなどを指摘、北海道新聞を孤立化させたことを批判した。』


 新聞記者は、警察から情報を提供してもらわないと記事を書けない。彼らにとって、警察と事を構えるのはなるべく避けたい事態である。

 おまけに中央紙は、裏金報道でどうしんに後れを取っていた。

 本来はどうしんを助けるべき中央紙も、結局は彼らを見捨てることになった。


 さて、旭川のいじめ事件である。


 もし、どうしんがいじめ問題を記事にすれば、当然、警察が触法少年であるC男の児相通告を見送ったことや、爽彩さん捜索時のろくでもない対応についても突っ込まざるを得ないだろう。学校や教育委員会だけならまだしも、警察とも衝突することになる。しかし、今のどうしんにそこまでのガッツはなかろう。


 2021年6月には、どうしんの女性新人記者が、旭川医科大に不法侵入したとして、道警に逮捕された。

 この事件の背景にも、どうしんと道警のそうした確執が関係しているように思えてならない。

 本件のネット記事をいくつか読んだ。

 新人記者に責任を押し付けたとして、どうしんを批判する記事がいくつかある。

 しかし、過去の裏金報道との関連に対する指摘は見当たらなかった。

 過去の歴史を踏まえた上で、どうしんを批判しているのか、或いはメディア関係者の間でも、そうした歴史が共有されていないのか、その辺りは私にはわからない。


 『メディアあさひかわ』と『週刊文春』によって、事件の存在が明るみに出て、最近になってようやく、大手メディアでも報道されるようになってきた。

 ここは地元紙として、北海道新聞にもジャーナリストとしてのガッツを見せてほしいものである。

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