芦川ヒカリの憂鬱Ⅲ

芦川ヒカリの憂鬱Ⅲ 1



 さて、ここで一旦まとめよう。アニメでいう総集編みたいなものだ。そういうのが今の俺にも必要でね。


 まず、涼宮ハルヒの憂鬱というシリーズがどんなお話か。これは一口に言うのは難しいが、青春本格SFってところだろうか。

 物語はキョンと呼ばれる少年が語り部となり、涼宮ハルヒという強烈な個性を持つ美少女が巻き起こす騒動を描いている。その強烈な個性というのは、人前で堂々と月刊オカルト雑誌ムーに書かれているようなことを言ってのけるというだけではなかった──というのがキョンの大誤算。


「東中出身、涼宮ハルヒ」

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が居たらあたしのところに来なさい。以上」


 因みに、これが涼宮ハルヒの県立北高等学校入学一発目のセリフだ。同じクラスでこれをやられたら、大抵の人間は共感性羞恥で呼吸困難になる。

 こういった奇妙奇天烈奇抜奇怪な言動を繰り返す涼宮ハルヒに、なんかんだ話しかけてしまったキョンは(勇気あるよ)、あろうことか不可思議な出来事を探すクラブを創設するきっかけを吹き込んでしまう。

 世界を覆いに盛り上げる為の涼宮ハルヒの団──SOS団と名付けられたそのクラブがまさかのまさかでマジに立ち上げられると、こんなことあるかって感じだが宇宙人と未来人と超能力者が入団してしまう。

 その上、三年前に起きたなにがしかの事件の犯人であるらしいハルヒには特別な力が備わっており、そういうトンデモ出来事を実現出来るような存在だということを、特殊設定をもった彼ら三人からキョンは次々に打ち明けられる。俺が現実にこの立ち位置なら即不登校になっていただろうね。

 しかし、涼宮ハルヒはそんな異能力には無自覚だ。ハルヒ自身は現実主義者であり、不思議なことが起きて欲しいと願うと同時に、そんなことが身近に起きるわけなどない、この世界はつまらないと思っている。そのおかげで世界は彼女の願う通りのイカれた能力やトンチキな空間に支配されるような事態には陥っていない。今のところは。

 

 もしも涼宮ハルヒが自分の力に自覚してしまったら、この世は不思議なことで埋め尽くされたファンタジーもフィクションも真っ青な世界になってしまうかもしれない。主人公であるキョンは溜息を吐きつつ、ハルヒが原因となって起きる様々な事件に奮闘する羽目になる。

 物語の大まかな説明はこんなところか。




 そのSOS団とかいう無認可同好会のメンバーは次の通りだ。


 まずは涼宮ハルヒ。

 彼女は普通の人間ではない。何をやらせても大抵出来る美少女で、わがままで強引。ハイスペックが過ぎて、世界を自分の思うように変えることが出来るかもしれないなんて、不思議な力まで持っている。

 その力で情報爆発とかいうのを引き起こして宇宙人の親玉に人間やるやんと思わせたり、時空の振動を引き起こしてタイムトラベラーを三年以上前の過去に行けなくしてしまったり、変な異空間を作って巨人を暴れさせたりしている実績持ちらしい。

 次に何をするかまったく予想がつかない上に、周囲の環境を都合よく弄ることが出来るなんて、とんだ爆弾少女である。あと何故か「萌え」に拘っている。

 朝比奈みくるに対してはマスコットと公言しており、甚くかわいがっている。長門のことも気に掛けている描写があった。古泉に関しては、ハルヒの言動に対して基本的に賛成したり楽しませる場を提供する立ち位置なので、気に入っているだろう。

 一般人であるキョンには他の団員に対するものとは違う態度を取っており、多分、好意がある。

 子供の頃に毎日が楽しく自分の仲間が最高だと思っていたが、野球場に溢れかえる人間を見たことで、自分の世界がちっぽけでつまらないものだったようなショックを受けたらしい。きっとそれが彼女の原点になっている。

 変わっているのが、誰にでも起きるその衝撃を乗り超えた彼女は、自分の見つけた最高の仲間と遊ぶことを目標に、それ以外の交友を切り捨ててまで生きてきたところだ。普通は現実を見てしまう。俺やキョンがそうであったように、まあこんなもんさと見切りをつけてしまう。だがこいつは冗談抜きで、自分が満足するまで諦めない不撓不屈の女である。

 こんな風に紹介したが、目的は「不思議な友達と遊びたい」なので、おそらく周囲が思っている以上に団の仲間のことはとても大事にしている。ツンデレだけど。


 次に長門有希。

 彼女は文芸部員でSOS団に部室をぶん取られた無口な眼鏡っ娘だが、その正体は別にある。ハルヒに目をつけた情報統合思念体とかいう宇宙人の親玉に派遣された、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなのである。話に着いて来てるか? まあ、早い話が宇宙人だ。

 ハルヒを観測するために三年前から地球に降り立って待機していた無愛想な少女で、話をしたい相手に手紙を渡して毎日その場所で待ち続けてしまう実直そのままの性質をしている。

 ハルヒの次になんでもありなハイスペック美少女だが、超常的な能力を使うのはだいたい親に相談しないといけないらしい。まあ、三歳だしそのくらいでいいと思うけど。

 そして、なんでもありだからこそもう進化ができないところまで来ているのが情報統合思念体なのかもしれない。多分、彼女たちはガラケーがスマホになるとかそんな進化は期待してなくて、大いなる進化の一歩を待ち望んでいる。その可能性を秘めているのがハルヒなんだとさ。


「うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」


 俺は初めてアニメでこのセリフがある回を見た時、必死に検索しまくったよ。なにせ、単語がほとんど意味不明。キョンもよくわかってないみたいだったけど、当時の俺は小学生だったからな。

 そうそう、宇宙にも派閥があるらしく、長門は温和な派閥に籍を置いている。銀河系の進化は急激に行うものではない。可能性をもったハルヒを見守っていこう、みたいな立ち位置だ。しかし、勿論別の派閥だってあるわけなんだよな。

 その一人が朝倉涼子。一年五組の委員長として潜入している彼女は、長門のバックアップとして派遣されているが派閥は違う。朝倉は急進派。ハルヒにショックを与えてでも、何かとてつもないことがさっさと起きて欲しいって考えらしい。まったく怖い話だね。

 もう一人喜緑英美里という宇宙人が生徒会に入り込んでいる。彼女は一応穏健派ではあるものの、基本的には中立というか、静観するタイプだ。目に見えて傍にいるのはこの二人だが、彼女たちみたいな存在は地球にたくさんいるんだってさ。

 長門は団員それぞれにまったく同じような対応をしているが、キョンに対しては信頼感があるようで、最終決定を委ねたりしている姿がよく見られる。

 これはプチ情報だが、本やインターネットなどの長門にとって稚拙な情報媒体に彼女は興味があるらしい。レトロ趣味みたいなもんだろうか。


 そして朝比奈みくる。

 巨乳のロリ顔美少女だからという理由でハルヒに入団させられた天然っぽい先輩だ。勿論それは仮の姿で、彼女は未来からハルヒを監視するためにやってきた未来人である。

 未来人というのは、ある意味行動や発言で世界を変えてしまう可能性があり、記憶を抜かれたり言葉を制限されたりと厳重なチェックを受けて過去に跳んでくるらしい。そこまでしてでも、時空が歪んでしまった原因かもしれない、タイムスリップを限定させた起点かもしれないハルヒを監視していないといけないんだな。

 そのおかげで何も知らない彼女はいつもハルヒの奇行にもみくちゃにされて、ついでにコスプレもさせられている。


「信じなくてもいいの。ただ知っておいて欲しかったんです。あなたには」


 彼女が未来人であることはタイムプレーンデストロイドデバイス(通称TPDD)という時間転移装置を脳内に所持(おそらく概念的なものなので所持というよりはアクセス権ないし使用権を保有しているということだと思われる)していることによって示される。長門曰く、彼女たちヒューマノイド・インターフェースにとっては原始的で問題も生じる可能性がある装置らしい。

 大人になった彼女が訪ねて来たりすることで、彼女の未来人的側面が見られたりするのも特徴かな。

 どうやら彼女は長門のことを怖がっている節がある。キョンや古泉に対しては、男性への免疫がないため照れくさそうにしている。同級生の鶴屋さんという、謎の金持ち少女と行動を共にいることが多いみたいだ。

 わかりやすく可愛いものが好きで、彼氏はいない。年齢は内緒。多分高校二年生より年上、もしくは年下だと思われる。

 

 それから、古泉一樹。

 爽やかで笑顔を絶やさない文武両道イケメン転校生。しかしてその実態は超能力者である。彼の能力は三年前に突然生まれたものだ。ハルヒの作り出した閉鎖空間という特殊な異空間内で、神人という巨人を倒すことにのみ揮われるシフト制アルバイト超能力らしい。

 ハルヒが不機嫌になると生まれる、ストレス発散空間ともいうべきその誰もいない場所は、巨人を暴れさせておくとどんどん拡大していくというのが彼のバックアップ組織の見解だ。

 その空間が地球を覆ったら、いずれは世界が飲み込まれて逆転しまうのではないかと危惧しているのが、古泉の所属する機関である。それどころか世界五分前仮説の支持をしている団体らしい。この世界はハルヒの見た夢で、なんでも思い通りに操れるのだ、とな。

 超能力が使えるのは世界に十人程度。機関の構成員に関してはわからないそうだ。古泉は末端らしい。

 意外にも情に厚く、SOS団の為ならば一度機関を裏切るとキョンに伝えているシーンがある。本当は転校してくるつもりも接触するつもりもなかったのに、長門有希や朝比奈みくるが涼宮ハルヒと接触してしまったせいで急遽追加で送り込まれたらしい。機関の構成員自体は、北高に何人か既にいるんだとさ。


「ちょっと違うような気もするんですが、そうですね、超能力者と呼ぶのが一番近いかな。そうです、実は僕は超能力者なんですよ」


 短めのセリフを抜き出してもこれである。基本的に理屈っぽくて、話が長い。大人びた話し方の割には人を食ったような発言も多い。いや、小劇団のわざとらしい舞台俳優みたいな仕草で、仰々しい言葉を話すのでそう感じるのかもしれない。それに、実際演技らしい。

 閉鎖空間を生み出して欲しくないからか、基本的にハルヒへの対応はイエスマン。頭が良すぎて、ちょっと話すと先の先まで予測されるので、未来側は古泉を危険視しているらしい。それもあって、おどおどとして人畜無害そうな朝比奈さんが送り込まれたという説もある。

 長門とは度々共謀している描写が見られる。キョンに対し心情を吐露していることも見受けられ、良好な友人関係を築けているみたいだ。

 趣味はボードゲーム。字が汚い。顔が近い。


 最後はキョン。

 彼はなんの変哲もない一般市民である。しかし、ハルヒに気に入られてしまったことで、彼女を制御する唯一の鍵として各組織からマークされてしまった元祖やれやれ系巻き込まれ型主人公だ。

 とはいえ時空を超えて三年前のハルヒに会ったことがあり、おそらくそれがハルヒにとってキョンが重大な人物になってしまった理由なのだと思われる。知らずして完全なるマッチポンプを作り上げてしまった哀れな男だ。

 なんだかんだ言っても、彼は彼で面白くて不思議なことが起きて欲しいと願っていた張本人である。本当は毎日が楽しいに違いない。素直じゃないだけだ。

 朝比奈みくるのような女性がタイプらしく作中何度かそういう描写があるが、結局はハルヒのような天真爛漫な少女に引っ張られることを望んでいる受け身な少年みたいだ。

 友人の谷口曰く、そっちに行けば崖があるとわかっているのに一緒になって歩いて行ってしまう付き合いの良すぎるやつ。そして友人国木田曰く、昔から変な女が好きらしい。

 文句を言いながらも結局はあくせく動く性格。

 妹に甘い。溜息が多い。将来の夢はマイホームと犬。語彙力が半端ではない、ツッコミ役。


 こんなところだ。

 そして、そこに加わってしまったのが俺。芦川ヒカリ。

 なんてことはない至って普通の人生を過ごしてきて、成人式の着物姿写真を撮影したばかりのコンビニアルバイター。就職や受験に失敗したわけでもないのにどこにも進もうとしなかった、超絶やる気なしガール。

 十年前にある意味唯一の理解者である兄、芦川朔にハルヒシリーズを勧められ、どっぷり漬け込まれてしまった熟成仕込みのオタクだ。頭の出来は良くないがハルヒシリーズに関することでは人並み外れて記憶力が良く、兄の作成した超絶マニアックなハルヒ検定で堂々の満点を叩きだした。500問も作るな。

 子供の時分からハルヒといつか一緒に遊べる日が来ると信じて疑っていなかった。兄曰く、夢遊病がひどく外に出歩くこともあったようだ。しかも寝言も激しかったらしい。それ故になんと、17まで兄と同じ部屋だった。信じられるか?

 家族構成は両親、兄、俺。兄は在宅でなにか仕事をしており、基本家にいる。母は専業主婦だが多趣味であまり家にいない。父は会社員。俺がフリーターであることからも、多分うちは経済的に父が頑張っているんだろうな。わからん、兄がなんらかの方法で稼いでいるのもあるだろう。

 中学卒業と同時に一念発起してオタクを隠し、なんならちょっと抜けたくらいの気持ちでいた。一人称も「私」に変えて、五年間私はずっとそうやって過ごしてきた。こういう語録を脳内で使う辺りがオタクなんだよなあ。

 

 で、そんな俺が性別を変えられて、とうとう異世界人として涼宮ハルヒに招待されたのが、つい五日前の出来事。もう五日かと感慨深く思えばいいのか、まだ五日しか経っていないのかと嘆けばいいのかさっぱりわからない。順応性には自信があったので、たった五日で男の身体には慣れた。慣れたけど、心の方が追いついているかは自信がない。

 実際、ハルヒは心のどこかで俺が女だと気づいている。


 俺の持つ能力は長門曰く「維持」「補正」「制御」「凍結」「誘導」という。どうやら俺はこれらの超常能力を全てちっぽけな頭の中で行っているらしい。

 この内の「凍結」は閉鎖空間の拡大停止。「誘導」は神人の注意を惹きつけることに。そして「制御」は神人の動きを止めることに利用することが成功している。もしかすると「凍結」の前にオート入力として「維持」をしている可能性もある。

 そういった能力を買われてか、存在自体が地雷原だから監視下に置かれているのかはこの際無視するとして、俺と機関は業務提携関係にある。機関が本当にこの世界がハルヒの見た夢だと思っていて、信仰レベルにラッセルを信じていたならば、多分俺の存在は邪魔だろう。一応、そうじゃない派閥もあるのかな。もしかして、古泉はそのことで俺が帰ると知って慌てていたのか? 俺、近いうちに消されるのかもしれん。

 まあ、冗談は置いといて。長門の語った能力で今のところよくわからないのが「補正」。意味合いを考えると、朝比奈みくるによって告げられた「逸脱事項」とやらを修正するために使用しているのだろうか。

 そう、俺は存在がイレギュラーの称号を持つ女(男)。本当なら現れる予定の無かった完全外部の第三者。朝比奈さんのようにスポット的に急に現れて揺らぎを生まない存在と違い、横紙破りで堂々干渉してきた異世界人。

 しかも涼宮ハルヒの周囲に起きる出来事を知っているなんていう、セーフティのぶっ壊れたマシンガンである。俺が各組織のネゴシェーターなら芦川ヒカリなんていうやつは封印指定に推薦するね。

 そんな俺は、ただ息を吸って歩いているだけでこの世界にバグみたいな影響を及ぼしてしまう。まあ、世界ってやつは結構寛容で大抵のことは許してくれるので、頑張ってなんともなかったようにしてくれているみたいなんだが。

 それでも、どうしても世界自体の元に戻ろうと収束する力だけでは限界な事象が起きてしまうこともある。自分で起こしたことは自分で止めねばなるまい。俺はそのために未来側とも手を結んでいる。未来側からすると俺の存在は発狂ものだろうが、なぜだか少し甘やかされている気がする。朝比奈さんは俺にいてほしい、と言った。既に分岐の先にいる未来の人間たちは、俺が人数に入った先の世界を見ているのかもしれない。

 未来では俺の能力を総称して「危機回避能力」と呼ぶらしい。全部、なんらかの危機を回避するための能力。そして彼女はこうも言った。


「これは危ないという気がしたら、心の声に耳を傾けてください」


 よくよく考えれば、生物が危険だと感じるのは本能と呼べる部分だ。

 もしくは、直感と言っていいかもしれない。しかし、それすら無意識の情報選別、経験則からくるものである。だから、頭で判断する出来事だ、と仮定できなくもない。俺は自分の持てる涼宮ハルヒシリーズの情報と照らし合わせることで、反射的に危険な出来事を予測しているということか。もしくは、それも能力として備わっているのか?


 そして古泉はこれらの能力を「異世界=閉鎖空間」で使用するのが最も速やかに発揮できる手順だと言う。しかし、昨日の俺はなんの変哲もないボウリング場でもそれを僅かに使用できることがわかった。

 というのも、長門のセリフに答えがある。


「あなたが涼宮ハルヒを選んだ。あなたと涼宮ハルヒは相互干渉によって、自律進化の可能性を握っている」

「あなたと涼宮ハルヒには自分の能力を自覚、共有し、予測できない危険を生む可能性もまた存在している」

「既に情報誘導によって涼宮ハルヒの行動に影響を及ぼした」


 俺は、一介の人間にしてはハルヒのことを知りすぎている。この宇宙のどこにも存在しない、別の世界から見たハルヒの情報を持つのが俺なわけだ。

 ハルヒと俺が願ったことで、異世界から人一人を連れてくるなんて離れ業が可能になったことからも、あーあ、もはや自分の存在価値を低く見積もれない。この「あーあ」はマウント行為でも自画自賛でもなく、身の丈に合わない使命を課された呻き声だとでも思ってほしい。

 俺とハルヒが願いの形を同じにしてしまうと、それはゆるやかに実現してしまう──。長門が危惧しているのはここだろう。俺がハルヒに入れ知恵をすることを控えても、同じ方向性のことを思っていると情報爆発とかいうのが起きてしまうかもしれない。それに関しては俺もかなり怖いな。ただ、これには一応対処療法がある。ハルヒに、起きてしまった現実を知覚させない、自らの意思で否定させるよう会話を持っていく、という方法だ。

 なので、俺は長門に手助けしてもらいながら、様々な事件や事故の痕跡を消して回っている。長門と情報統合思念体は、そんな俺に期待してくれているらしい。


 現在、団員との関係は良好だ。嫌われないでうまくやっていけているとは思う。俺が、十年前に画面の中のキョンくんに片思いをして、そこから最推しになっていることを除けば。なんだかな。推し自体が増えても「あの頃の最推し」への感情というのはふとしたきっかけで再燃する。

 いや、そもそも武道館ライブに行ったら、帰り際に推しのアイドルに声を掛けられて認知されて、プレゼントを渡されるなんていう少女漫画みたいな展開が現実に起こってしまったのが今の俺だ。再燃どころじゃない。骨まで燃やし尽くされている。

 ただ、キョンくんにとって俺は同性で、彼には結ばれるべき相手がいる。それが俺にはわかっているから、本当に推すだけ。推しと推しの未来を応援したいんだけど、毎回ファンサが豪華すぎて勘違いしそうになるし、思いが止められなくなりそうで怖いっていう、それだけだ。無料で頭を撫でるアイドルがいていいのか?

 キョンくんとはクラスメイトとして、隣の席の男子として、会話もそれなりに行えるようになってきた。まだ正体を明かしていないので不審がってはいるが、それに関しては古泉も同じなので二人共怪しく見えていることだろう。よく心配してくれているが、まあ俺は俺なりにやるので大丈夫だと伝えても優しくしてくれる。多分頼りなく映っているのだろう。

 長門には間違えた挨拶を教えてしまったりしたが、やはり一番最初に会ったという部分も含めて信頼している。なにかあったら長門に聞こうってな具合に。まあ、それも限度があるから、ある程度は自分でなんとかしなくちゃって思うけど。やっぱり頼ってしまう。

 朝比奈さんは唯一俺の性別転換も含めて心配してくれている人だ。俺も朝比奈さんもいつも困ってばかりなので、これからも二人で励まし合って生きていくつもりである。コスプレなどで率先して俺を庇ってくれる。頼れる先輩だ。

 ハルヒはキョン曰く俺をかなり気に入ってるらしい。みんなと同じくらいだと思うんだが、たしかに俺が来てからのハルヒは統計的に見ても俺を気に掛けている。無意識に異世界人の希少性を感じているのか、それとも俺を同意させれば不思議に満ち溢れた世界になることに気づいているのか……その辺は不明。俺をなんとかしてショタ枠に入れようとしていたので、お姉さんぶりたいのかもしれない。

 古泉とはひょんなことからBLカップルにされてしまったが、色々あって今では一番傍にいるし、一番喋る相手だ。暗躍するのも生活するのも、ふざけるのもいつも一緒。最近どうすると俺が恥ずかしがるのか気づいてきて、弄ってくるようになった。当然俺も負けじと弄り返している。マジで俺が古泉派に落ちてしまったらどうするんだ。困るのはお前だぞ。一応、隣にいると居心地がいいのは認める。


 まあ、昨晩から喧嘩してるので古泉は隣にいないんだけどさ。

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