最終話・未来! 明日に向かって!

 運命の日はある日突然、何の前触れもなく襲ってきた。

 完全なる不意打ちだった。

 女神から聞かされていた予定より3ヶ月も早く、ヒーロー達が組織の基地内に侵入。

 首領と交戦を開始したとの連絡が。


 現場である基地内の謁見の間に駆けつけた時には、好美が瀕死の首領を裏切って攻撃したすぐ直後。

 首領の体内のエネルギー炉は暴走を始め、その姿はまるでメルトダウン寸前の某怪獣王を彷彿ほうふつとさせる。

 スーツ越しからもその熱量の高さが伝わり、本能的に危険を察知したのか、その場を囲んでいた怪人達は猛スピードで逃げ出していった。


 この原因を作ってしまった好美このみはというと......何が起きているかわからないといった表情で首領を凝視し、全身は極度の緊張から震えている。


「......おのれ秘書K......貴様だけは、世が自爆する前に直々に始末してくれる!」


 鬼の形相で怒り狂った首領が右手を口元を覆うようにもっていくと、気合と共に好美の方に突き出し、てのひらから破壊光線を放った。

 俺は咄嗟とっさに好美の前へと飛び出し、身体を大の字にして盾になった。

 HPがレッドゾーン状態の首領の渾身の一撃によって、スーツは衝撃とともに火花が走り、一瞬意識が無くなりかけた。


「............だ、大丈夫か?」

結城ゆうき!? なんで私をかばって!?」

「............惚れた相手を助けるのに理由なんているのか?」


 首領の破壊光線の直撃を受けて俺のマスクは割れ、崩れ落ちた部分から直接好美の顔を直で見ることができた。

 どうやら怪我はないようで安心した。


「復讐だったら俺が代わりにやってやる。だからお前はもっと自分を大事にしろ。いいな?」


 背中越しに気持ちを語ると、彼女の金色の綺麗な両の瞳からは涙が零れ、無言でゆっくりと頷いた。


「デモンギャラン! 貴様まで世を裏切るつもりか!?」

「――悪いが俺は、最初からあんたの味方じゃないんでね」


 今の一撃でこちらのダメージもかなり深刻な状況に陥り、スーツ内部から騒々しく警告音が聴こえる。

 これ以上機能が低下する前に俺がとるべき手段は――ただ一つ。

 世界も救えて尚かつ好美の好感度も爆上がりする行動だ。


 悪は悪らしく、華々しく散るとしますか!!


 覚悟を決めて床から膝を上げて立ち上がり、俺は全力で首領に渾身の体当たりをお見舞いした。


「――ぬぐぅ! 貴様何を!」

白亜はくあ!?」

「ようやく名前で呼んでくれたな.........最高の気分だ」


 暴れる首領をがっしりと抑え込み、座標を遥か天高くに設定し。


「.........じゃあな、好美! ゴミ捨てにちょっと宇宙まで行ってくる!」


 そして俺はそのまま空間転移装置を発動させた。 

 光に包まれて飛ぶ直前、好美は潤んだ瞳でこちらに向かって何か叫んでいるようだったが、残念ながら聴きとることはできなかった。

 静寂になった基地内には彼女の嗚咽だけが響く。  

 こうして俺と首領は一瞬にして――この星から姿を消した。 

 






「......え~と.........ごめんなさい! 世界崩壊の期限、間違えてました!」


 バツの悪そうな表情でいつもの空間に現れた女神・ルベルは、会うなり開口一番に謝罪してきた。来ると思ってたよ。


「上司が6ヶ月なのを9ヶ月をだと勘違いしていたみたいで......ひょっとして怒ってる?」

「怒るに決まってんだろ!? お前のせいでこっちは予定が大幅に狂った挙句、太陽で首領と心中するハメになったんだからな!」


 そう、空間転移で到着した先は宇宙――太陽の真正面。

 某魔法使いの宿敵でもあった、再生と強化を何度も繰り返す無敵の怪物をも無にする太陽であれば、あの生きた暴走炉をどうにかしてくれると判断したからだ。


 首領を太陽に叩き込むと、予想通り強烈な熱と炎で首領の爆発を抑え込むことに成功し、肉体はドロドロに溶けて太陽の一部となった。

 無茶な空間転移をおこなって帰れなくなった俺も当然同じ結末である。


「でも良かったじゃない。溶鉱炉ようこうろに宿敵を道連れにして沈むシーンみたいで。そういうのが特撮オタクの憧れのシチュエーションなんでしょ?」

「店長呼べ! チェンジだチェンジ! 下っ端女神じゃ話にならん!」

「誰が下っ端女神だ! あんた派遣の転生者の分際で調子に乗ってんじゃないわよ!」

「あいにくこっちは好きで派遣の転生者になったわけじゃないんでね! 俺は死んじまったけどあの世界は救えたんだから文句言うな!」


 軽いノリで人の死に様をいじってきたアホ女神様に流石にイラっとした。

 お前も太陽でター〇ネーター2ごっこさせてやろうか?


「......んで、来るのはわかっていたが、何しに来たんだよ? まさか本当に言いわけしに来ただけとは言わないよな?」


 その言葉にルベルははっとなり。


「そうだったわ。あんた――もう一度あの世界をやり直す気はない?」

「.........はい?」


 言っている意味が理解できなくて、俺は思わず目を細める首を傾げる。


「いえね、上司がこの結末に納得してなくて。ほら、確かにあんたは世界は救った。でも首領秘書はNTRしていない。要するに試合に勝って勝負に負けた結果なの」


 前に腕組みしながら淡々と事情を説明し、事実のみを語る。

 まぁ、全てはお前らが間違った期日を俺に伝えたのがいけなかったんだけどな。


「上司......こちらとしてはせっかく良い線まで行ったのに、このまま終わらすのは惜しいと考えたの。そこで、もう一度チャンスを与えてみては? という話の流れになったわけ。当然また最初からやり直しにはなっちゃうけど――どうする?」


 そんなもん聞くまでもないに決まるだろう。

 俺は不敵に微笑んでこう答えてやった。


「――もう一回リベンジさせてくれ」


「――わかったわ。それじゃ、今からあんたの魂を再び6ヶ月前のあの世界に運ぶわね。よろしく頼むわよ?」

「誰にものを言ってやがる......このヒーローハンターにして恋愛ハンター、デモンギャラン様の前にNTRできぬ者等誰もいない!」


 両手を広げて啖呵たんかを切った姿を見て、ルベルは鼻を鳴らして笑った。

 例え今までの記憶が忘れられたとしても、何度だって、また一から築いてやるよ。


 そして今度こそは首領秘書・好美を期限内にきっちりNTRして、ハッピーエンドで終わらせてやる!!

 

 決意も新たに俺は再び強烈な光に包まれて、幼女のような彼女が待つ、あの世界へと旅立った。




 完

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悪の秘密結社の首領秘書(愛人)をNTRして世界を救う!って、俺も一応悪の戦士なんですが...... せんと @build2018

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