第2話・女神だァァッ!!

「......えっと、悪いんだけどもう一回言ってもらえませんかね?」

「ですから、この世界の滅びを回避する為に、首領の秘書を寝取ってください」


 .........。


「失礼しました。そういえば貴方のいた世界では寝取ることをNTRと言うのでしたね」

「んなこたぁーどうでもいいんだよ! とりあえず今のこの状況を説明してくれ!」


 詰めよると苦い笑みを浮かべた女。 

 こいつがこの件に何か関りがあるのは間違いない。


「私の名前はルベル。様々な世界に異世界人を派遣し、滅びを止める女神です。今回貴方には、この世界を救ってもらう為に悪の怪人、もといダークーヒーローに転生して頂

きました」

「転生? ということは俺、改造手術を受けたんじゃなくて、全く別の世界の者に生まれ変わったのか?」

「そうなりますね」


 さらりと言ってくれるが、こういうのって普通は本人の許可があって初めて成立するものでは? 何を勝手に人の魂をリサイクルしてんだ。


「でもご安心ください。ここはあなたがいた世界と"ほんのちょっと違う”だけの別の世界です。なので何の不自由もなく暮らせると思います」

「ほんのちょっと違うって、具体的には?」

「現実に悪の組織とヒーロー達が存在し、戦っていることです」

「他には?」

「それは......生活をしてみればわかります」


 ほら、でたよ。派遣先のことをほとんど知らない典型的なダメな派遣会社パターン。

 結局は現場の人間に丸投げなんだよな......。


「......もし断ったら?」

「間違いなくこの世界は9ヶ月後に滅びます」

「......マジで?」

「マジです」


 会話の内容に反してにっこり微笑んでいるのが余計に腹立たしい。

 そんな時限爆弾付きな物件に善良な一般人を放り込みやがって......美人じゃなければ問答無用でドロップキックかましてるところだ。

 しかもなんだよ、こいつ。なんで上だけ鎧着てんだ......普通女神って言ったら今も昔も薄着が当たり前じゃねぇか。ア〇ア様や慎〇勇〇の女神達を見習いなさいよ。


「貴方ならきっとこの世界を救うことができます。だってあなたは転生候補者の中で

もっとも特撮ヒーロー番組に精通している、いわば”プロ”なんですから。他の方になんか

任せられません。そのくらい私は信頼しています」


 .........そこまで言われたら、悪い気はしないな。


 どっちにせよ、俺には選択権はないってことは充分わかった。

 しゃーない、こうなったら特撮オタクの底力、この鎧のねーちゃんに見せてやろうじゃねぇか!

 覚悟しとけよ、コラ!!


「......わかった。また死にたくないし、暇潰しついでに世界を救ってやる」

「本当ですか!?」

「あぁ。その変わり、無事に任務が成功したら、俺の願いを一つ叶えること。できるか?」

「もちろんです」

「なら商談成立だ」


 俺が右手を前に差し出すと、ルベルは一瞬考えてから左手を差し出し、握手した。 


 こうして女神との派遣契約は正式に交わされた。







 強烈な光に包まれ、いつの間にか俺の意識はもとのクアトロノヴァの改造実験ラボに戻されていた。

 時刻を確認すると、ルベルと出会う前と比べて時間が全く経過していなかった。

 つまりあの場所は時が止まっている空間ということになる。


 ――そういえば、なんで首領の秘書を寝取ることが滅びの回避に繋がるのか聞くのを忘れていた。

 まぁ、どうせ大した理由はないだろう。

 それにダークヒーローが同じ組織の女性幹部に惚れられるパターンは割とある。

 秘書だって例外ではないはずだ。

 俺自身の恋愛経験が浅くても、この甘いマスクがあれば勝算は十二分にある!


 そう確信した高揚感こうようかんもあって、俺の口元からは自然と高笑いが溢れた。

 周囲にいた科学者兼戦闘員達が驚くことも気にせず、ただただ笑った。 







「ガウザー様、これがデモンギャランの性能データになります」

「どれどれ.........ほう、よもやここまで高い数値を記録するとはな......頼もしい奴よ」


 性能テストを全て終え、老科学者と共にクアトロノヴァの首領・ガウザーのいる謁見えっけんの間にやってきた俺は、首領の横にいる秘書の姿をみて唖然とした。


 秘書って...........幼女じゃん。

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