悪の秘密結社の首領秘書(愛人)をNTRして世界を救う!って、俺も一応悪の戦士なんですが......

せんと

第1話・転生だァァッ

「――ついに完成だ! 苦節50年......我が理想の悪の戦士が今ここに!」


 真っ暗闇な部屋の中から聞こえる狂気を帯びた老人の笑い声。


 素っ裸で仰向けの状態、円形の台の上に乗せられている俺に、そいつは言った。

 白いタキシードに黒いマントをまとった、聞いていて気持ちの悪い笑い。

 昭和生まれの俺にはすぐにピンときた。

 マッドサイエンティストという、できれば関わりたくない職業の輩だ。


 長身で顔中しわだらけの彼は、目覚めたばかりの俺の顔をじっと凝視ぎょうししている。


「......やっぱり、ちとイケメン風にし過ぎたかな?」


 言葉の意味がわからない。どういうことだ?

 ......俺は、必死に直前の記憶を思い出す。

 






 ......その日、俺は徹夜明けだった。

 大人気特撮ヒーロー番組のメダルを買うため、日付が変わる前に店頭に並んだ。

 仕事を終えたあとで疲労困憊ひろうこんぱいな状態だったが、転売ヤーなんぞから買いたくはない。

 眠ると奴らに列を割り込みされるので、一睡もせず、修行僧のごとく真冬の外で一夜を

 過ごした。


 その身を犠牲にした買う努力のおかげで、俺は無事にメダルを購入できた。

 本当、転売に対する法整備を早く国はなんとかするべき。

 メーカーが転売対策を販売店に丸投げしている今の異様な状況は、いつ死人が出てもおかしくはない。

 悲惨な事件が起きなければ本気で動こうとしない。人間はおろかな生き物だ。


 一人心の中で自分に酔っていた、その時。

 何者かが俺の後ろから買ったばかりのメダルの入った袋を奪い、走り去ろうとしていた。

 やられた! こんなストリートチルドレンまがいな所業をする奴がこの国にいるなんて。

 重たくだるい身体にムチを打って、不届き者の背中を追おうと走り出した。

 が、すぐに急に心臓の辺りを経験したことのない激しい痛みが襲い、俺はその場に倒れ込んでしまった。


 それ以降の記憶はない......。

 

 どうやら俺は助かったらしいのだが、何か様子がおかしい。

 真横のガラスに映っているのは俺の顔、ではなく、全くの別人の顔。それもかなりの美形、しょうゆ顔タイプの。

 体系ももやしのようなガリガリくんから細マッチョへ。

 ......それになんだ? この謎に身体の奥底から溢れ出ている力は。


「......ここは、どこだ?」


 声まで低めのハスキーイケボに変化していることに驚きつつ、俺は事情を知っているであろう老科学者に尋ねた。


「ここか? ここは秘密結社・クアトロノヴァの改造実験ラボ。言ってみれば、ワタシの専用の部屋じゃ」 


 確かに、見渡すと獣? か何かを培養しているような巨大なカプセルが数台。周囲を取り囲むように配置されていて、いかにもそれっぽい。

 

「そしてお前は、私が作り出した究極の対ヒーロー用決戦士。さぁ! 立ち上がってこう言うのじゃ! [邪結じゃけつ]と!」


 言われるがまま、俺は台から起き上がって。


「............邪結」


 変身コードを口にする。

 すると、その時、不思議なことが起こった。

 俺の瞳が怪しく赤く光ると同時、つま先から一気に頭頂部まで、あっという間に俺の身体は漆黒のメタリックスーツに身をつつまれた。

 その間、かかった時間はわずか一ミリ秒の出来事である。


「おぉ! 我ながらなんと美しいフォルム! 余計なものが一切なく、格闘戦に超特化した

その能力に敵う者等誰もいない。更にこのスーツのテカり具合......そそるのう......」


 俺の太ももあたりにほおずりをする老科学者を横目に、状況を理解した。

 どうやら俺は『クアトロノヴァ』という悪の秘密結社に改造されてしまったようだ。

 普通は悲観するところだと思うでしょ? でも俺にはそんな気持ちはこれっぽちもございません。


 だってあんなイケメン男子に改造された上に、ダークーヒーローみたいな姿に変身できる力を与えられたんだよ?


 特撮ヒーロー番組大好きな俺にとっては憧れのシチュエーション!

 光が輝くところ、闇もまた輝く......これ以上の幸せな人生の再就職先がどこにあるというんだ。


「今日からお前の名前は[デモンギャラン]じゃ!」

「デモンギャラン......悪くない名前だな」

「おっと、こうしてはおれん。早速首領に完成の報告をせねば!」


 腰をさすりながら老科学者は俺を一人ラボに残し、どこかへ姿を消した。

 これは首領の前で性能テストとかする流れがやってくるな。噛ませ犬相手に。

 ていうか、俺の武器って剣か? それとも銃かな? あ、でも最近はどっちにも変形する武器が陣営問わず主流だよな~。


 呑気にこの先の展開を楽しみにしていた時......。 


「――私の声が聞こえますか? もし聞こえているのなら、今すぐ目をつむって私の声に意識を集中してください」

  

 と、優しそうな女性の声が頭の中に。直接脳に語りかけられている感じで、少々気持ち悪い。

 わけがわからないが、とりあえず俺は支持に従い、スーツの中で目をつぶった。

 次第に周囲からは音が無くなり、意識も朦朧もうろうとしてきた。


「......もう大丈夫ですよ」


 そう言われて静かに目を開ける。

 声の主は、先程までとは対照的な真っ白な部屋の中を、ぽつんと立っていた。 

 派手な印象を感じさせるオレンジよりの赤くて長い髪。

 上半身を西洋の鎧、下半身はドレス調のロングスカートをまとった服装は、戦女神のような印象を与える。

 彼女は警戒する俺に水色の瞳を向け、優しく微笑んで。


「申し訳ございません。これが私の制服なものでして。決して怪しい者ではありません」


 両手を右に左に振りながらアピールしたと思いきや、すぐさま真顔になり、こう続けた。


「――短刀直入に言います。この世界を救う為に、首領の秘書を寝取ってください」

 

 女性の口から直接”寝取る”というパワーワードを聞いたのは、人生初だった。

 

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