第9話 登校

 入学式の翌日。俺は制服に身を包みカバンを持って徒歩で学園に向かっていた。


 

 登校初日だ。



 そして暖かく緩やかな風が吹き空は晴天。昨日に劣らずいい天気であり、ウォーキング日和でもある。

 俺はその暖かな日差しと心地よい風を感じながら登校しているわけだが、実は一人だ。

 なんでも、母さんは俺を車で学園まで送る予定だったが急遽仕事の予定が入ったらしい。

 


※以下その時の会話


 『ごめんねはーくん……今日は送れないわ……。』


 『え、送ってくれる予定だったの? ありがとう。でも大丈夫だよ。これからは1人で登校す――』


 『――でも安心して!絶対にあの社長わからせてくるから!』


 『 い、いや、別にそんなこと――』


 『――じゃあねはーくん!行ってくる!』


 『ちょっと母さ――』


 『――あ!忘れてた! ……はい、財布よ! これでタクシー使ってね! 』


 『いやだから――』


 『行ってくるわね!! 』


 『ちょっと待っ――』


 『ガチャ』


 『……』

 



 ……そんなこんなあって俺は、徒歩で登校している。別に母さんに反抗するためではない。この町は治安がいいからだ。


 嘘じゃないぞ。その証拠に大通りに出ると男性の姿を見かけることがある。……時々。



 さて、そんな感じで色んなことを振り返りながら歩いているわけだが、やはり一番俺の脳裏に浮かんでくるのは昨日の入学式のことだ。

 改めて昨日の入学式を振り返ってみると、俺が過去に経験したことのあるものとは色々とレベルが違っていたことを実感した。


 具体的にはまずその来賓の多さ。

 俺が前世で経験した入学式では、市長とか中学校の校長とか他にもなんか良くわからない役員の人たちが合計20人いる程度だった。

 しかもそいつらほぼ全員寝てるしオッサンだしハゲ。 何しに来たの?照明器具? とか思ってた。


 だけど昨日の入学式は違った。


 まずオッサンハゲが居なかった(一番大事)。それどころか、全員女性でかつ美人だった。寝ていた人も居なかった。

 ……はぁ。ただでさえ【美人&女性> ハゲ&オッサン】なのに……。


 そして驚いたのがまさかの知事が来ていたことだ。……これがどれだけ凄いことかわかるか?


 普通知事が入学式に来ることはない。何故なら入学式を行う日時は大抵どの学校も同じくらい、つまり何処かの学園に行くとその日は別の学園に行けなくなるので自分が直接訪れる学校以外は代理になるのだ。俺だって過去の入学式の時は知事どころか市長ですら代理だったのだ。

 一つの市には沢山の学園があるから、その中には勿論優先順位がある。自分の学校に来る確率の方が少ないのでしょうがない。


 にも関わらず、だ。当の知事は直接清明学園に来た。そのせいか保護者や生徒、先生までも動揺しているのが伝わってきていた。

 それから察するに、やはり知事が来ることは珍しいのだろう。……そして俺はその知事から何度も視線を感じていた。まあ、うん。そういう事だ。


 それに来賓の数だって凄かった。50人?以上はいたはずだ。まあ、途中から寝てたが。

 だって彼女たちが挨拶するたびに目が合うんだよ? 美人だから良いがそれでも限度がある。ほんとに頑張ったよ俺。


 あとは入学式後の写真撮影だ。

 言わなくても大体想像できると思うが、まあ、うん。多分合ってる。

 

 ……撮られまくった。

 


 今更何を言っても仕方ないが、何が悪かったんだろう……。


 家族三人で写真を撮るときに、近くにいた人に撮影をお願いしたことだろうか。

 

 撮影をお願いした人に頼まれて、一緒に写真を撮ったことだろうか。

 

 いつの間にか出来た撮影待ちの行列を、ノリノリですべて処理したことだろうか。



 ………うん。全部だ。

 


 しかし、入学式は良くも悪くも退屈しなかったが、それはまだまだ序章に過ぎない。

 これからはクラスメイトとの対面がありそこから本当の学園生活が始まるのだから。


 

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貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。 やまいし @yamaishi_913

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