第6話・第三の相談者お嬢さま……リターン

 以前、勇奈に「オ●ンチンがお股に欲しいのですの」と、相談してきたお嬢さまがまた、股間に『スリコギ棒』を挟んで保健室にやって来た。

「先生、また相談しなければならないコトが発生しましたわ」


 椅子に座った異布院勇奈は、入ってきた生徒に背を向けたたまま……何やらブツブツと呟いている。

「落ち着け……落ち着け……素数を数えろ、あたしは保健室の先生。生徒のどんな悩みも解決できる……落ち着け、落ち着け」

 深呼吸をした勇奈は、椅子に座ったままクルッと回転して、悩みを抱えたお嬢さま生徒と笑顔で向き合った。


「またナニか悩み?」

 無理した笑顔を浮かべている勇奈に、お嬢さまはショルダーバックの中から取り出したタブレットの画面を見せて言った。

「これを観てください、先週屋敷の屋上で、クラスの方々を招いて開催した。わたくしの誕生日パーティーの撮影動画ですけれど……執事に頼んで撮影させた映像に、妙なモノが映り込んでいますわ」


 屋上のような場所で楽しげに、立食パーティーをしている生徒たち。青い空、時おり映る林のような場所。

 勇奈は目を凝らして動画を観る。 

(空中に未確認飛行物体UFOが浮かんでいるとか……未確認生物UMAが映っているとか? まさか、心霊映像?)


 しかし、いくら観ても未確認飛行物体も、未確認生物も幽霊も映ってはいなかった。

「おわかり、いただけたかしら。次は映っている箇所をスロー再生いたしますわ」


 勇奈は、隅から隅までスロー再生動画を観たが、やっぱり何も映ってなかった。

「どこに何が映って?」

「まだ、わかりませんの? しかたがないですわね……アップのスロー再生ですわ」

 立食パーティーをしている、一人の男子生徒の股間へとズームしてスロー再生される。


 男子生徒の股間動画を凝視する勇奈。

(そこ? そこに未確認生物が潜んでいるの? それとも、未確認飛行物体が飛び出してくるの? まさか、股間に霊が張りついているとでも?)


 勇奈が観ていて気づいたのは、膨らみが徐々に大きくなっていく、男性の生理現象だった。

 再生を一時停止にした、お嬢さまがドアップされた男性の股間の膨らみを指差して、勇奈に質問する。

「これは、なんですの?」

「そ、それは……オ●ン……」

「名称を聞いているのではありませんわ、これがオ●ンチンなのは、わかっておりますわ」  


 お嬢さまは、股間に挟んだスリコギを、腰の動きで上下にピコピコ動かして勇奈に見せた。

「わたくしが知りたいのは【どうして膨らんでいるのか……その原因と原理】それと【コレは、どこまで大きくなるのか】の……観察と自由研究ですわ」


 座っていた椅子から思わず、ズリッと滑り落ちる優奈。

(なに言っているの……この子、原因と原理って……男性性器の断面図でも見せて説明しろってコト? いやいや、陰茎の輪切り図なんて尿道と血管が人の顔のように見えて笑っちゃうでしょう……あたし、何を想像しているんだ……落ち着け、素数を数えろ)


 勇奈が、無意識にニヤニヤした笑い顔をしているのを見た、お嬢さま生徒が言った。

「保健室の先生でも、答えられませんの?」

「ち、ちょっと待って! 膨張の原理なら保健室にあるモノで説明できるから」

 勇奈は、常備している乾燥ワカメ入りのカップ麺にお湯を注いで、お嬢さまに見せた。

「乾燥したワカメが水分を吸収すると、どうなるかよく見て」

 ムクッムクッムクッ

「量が増えましたわ!」

「オ●ンチンが大きくなる原理は、コレと同じよ」

「わかりましたわ、オ●ンチンの中に乾燥したワカメが入っているのですわね……今度、殿方の股間に元気が無かったら。お湯をかけてみますわ」

「いや、お湯はやめなさい……お湯は、もっと大きくする方法は、ちゃんと調べて明日教えてあげるから」

「楽しみしておりますわ」

 お嬢さま生徒が、なんとか納得して、帰っていくと、ドッと疲れが出た勇奈は椅子に崩れる体勢で座って呟いた。

「説明するなら、圧縮した海綿体スポンジの方が良かったかな?」


 ◇◇◇◇◇◇

 その夜──勇奈は異世界勇者前世の夢を見た。

 夢の中で勇者は、アメリカンドッグのような串に刺した料理を食べていた。勇奈が仲間の料理人に質問する。

「あれっぽっちの粉で、どうやって、こんなに膨らませたの?」

「〝ふくらし粉〔ベーキングパウダー〕〟という魔法の粉を使ってみたら大きく膨らんだ」

「そっか、膨らませるには〝ふくらし粉〔ベーキングパウダー〕〟か」


◇◇◇◇◇◇

 次の日──保健室にやって来た、お嬢さまに勇奈は、ふくらし粉の袋を差し出して言った。

「この魔法の粉を、オ●ンチンに振りかけて熱を加えれば、膨らむかも知れないから……たぶん」

「わかりましたわ、早速、動画で股間を膨らませていた男の子の、オ●ンチンに振りかけて熱を加えてみますわ」


 数日後──保健室にやって来た、お嬢さまが嬉しそうに勇奈に報告した。

「成功しましたわ! 先生からいただいた魔法の粉を振りかけたら、オ●ンチンは大きく膨らみましたわ!」

「そ、そう……それは良かったわね」


「ですけれど、不思議ですの……わたくしが粉を振りかけても、変化が無かったのに……【若い男性執事が摩擦しようと手を近づけただけで、あっという間に膨張したのですけれど?】」

「はぁ!?」

 勇奈の頭に嫌な予感がよぎる。


「アレはどんな原理ですの? 勇奈先生、理由を教えていただけません?」

 勇奈は、新たに発生させてしまった。お嬢さまの疑問に。

「落ち着け……落ち着け……素数を数えろ」

 そう呟きながら頭を抱えた。



   ~おわり~

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