回避不可能な抱き合い

 息を切らし、限界突破しそうな貧弱心臓よわよわハートを押さえながら俺は璃香から離れた。命が危なかった。あと少しで心肺機能停止CPAになるところだった。


 高級ソファへ移動し、スマホを覗く。


 まずは世界情勢を知り、株価をチェック。……まあ、株なんてたいした数を持っていないけどな。幸い、今の時代はアプリでも買える。それで小遣い程度は稼いでいた。本当にすずめの涙ほどだけど。



 溜息を吐いていると、菜枝から『おはよー』とメッセージを着信した。俺も挨拶で返事を返し、十五分後には外で待機しているよう指示を出した。


 一度、会議室で今後の方針を話そうと思ったからだ。


 これで後は璃香の起床を待つだけだ――と、視線をベッドへ向けようとしたら、いきなり抱きつかれた。



「賢~、なんでソファに移動してるの」

「ちょ! だ、抱きつくな!」

「だって、賢の姿がなかったんだもん……寂しかった」

「ちょっと離れただけだ」

「だめ、許さない。罰として“ぎゅっ”として」



 ぷくっとした表情で抱擁ほうようを要求をする璃香。なんか寝起きが悪いようだな。寝惚けているのか?


 朝が弱いタイプかもしれない。


 しかし……“ぎゅっ”か。それも難易度が高いっていうか、俺からやったらセクハラ認定なんだが。――いや、今は『プライベート』だけど、居場所が会社なだけにやり辛い。でももう今更か。昨晩は頬にキスされたし……てか、もう一緒に寝たところまで来た。


 となると、もうセクハラもクソもないのである。そもそも、璃香から攻めてくる(回避不可能)なので……仕方ないのだ。


 機嫌を損なわれても困るし、俺は渋々だが同意した。



「本当に良いんだな?」

「うん、いいよ。はーい」


 と、手を広げる璃香。

 なんだその子供を迎える母親みたいなの。若干、呆れながらも俺は璃香に抱きつく。……くそう、ウエストが細くて良いカラダしてやがる。璃香は、薄いシャツ一枚だから、裸とそう変わらない感触だろう。


 こうして近くで見れば、金髪がサラサラでキラキラしていた。てか、耳のピアスの高級感がスゲェな。ブランドモノだろうな。



「な、なんだか落ち着くな」

「でしょー。こう“ぎゅ~”ってするの憧れだったんだ。毎朝してね」

「ま、毎朝ぁ!?」

「うん。毎朝ね。約束だよ?」



 ……マジか。

 この抱きしめ合う時間を日課としてやるわけか。……どこの海外ドラマだよ! いやしかし、俺にデメリットはゼロだ。メリットしかない。


 むしろ、大歓迎まである。



「了解。さて、璃香。満足したら十分後には会議室へ行く。今後を事を話し合うんだ」

「そっか。そうだね、栖胡ちゃんや菜枝ちゃんも入ったから、きちんとしないとね」



 そうだ、和泉も呼び出しておこう。

 昨日の事件があったとはいえ、今日は土曜日。少しくらいは時間が取れるだろう。多分だけど。

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