第9話 筋肉の宴 02

「これ……モンスターを相手にするよりキツく無いか…?」


疲労困憊な様子でタシラーが呟く。

既に日は暮れており、今までずっと勧誘てあわせをしていた。


「ああ…中々ハードだったな…。」


タシラー程じゃ無いがオレも疲れている。

1人だったらと思うとゾッとする。タシラーを誘って本当に良かった。


「明日も宜しく頼むぞ。」


重ねてヒールをかけながら優しく声をかける。

絶対に逃してはいけない、丁重に扱わねば。


「……ああ。良い経験になったし、明日も手伝うよ。だからその邪悪な笑顔は止めてくれ。」


疲れた様子で返してくる。

本当は酒でも奢ってやりたいが、明日に響くし全てが終わってからにしよう。


「……私に対人経験が足りないと思い誘ってくれたのか?」


やや真剣な表情でタシラーが聞いてくる。

もう息を整えたオレに対してまだ肩で息をしている状態だ。


「いや…、1人でアレを相手にするのが嫌だっただけさ。」


魔法使いのシザーでは相手が納得しない。

今回ばかりは直接戦える相手で無ければいけないのだ。


「そうか…、まぁそういう事にしておくよ。また明日も頑張ろう。」


タシラーは小さく笑いながら、迎えに来た仲間の子の肩を借りて歩いて行った。

1人残されたオレは宿への道を進む。


(アイツだけ女の子が迎えに来るなんて理不尽過ぎるだろう…!)


残酷な世の中に絶望しながらトボトボと寂しく帰るのだった。



数日かけて主要なメンバーの参加が決まり、やっと依頼も終了した。

タシラーも二日目からは調子を取り戻し、初日ほど疲れた様子は見せなかった。

そもそもオレ達はこの街でも一握りのAランクだ。こんなに苦戦する相手が多いのがおかしいと言える。


(やはり…、筋肉は偉大という事か…。)


オレも筋肉の教えに従うべきかもしれないと考えていると、タシラーが声をかけて来た。


「…何か変な事を考えて無いか?まぁ良い。後はリナ嬢を紹介してもらうだけだな。」


少しオレを気にかけて来たようだが、すぐにこの後のご褒美に思いを巡らす。

オレも娘のリサ嬢を期待しながら筋肉リナをどう説明するかで悩んでいた。


(とはいえ…、どう言った所で納得なんてしないか。)


少し悩んだ所ですぐに吹っ切れた。

最早成り行きに任せるしかあるまい。


待ち合わせの場所で待ってると、リナ達がやって来た。


(いつも通り筋肉達を引き連れているな…。)


美しい女性を探すが見当たらない。

これから別の場所へ移動するのかもしれない。

タシラーも同じことを考えているのだろう、辺りをキョロキョロと見回している。


「待たせたな!!」


「ああ。それで、どっかに移るのか?」


気が急いてしまい、単刀直入に質問する。

タシラーも真剣な表情だ。


「何を言う。移動する必要なんてあるまい。」


「は?何を言って…。」


「紹介しよう!我が愛しの娘、リサだ!!」


筋肉リナが大袈裟に言うと、筋肉の集団から1人の筋肉が出て来た。


わたくしが!!リサ!!よ!!」


ポーズを変えながら自己紹介してくる。

艶やかな髪を伸ばし、意志の強い瞳をしている。

服装はビキニのトップにピッチリとしたズボンを履いている。扇状的な格好と言って良いだろう。


「いやいやいや、確かに女性だが…、オレより筋肉があるぞ…。」


茫然としていると、リサが話しかけて来た。


「貴方がわたくしに求婚しているって言う殿方ね。」


話しながらオレの頭からつま先まで視線を向けてくる。

品定めしているようだが、一々胸筋をピクピクさせるのは止めて欲しい。


「うーん……。残念ね。もう少し筋肉をつけて出直して来なさい。」


胸筋に意識を囚われていると、いつの間にか振られてしまっていた。


「何より、レディの胸を凝視するなんて紳士失格よ。いくらわたくしが魅力的だからって、ちゃんと分別を持ちなさい。」


胸筋をピクピクさせておいて何を言っていると思ったが、既に話は終わったようで、背中を向けて去って行ってしまう。


(え…?ホントにあの筋肉がリサ嬢なの?てかオレ一瞬でフラれたの…?)


怒涛の展開に頭がついていかない。

間抜けな顔をしたままリサを見つめていた。


「ハハハ。確かにレディの胸を見つめるなんてはしたない行為だな…。それで、リナ嬢の方はどちらに?」


タラシーが笑いを堪えるように言ってくる。

全然堪えられていなく、話しながら笑ってくるから余計ムカついて見える。


「儂が!!リナ!!じゃーーー!!」


さっきのリサ嬢に当てられたのだろう、同じように筋肉リナが叫び出す。


「…冗談はよしてくれ。……冗談だよな?」


タシラーが一蹴するも、周りの人間を見て不安そうにオレを見てくる。

余りの不憫さに見ていられなくなってつい顔を逸らしてしまった。


「ツェート!貴様!!また騙したのか!!!」


オレの態度に流石に気づいたようで、タシラーが顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。


「タシラー!!自分の筋肉を見てみろ!!」


「は…?何を…?」


「筋肉に耳を傾けるんだ!お前に足りないモノが分かるはずだ!!」


最早どうにもならん。こうなってはオレも筋肉の導きに従うまでだ。


「然り!然り!」「筋肉は不滅なり!!」「貴殿もより鍛えるのだ!!」


オレの叫びに呼応して、筋肉達が叫び出す。

筋肉リナはうんうんと感慨深く頷いている。


「理解したか!?さあ!共にこの道を進もうじゃないが!!」


リサ嬢に振られた事も手伝ってもうヤケクソ状態だ。

今ならマスター達の言ってた事が分かるかもしれない。


「ッヒ!わ、分かった!もういい!許すから戻ってこい!!」


タシラーが何か叫んでいるが耳に入って来ない。

こうして新たなる生贄がまた1人生まれたのだった。

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伝説の勇者に憧れてハーレム目指していたが何故か周りが男だけなんだが アタタタタ @atahowata

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