第十一話  【プリズンブレイク】

まずはエレベーターに向かわなくては…

本当はさっさと置いてって逃げ出したいが、アキを連れて行かないと計画が破綻するので無理矢理にでも運ばなくてはいけない。


アキがどうなろうと知らないが俺が死刑になるのだけは困る!


───そうだ!手錠に繋いで引きずろう!


カスミは手錠という著しく機動力を削ぐ枷を自ら着けている事に疑間を浮かべる事もなく、恐ろしく眩しく赤いマーズのストライプ光に目を細め、アキを引きずるように走り出した。



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「よし!エレベーター着いたぞ!アキ!」

地下六階から三階にやっとの思いでたどり着いた…



「そうなんだ」


「そうなんだではない」


違和感の影を飛ばし鎧の男に張り付ける、運が良いことに休憩時間交代で鎧は一人しかいない


それにしても割りと現実に近い監獄にもかかわらずこの鎧達だけ何故か西洋チックだ…

この刑務所の偉い人の趣味なのだろうか?


「よし!鎧が居なくなったぞ!エレベーターに乗り込め!」


アキを無理矢理押し込みエレベーターに乗る。


重低音が狭い部屋の中に響き、肩を落とす。

アキを計画の通り部屋の死角に立たせ、地上二階に向かうエレベーター。


ここまでは辛うじて計画通りだった…

しかし地下二階に着いた瞬間、入り込む光に人影が写った。











───看守だ。



エレベーターをめったに使わない看守達がエレベーターにいる。

それは意外でも何でもなかった。

本来の作戦決行の時間帯にエレベーターを使う看守が少ないだけで、朝の我々を起こしに来た看守と同様、看守達が最も行き来する時間だからだ!






一人の看守がエレベーターに入って三秒程経った…

バレるな…!

息を殺し、心臓を抑える。



ガンッ

アキの頭が壁に勢いよくぶつかった。


そこからは一瞬だった…

「うぁぁぉぉぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 なんだァ!テメー!!!!!!!!!!!!」

看守が叫ぶ!

「うおおおおおおお!!!!!!!!!!!!

 見逃して下さァい!!!!!!!!!!!!」

俺も叫ぶ!

「あぁぁぁぁぁぁぁ!うるさいッ!!!!!!」

…アキの声が一番大きかった


アキを見て少し落ち着きを取り戻した俺はこう言う。

「アキ!ドアに仕掛けた爆弾を起爆させろ!」

看守が後ろを振り返る!


もちろん嘘だよ!マヌケめ!

時間稼ぎはここまで…

エレベーターはすでに地下一階に到達している!


看守をエレベーターの中に押し込んで外へ出る!

ここからどうしようか…

ギリギリ階段て地上一階まで上がれそうだが…


そんなことよりこの手錠が邪魔過ぎる!!!!!

「アキ!手錠を外してくれ!階段まで走るぞ!」

「わかりました!」

良かった!起きてた!


施設内には脱獄者の確保要請サイレンが鳴り響いていた…



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地上一階まで繋がる階段までたどり着いた。

「ついてきてるか!?」


「はい!」

────そこにいたのは知らない囚人だった。





「何だよお前!あっちいけ!」


知らない囚人を突き飛ばしてアキを探す。


廊下に食堂の看板が見える。

「さてはアイツ!」


食堂に駆けつけて見ると案の定アキが食材を吟味していた。

「やってる場合じゃないって!!!!!!」

そこに警備がやってくる!


「我々はプリズン四天!」

お前ら誰だよ!しかも五人いる!


「テンペスト!」

アキが俺の体までもが持ってかれるような強風を巻き起こし四天王の四人を壁に磔にする。


「急ぎますよ!階段へ!」

アキが鍋をちゃっかり手にして階段まで駆け出す

あいつどこまで自由なんだよ…


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さて状況を整理しよう

今俺達が居るのは地上一階、階段から離れた物置部屋。

俺達はこれからワープ魔法を封じている魔法石がある

セキュリティルームへ向かう。

すでに解錠はアキが済ませた。


「この通路は施設関係者達が蔓延ってる…どうする!アキ!」

すると近くに大勢の看守がやってきて隣の部屋の物置を目当たり次第あさりだした…

「シッ!何かがおかしい…今私たちが居るのは階段からずいぶん離れた物置…なのに何故か職員は物置周辺をピンポイントで捜索している…誰かに位置がバレているかもしれない…」


するとアキはいきなり自身の影に鍋を叩きつける。


その時鍋の隙間を縫い影がいきなり動き出した!


「ククク…バレてしまったのなら仕方ない。」


「誰だ!」


影は縦に引き伸ばされたように伸び、人間になった。

「私は四天王の内の一人、影使いのケレス!」


なぜ四天王が…


────!

そうか!あの時アキが壁に張り付けた四天王は四人!

しかし四天王は『五人』いた!忘れていた!


「よくも俺の仲間を全員戦闘不能にさせたな…許さぬ…」


握りしめた拳から黒い煙のような物が立ち上る

「ヤバいぞアキ!あの時の生き残りだ!」

アキが仇討ちされてしまったら俺が脱出できない!


「許さないぞ…影もできないほどに切り刻んでやる!」


「まずいですね…」

アキは後退りし、戦闘態勢に切り替える。

「許さん…細切れにしてやる…!」

じりじりとケレスが詰め寄ってくる!

「ヤバいぞアキ!」



「殺す…殺してやるぞ…











サクライカスミ!!!!!」


「…俺!?なんで!?!?!?!?!?!?!?」


しかも名前覚えられてる!!


「このケレスは手加減しないぞ!影だけにな…」


「アキ!なんとかしてくれ!!」


後ろを向くとアキはどこかへ消えていた…


「アキァ!!!!」

まずい!俺が後ろを向いている間に距離を詰められてしまう!

急いで正面を見返すが…そこにはケレスは居なかった。


────俺の後ろだ…

まさか一瞬で背後に回るとは…!


再び後ろを振り向くと胸ぐらを捕まれ戦闘不能になったケレスの姿があった…


「カスミ!こんなのに構ってる暇はありません!突っ切ってセキュリティルームまで向かいますよ!」


…もう疲れた


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メギャン


セキュリティルームに楽々侵入した俺達はワープを封じる魔法石を破壊し始めた。


「これ全部壊しても500mしかワープできないんだよな…セキュリティ凄いな…」

すると割れた魔法石を鍋に入れてくアキ。


「何に使うんだ?」

「売れば大金になります。」

「じゃあ沢山持って帰ろう。」


倫理の崩壊!治外法権!


そして最後の一番大きな魔法石を砕こうとした瞬間



────大量の警備が部屋に乗り込んで来た!


「チェックメイトだ!脱獄犯!」

警備は魔法が撃てる警棒の様なものを鳴らしていた…

「アキ!なんとかしといてくれ!」


沈黙が走る


「…無理です…数が多すぎます。

 どうやら、本当にチェックメイトのようですね」

嘘だろ!?

よくよく考えたらアキも全能ではない…

俺はアキに頼りすぎていたのだ…

俺が出来る事はなんだ…!

スマホ…


……スマホだ!

俺は影に隠れスマホを操作しながら言う

「アキ!15秒時間を稼いでくれ!」

「…!わかりました!喰らえ!プロスペラ!」

大量の警備が体を浮かせ、無規則に放散する。

やっぱりアキは凄い。俺もやらなくては…!


よし!これで準備は出来た!


「もう限界です!行けますか!?」

「あぁ!!行ける!!!」

セキュリティルームを抜け出してすぐの、空が見える吹き抜けのスペースに移動する。


警備はセキュリティルームの中や外から押し寄せてくる。

「魔法石は壊れきっていない…お前の敗けだ…!」

その時空から雷鳴と共に大きな影が地面に近付く…!

「これは…まさか!」



「そう!!大量の『大型トラック』だッ!!!これが重みィ!!!!!!!!!!!!!」

地響きと共に大量のトラックが降り注ぐ。


魔法石は疎か、その場の何もかもが破壊されていく。

驚き外に出てくるドライバーや、トラックを避けるのに必死な警備。


「アキ!行こう!」

「ワープ!!!!!」


ワープ先のマーズにしては涼しい草原を俺達は駆け出した…




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「ここまでくれば追って来ないでしょう…」

「ギャー!疲れたー!」

二人は酷く消耗し、その場に簡易的なキャンプを築き、3時間ほどの睡眠を取った。


起きるとマーズは夜。

もしかしたらここはすでにマーズではないのかもしれない。

心地よい夜風が、力の抜けた体によく通った。


アキもどうやら起きたようだ…

「「腹が…減った…」」

考えることは同じだったようだ。


アキが鍋の中に冷凍魔法で凍らせて置いた食材は肉のみ。

何の肉かはわからないが牛肉のような弾力を見るに、味は牛肉と変わらない様なものだろう。


職員の食堂の物だから多少の味は保証されてるだろう。



サイコロの様にカットされた肉をアキの持った鉄鍋に放り込み、魔法で火を付け充分に焼く。

「舌の肥えたアキさまのお口には合わないかもな」


「いや、美味しいですよ…これは」


鉄鍋に都合良く入っていた木製の食器に汁ごと装い、これまた都合良く入っていたスプーンで。


旨い…!何故か感じる塩味と肉汁と弾力と油が、疲れた体に沁みる…!こんなバランスの良い物だなんて…


「カスミ…泣いているんですか?」

その水滴は頬を既に伝っていた…





「そういえば…最近、肉食べてなかったなぁ…」







─────「…そうですね」

     味付けしっかりやった事は黙っておこう…



        ~マーズ脱獄編完~


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