鮮やかな予知夢

流僕

人は生まれながらに超能力を持っている

鮮やかな予知夢


「人は生まれながらに人権を持っている。同じように人は生まれながらに超能力を持っている」


この長ったらしい文字列を今日も彼は退屈そうに見ていた。これは超能力検査のコマーシャルのキャッチフレーズ。だが、これはさすがに長すぎではないだろうか。

このコマーシャルは脳内ネットワークジャパンに国立超能力研究所が多額のコマーシャル料金を支払っているためか、脳内ネットワークに接続するときに毎回出てくる。


と、言っても寝る時以外はずっと脳内ネットワークには接続したままなので、一日一回しか見ない。それでも毎日見ているのでさすがに飽きてくる。

そんなことを思っている彼だが実はこの超能力検査を2か月ほど前に受けに行っていたのだった。


初めの頃、検査には多額の金銭を必要とするためためらっていたが、周りの人たちが皆、検査を受けたといって自分の超能力を自慢するので、自分の超能力に興味を持っていた彼は、貯金を切り崩して検査を受けた。

誰もが超能力を持っているらしいが、検査を受けないと気付くことはなかなか難しいらしい。実際、彼自身も自分の超能力が何なのかわかっていなかった。


しかし、検査を受けてもほとんどの者は、物を数ミリ動かしたり、話している相手が次にしゃべることが予知出来たりする程度の力しか持っていない。


一方、テレポートや千里眼などの高度で珍しい超能力に気が付くことも少なからずあるという。それによって、人生が変わったという人も大勢いる。彼もそれを期待して検査を受けた。

彼が検査室に入り椅子に座ると白い服を着た検査員が彼の頭にアンテナのついたヘルメットのような機械を付けて来た。


数十秒後、検査員がその機械を彼の頭から外すと近くのモニターに移された複数のグラフを興味深げに見ながら彼に言った。

「これは凄い、あなたはかなりの超能力の持ち主です」

「そっ、そうなんですか!僕の超能力って…」

「あなたの超能力は未来予知です」

「未来予知!」

「そう、あなたの場合1週間に1度見る予知夢によって、それから1週間以内のことを予知することができます」

「でも、今まで僕そんな予知夢とか見たことないんですけど」

「それは、自分が未来予知を出来ると意識していないだけ。意識し始めると潜在的な超能力を引き出すことができますよ。詳しいことはまだわかりません。今読み取った情報を解析するのに3か月程度かかります。3か月後またお越しください」


その夜、彼は夢を見た。それは彼が素敵な女性と出会い、デートに行く夢だった。


彼は次の日から朝早く起き公園へ散歩に行くようになった。夢の中で彼とその女性は朝日に満ちた公園で出会うのだ。彼は今日か今日かとワクワクしながら毎日公園へ行ったが、夢を見てから1週間たってもそのような女性には会えなかった。だが、彼は落ち込んでいしなかった、

「今回はたまたま外れてしまっただけだ次回は上手くいく」

その夜、彼はまた夢を見たそれは彼が会社で今までの仕事ぶりが認められ部長に昇格する夢だった。


彼は次の日からウキウキしながら出社するようになった。

しかし、一週間たっても、部長に褒められることさえなかった。だが、まだ彼は落ち込んでいなかった。

「今回もたまたま外れてしまっただけだよくよく考えてみると半分以上の確率で当たる予知夢なんてそうそうないんだ。まあ次回はきっと上手くいくさ」


その後、彼はいろいろな夢を見た

宝くじが当たる夢、友達が結婚する夢、近所の人からジュースをもらう夢、最新のロボットが発売される夢などなどどれもこれも多少の差はあるもののすべてが鮮やかで輝いていて楽しかった。


しかし、どれ一つとして実際に起きることはなかった。


そのまま3か月が過ぎた。

彼は自分の超能力の解析結果を知るために検査所へ向った。


検査室へ入ると研究者らしき人物が彼の超能力のデータを興味深げに見てから彼に向かって言った。

「あなたは凄い超能力の持ち主ですね」

「そう言われてこの3か月間過ごしてきましたが、一度も夢に見たことが現実になったことはありません。僕の超能力の当たる確率ってどれくらいなんでしょうか」


すると研究者らしき人物は興奮気味に言った。

「あなたの予知夢が当たる確率は100パーセントです」

「でっ、でも今まで一度も夢が当たったことがないんですよ」

「ほら、やっぱり100%じゃないですか」

「え?だから今まで一度も当たったことがないんですよ」

「そうなんですよ。あなたの超能力はとても特殊で、これから1週間以内に絶対に起こらないことを予知できるんです」

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鮮やかな予知夢 流僕 @Ryu-boku

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