人気者の義姉と目立ちたくない義妹

2021年 05月17日に別サイトで投稿済みです。



 GWが終わって、今日からまた退屈な一日の始まり。授業は退屈だし、友人たちの恋バナにも興味なんてない。冷めてる、と言われるけれど、私からしたら何がそんなに楽しいのか理解不能。


「あ、いた」

「「「キャー!?」」」


 休憩時間にいつものように机に突っ伏して目を閉じれば、そんな声とともに悲鳴が上がった。何? うるさっ……


綺華あやか先輩!?」

「え? なんで1年の教室に??」

「お邪魔するね~。奈津なつ。おーい? なっちゃーん?」


 うわ、最悪。なんで来るの?? このまま無視し続けたら帰ってくれないかな? 先輩が机の傍に来た気配がして、騒がしかった教室は静まり返っている。

 ちら、と視線を上げれば目が合って微笑まれた。


「これ、お母さんからお弁当。毎日買ってるんでしょ?」


 買うのにも飽きていたし、お弁当は有難い。皆が寝ているうちに家を出たから持ってきてくれたってことなんだろうけど、この状況は有難くない。


「あのぉ……綺華先輩がどうして?? 奈津とどういうご関係で……??」

「ん? あぁ。親同士が再婚してさ。義理の姉妹」

「「「えっ!?」」」

「そういえば苗字一緒!」

「本田って珍しくないから全然知らなかった……!!」


 あぁ……私の平穏な高校生活が遠ざかっていく……



 父が再婚をしたい、と話してきたのは数ヶ月前。母を亡くしてから1人で育ててきてくれて、私ももう高校生になるし、好きにすれば、と答えた。新婚生活に邪魔なら一人暮らしをするよ、と言えば相手にも私より2個上の娘がいるから一緒に住んで欲しい、と言われた。


 その時はまさか自分が通うことになる高校の生徒会長だなんて思いもしなかった。

 お母さんとは何度か会ったけれど、娘同士顔合わせを、という話が出る度に陰キャには辛い、と意図的に予定を入れていたから一緒に住む日まで会うことは無くて、知ったのはつい数日前のことだったりするのだけれど。


 籍だけは入学前に入れていたから、私は入学と共に苗字が変わった。父は次男だし、タイミング的にも私が変えた方がスムーズなのは明らかだし、特に抵抗もなかった。


 突然できた姉への接し方なんて分からなくて避けていたけれど、まさかこんな強硬手段に出るとは……


「奈津、お弁当置いておくな?」

「……アリガトウゴザイマス」

「ん。偉いじゃん。じゃ、みんなうちの妹をよろしくね」

「「「はい!!」」」


 回想しているうちにクラスメイトとの話が済んだのか、机にお弁当が置かれて、雑に頭を撫でられて先輩は去っていった。


「奈津!! 綺華先輩が姉になったとか聞いてない!!」


 中学からの友人が詰め寄ってくるけれど、寝かせて……


「言ってないし」

「うわ、そういう事言うんだ!?」

「綺華先輩が姉なんて羨ましいー!!」

「綺華先輩の私生活ってどんな感じ!?」


 こうなるのが分かっていたから言いたくなかったんだよ……先輩は有名で人気者で、非公式だけどファンクラブもあるとか。目立ちたくないし、出来れば関わりたくなかった。


 ファンクラブに即情報が伝わったのか、知らない先輩に話しかけられたり、休み時間の度に廊下に人だかりが出来て動物園にいる動物の気分を味わった。先輩、人気ありすぎでしょ……


 怒涛の一日が終わって、家に帰れば先輩のお母さんが居た。いや、一緒に住み始めたんだし、居ておかしくないんだけど。今日はお仕事が休みだったのかな? 家に帰ってから誰かがいる、と言うのがなんだか変な感じ。


「お弁当、ありがとうございました」

「奈津ちゃん、お帰り。嫌いなものなかった?」

「はい。美味しかったです」

「良かった! 毎日作るからね」


 笑った顔が先輩によく似てる。いや、先輩が似てるのか。


「大変じゃないですか……?」

「綺華の分もあるし、全然」

「ありがとうございます」

「いいえ。夜ご飯出来たら呼ぶね」

「はい」


 夜ご飯の用意をする必要が無くなると、なんだか手持ち無沙汰で時間が余る。シャワーを浴びて部屋に戻ってきたものの、することが無くてベッドに横になっていたら寝ていたらしく、ノックの音で目が覚めた。


「奈津、ご飯出来たって」

「……今行きます」


 先輩も帰ってきたんだ。3人で食べるのは今日が初めてだけど、陰キャの私にはなかなか辛い時間になりそうだ……



「綺華、奈津ちゃん、学校どうだった?」

「んー、いつも通り。あ。学校で初めて奈津と話した」


 あれは話した、に入るのか? あ、この野菜炒め美味しい。


「奈津ちゃん、美味しい?」

「美味しいです」

「奈津、お母さんには普通に話すよね」

「ソンナコトナイデスヨ」

「ほら。棒読み」


 ちら、と先輩を見ればなんだか不満そう。どう接したらいいのか分からないんですって。


「あー、先輩がクラスに来たのであの後大変でした」


 じっと見つめられて逸らせなくて、苦し紛れに話題を振ってみた。


「綺華」

「え?」

「先輩、じゃなくて綺華でいいって言ったじゃん?」

「あー、言われましたっけ?」


 忘れた振りをしてみたけど、ちゃんと覚えてる。先輩は父から聞いていたのか私のことを知っていたらしく、綺華って呼んで、とフレンドリーに話しかけてくれた。話題に詰まる私に上手く合わせてくれて、生徒会長をやっているだけあってコミュニケーション能力が高すぎる。


 呼び方はなんとかはぐらかして、食器を洗おうと席を立つ。お母さんはやらなくていい、と言ってくれたけど、ずっと家の事をやってきたし、何もしないのは落ち着かない。

 父は仕事で家にいないことが多いから家事は私の担当だった。ちなみに、お母さんに家電の使い方を教えたのは私。


「奈津、偉いー」

「綺華も少しは手伝いなさい」

「えー」


 お母さんに言われたのか、先輩が横に立った。


「これ、拭いていいやつ?」

「はい」


 横を見れば、拭いた食器を持って戸惑う先輩の姿。


「置いてもらえれば私がしまいますよ」

「ありがと」


 照れたように笑う先輩を見て、これは人気があるのも分かるな、と思った。小柄で髪が長くて、少しつり目で、初対面だと怖そうに見えるけれど笑うと可愛らしい。生徒会長として挨拶をする時はキリッとしているけれど、先輩達とじゃれている時はガラッと印象が変わる。クラスメイト曰く、そんなギャップも堪らないらしい。

 そんな人が隣で食器を拭いているとか、人生何があるか分からないね。


「……なんですか?」


 食器を片付けていれば、先輩の視線を感じた。部屋には戻らないのかな?


「食器の場所、覚えようと思って」

「そうですか」


 先輩に見つめられながら、食器を片付け終わった。無駄に緊張した……よし、部屋に戻ろう。


「では、おやすみなさい」

「ん。あ、奈津、ちょっと屈んで」

「……? はい」

「おやすみ」


 くしゃ、とまた雑に頭を撫でられて、先輩は部屋に戻って行った。よくされるけど、先輩の癖なのかな? モテる人は違うわ~



 *****

「奈津です。初めまし……は? 会長……??」


 初めて奈津と会った日、ポカーンとした表情があまりにも可愛くて笑ってしまった。

 事前に妹になる子が同じ高校だと聞いていたから、私と同じ苗字の美人が入学してきた、と騒がれた時にこの子で間違いないな、と思った。母の再婚相手もイケメンだし。

 そんな訳で私は顔を知っていたけれど、奈津は知らなかったらしく分かりやすく混乱している。


「私のこと知ってるんだ?」

「うちの高校で先輩のこと知らない人居ないですよ……」


 それもそうか。一応生徒会長をやらせてもらってるしね。奈津をみかける度、いつもつまらなそうにしていたし、目が合うことなんて1度もなかったから知らない可能性もあるな、と思っていた。


「綺華でいいよ。今日からよろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします……」


 手を差し出せば、人見知りなのか、袖で口元を隠して視線をさ迷わせている。せっかく姉妹になったんだし、仲良くしたいと思っているけれど、これはなかなか時間がかかるかもしれない。



 一緒に暮らし始めて1ヶ月が過ぎたけれど、思ったように距離が縮められずにいる。


「お? あれ綺華の妹じゃん?」

「ん? ほんとだ」


 仲のいいメンバーで中庭に向かう途中に奈津を見かけた。2年生の女子に囲まれている。


「人気だねー」

「明らかに困ってない?」

「助けに行きますかー!」


 友人たちがノリノリで乱入して行った。2年生は居なくなったけれど、今度は3年に囲まれることになって奈津としては助けられたとは思っていなさそう。顔引き攣ってるし。


「はいはい、うちの妹を困らせないように」


 私を見つけてホッとしたような顔をした奈津を見て、なんだかすごく嬉しくなった。


「奈津ちゃんだっけ? 可愛いよね。今度遊ばない?」

「え?」

「お姉さんが色々教えてあげ……痛ぁっ!?」

「瑞穂やめなさい。綺華の顔見てみな?」

「げ」


 瑞穂と遊ばせるなんて冗談じゃない。自他ともに認める遊び人だし、奈津が傷つくのなんて許せない。


「瑞穂はダメ。付き合うなら奈津だけを大事にしてくれる人じゃないと。私の大切な妹だからね?」

「あー、ごめん。冗談でもダメだったわ」


 瑞穂はチャラいけれどちゃんと話が通じるし、嫌がる相手を無理やり、なんてことはもちろんしないけれど、冗談だと分かっていても許容できなかった。


「瑞穂、そんなことばっかりしてたらいつか刺されるよ?」

「へーきへーき。まぁ、それはそれで皆から愛されてるってことだよね」

「はぁ……ダメだわ」


 瑞穂が本気になる事があったら相手は苦労しそうだな。


「奈津、お昼食べた?」

「呼び出されたので、まだです」

「中庭行くけど一緒に食べる?」

「いや、大丈夫です」

「そっか。奈津」


 奈津の方が背が高いから、近づいてじっと見つめれば視線をさ迷わせたあとで少し屈んでくれた。懐かない猫を手懐けているような妙な達成感がある。


「じゃ、また家でね」

「はい。また」


 頭を撫でると照れたように笑うのが可愛くて、別れ際に繰り返していたら最近は何も言わなくても屈んでくれるようになった。今も手で口元を隠して、恥ずかしそうにしている。うちの妹、可愛くない!?


「ちゃんとお姉ちゃんやってるじゃん」

「その緩んだ顔何とかしたら?」

「奈津ちゃんが笑ったの初めて見たわ」

「それより別れ際のあれ何!?」

「何でもいいでしょ。さ、時間無くなるしお昼行こ!」


 わちゃわちゃ騒ぎながら移動して、からかわれつつお昼を食べた。奈津も今頃同じお弁当を食べてるかな。



 少し距離が縮まった気がした日から数日が経ち、生徒会の集まりを終えて部活に顔を出してから家に帰れば、珍しくリビングに3人が揃っていた。両親はキッチンで夕飯の支度、奈津はソファでスマホをいじっている。


「綺華お帰り」

「綺華ちゃんお帰り」

「先輩、お帰りなさい」

「ただいま」


 奈津は相変わらず呼び方を変えてくれないけれど、前よりは慣れてくれた気がする。こうやって目を見てお帰り、って言ってくれるようになったし。


「奈津、何してるの?」

「これです。可愛くないですか?」


 横に座って、見えやすいようにしてくれたスマホを覗き込めば、SNSに投稿された犬の写真が並んでいた。


「犬、好きなの?」

「はい。世話が出来ないので飼えないですけど、好きで」


 写真を眺める奈津が見たこともないような優しい顔をしていて、こんな顔もするんだなぁ、と新しい発見。


「今なら余裕出来ただろうし、飼えるんじゃない?」

「うーん、そうかもしれないですけど、バイトで帰りが遅い日とかもありますし……」

「私もお世話するよ?」

「え、先輩にできます?」

「はぁ? 出来るし!」


 私のことなんだと思ってる? 確かに家事は得意じゃないけど……


「あ、拗ねてます? 先輩って意外と子供っぽいですよね」


 くすくす笑う奈津が新鮮で思わず見惚れてしまった。


「奈津、不審者には気をつけて?」

「……そんな話でした??」


 いや、本当に。そんなに可愛い笑顔を振りまいてたら変なやつに目をつけられるって。


「夜遅い日とか、迎えいこうか?」

「それ先輩の方が危ないですよ。……小さいですし」

「身長関係あるか!? さりげなくディスってくるじゃん」

「はは、ムキになって可愛いですね」

「はぁ~!? 歳上からかって楽しい!?」

「楽しいです」


 え、奈津ってこんなキャラだっけ? 目も合わせてくれなかった初心な奈津はどこへ?? 急な変化にお姉ちゃんはついて行けません……



「先輩、今日って忙しいですか……?」


 奈津が歩み寄ってくれてから迎えた週末、部活も休みだしのんびりしようかな、とリビングでだらけていれば遠慮がちに声をかけられた。


「ん? 何も無いけど、どした?」

「お父さんとお母さんが、犬飼ってもいいって言ってくれて」

「お、やったじゃん」

「ペットショップに見に行きたいんですけど、一緒に行ってくれませんか?」

「行く行くー!」


 奈津から誘ってくれるなんて、今までからは考えられないくらいの進歩じゃない?



「わぁ……!! 可愛いぃ! 奈津、奈津!! この子可愛い」

「あはは、先輩が欲しいみたいですよ」

「そう言う奈津だって優しい顔してるじゃん」


 ちょこん、とお座りをしてこっちを見てくる小さなモコモコにもう釘付け。人気ナンバーワンってのも納得の可愛さ。それに、初心者にも飼いやすい、とも書いてある。


「今は見るだけだよね?」

「はい。予約が出来ればお願いして、お父さん達が仕事終わったら寄ってくれるそうです」

「そっかぁ~奈津はどの子がいい?」

「大型犬も魅力的なんですけどお世話が出来なさそうなので」

「大型犬……」


 大型犬と戯れる奈津っていうのも可愛いかもしれない。私は押しつぶされそうだし、絶対散歩とかできない。


「小型犬なら、この子ですかね」

「やっぱりそうだよね!? この子可愛いよなぁ。……あれ、奈津??」


 子犬を眺めていれば、さっきまで隣にいたはずの奈津が居なくて、周りを見渡せば店員さんと話しているのを見つけた。


「奈津、置いてくなんて酷いじゃん」

「声かけたのに夢中で気づかなかったんですよ」

「え、ほんと?」


 全然聞こえなかった。うちはアパートだったし、犬を飼うなんて無理だって分かってたけど、飼いたいな、と思っていた時期があった。それが叶うってなってかなり浮かれていたのかもしれない。


「ゲージとかご飯とかも選んでいきますか?」

「はい。お会計は親が来たときで大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。一通り紹介しますね」


 店員さんとさくさく話を進めて、必要なものを一通り選ぶと満足気に頷いている。


「じゃあ、帰るけどいい子にしてるんだよ」


 帰る前に名残惜しそうに子犬を見つめていた奈津が印象的だった。



 家に帰ってからも、奈津はずっとそわそわ落ち着かなくて部屋の中をウロウロしている。


「奈津、少し落ち着いたら?」

「あ、そうですね……遅めのお昼、食べますか? 良ければ何か作りますけど」

「いいの?」

「1人分も2人分も変わらないですし。何があるかな……オムライス好きですか?」

「好き!」

「良かった。待っててくださいね」


 キッチンから優しく笑いかけてくれた奈津を眺めながら、何がこんなに奈津を変えたのかな、と不思議に思う。



「奈津、美味しい……!! 卵がふわとろでやばい!!」

「気に入ってもらえて良かったです。うん、成功」


 奈津が作ってくれたオムライスはお店で出てきてもおかしくないくらいのレベルで、あっという間に食べ終わってしまった。


「あー、美味しかったー!」

「またいつでも作りますよ」

「ほんと!? やった!!」


 よし、このまま洗い物しちゃおう。


「あ、私やりますよ」

「作って貰ったし、片付けくらいは私がやるよ。奈津は座ってな」

「ありがとうございます」


 洗い物をしながら奈津を見れば、スマホを見ながらニヤニヤしている。絶対子犬の写真だな。


「奈津、何見てるの?」

「ぅえ!? いや、なんでもないです」


 近づけば、焦ったようにスマホを裏返しにしていて、怪しさしかない。


「いやいや、隠し事下手すぎでしょ」

「うぅ……自分でも思いました」


 子犬の写真じゃなかったってこと?


「隠したいなら無理には見ないけど」

「……怒りません?」

「なんで??」


 私が怒るような何かがあるって事?


「これ……」

「え!? いつの間に……」


 恐る恐る差し出されたスマホには子犬と、子犬を見つめる私の姿。


「嫌でした、よね……?」

「別にいいけど、他にもある?」

「……ナイデス」

「見せて」


 カメラロールを見る許可を貰って開けば、似たような写真が数枚保存されていた。こんなに撮られてて気づかなかった私はどれだけ子犬に夢中だったのか、と恥ずかしくなる。


「ごめんなさい」

「え?」

「怒ってます、よね?」


 しゅん、として見上げてくる奈津が子犬みたいで心臓がぎゅっと掴まれたような感じがした。


「そんな目で見られたら怒れないって。それに怒ってないし」

「先輩が嫌だったら消すので」

「いいって。今度から撮る時は言って?」

「はい」


 奈津にスマホを返して頭を撫でればホッとしたように笑ってくれた。



 特に会話もなく、お互い部屋には戻らずに、同じ部屋にいて同じ時間を過ごす。沈黙が苦じゃないし、一緒にいて楽。そろそろ帰ってくる頃かな、と奈津に声をかけようとした所で玄関が開く音がした。


「お帰り! 連れてきてくれた!?」

「おぉ……凛が連れてくる」


 勢いよく出迎えた奈津に驚きながらも、ゲージや餌をリビングに運んできてくれた。


「ただいまー。連れてきたよー」


 お母さんに抱っこされて、小さなモコモコがリビングに連れてこられた。ゆっくり降ろされれば、きょろきょろ周りを見回しながらちょこちょこ歩いていて、全員の視線が集中した。可愛すぎ……!!


「うわっ!? え、小さっ……かわいっ!!」


 近寄ってきた子犬が膝の上に登ろうとしてきたから抱きあげれば、奈津が羨ましそうに見てくるから膝に乗せてあげた。

 ビビりつつ幸せそうな奈津に両親も私も頬が緩む。

 仲良く着替えに行った両親を見送って奈津を見れば、子犬に顔を舐められてくすくす笑っていた。

 奈津と子犬の組み合わせの破壊力がやばい。散歩とか2人で行かせたら大変なことになるんじゃ??


 犬を口実に奈津に近づく人が絶対にいる。私も行ける時はついて行かないと。


「奈津、1人で散歩に連れていくの禁止ね?」

「え? なんでですか?」

「危ないから」

「全く、あや姉は過保護ですねー?」

「そんなことな……ん? 今なんて言った!?」

「何も言ってないよねぇ??」


 いやいや、あや姉、って言ったよね? 子犬に話しかける奈津、可愛すぎるな。


「奈津、もう1回呼んで?」

「えー? なんの事ですかー?」

「えぇ……」

「お名前何にしようねぇ? 女の子だし、可愛い名前がいいよねぇ」


 デレデレしながら子犬に話しかける奈津を見て、追求は諦めたけれど、耳が赤くなっているから照れているんだと思う。



「あや姉、お水用意してくるからちょっと抱っこしておいてー」

「はいよー、って、え??」


 子犬と少し戯れた後、膝の上にポン、と子犬を降ろしてキッチンに向かった奈津を呆然と眺める。


「やばぁぁ……キミの飼い主はタラシに違いないよ……」


 不意打ちでの姉呼びとタメ口にキュンとしてしまった私は手遅れかもしれない。やられっぱなしは性にあわないから仕返しをしてやろう、と子犬を抱いて後を追いかける。

 まずは後ろから抱きついてみようかな。どんな反応をしてくれるのか楽しみで仕方ない。


 子犬も妹も可愛くて、毎日がもっと楽しくなりそうだ。

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