不死身無敵VS魔人ジューダム


 ここは、世界を滅ぼすという伝説の魔人が封印された洞窟である。

 そこで、邪教徒達が魔人の復活を試みていた。


 「The ユーの名において、古き魔人の復活を願う……ユー

 『U』


 邪教徒達は、蝋燭が置かれた魔法陣の上に置かれた壺に対し、手をローマ字の『U』の形にすることで、祈りを捧げていた。

 ちなみに、生贄とかそういうものは一切見当たらなかった。


 「お、おお!!!」


 邪教徒の1人が声を上げた。

 何と、魔人の封印された壺が、カタカタと揺れたのだ。


 「ゆ、U!!!」

 『U!!!』


 邪教徒達が更に祈る。

 すると、壺が割れ、中から煙が出てきた。


 「おお! 魔人様の復活だ!!!」


 煙は一箇所に集まり、やがて人型になった。


 「おお、何という力強さ……」


 身長230センチ! 体重250キロ!

 均整が取れた筋骨隆々の肉体! その肉体を覆う独特なプロテクター! 精悍かつ勇ましさに溢れた顔! 禍々しくも清々しい覇気に溢れた全身!


 彼こそは、誰よりも自由な男にして、いにしえより目覚めた究極の魔人――


 「じ、ジューダム様……」


 『ジューダム』である。

 その恐ろしき暗黒の戦士を目の当たりにした邪教徒達は、声も出ないようであった。


 「ふむ……束縛からの開放……いつ体験しても、このカタルシスは何よりの快楽だな」


 解き放たれた魔人は、身体の調子を確かめるように、ストレッチのような動きをしていた。

 それを見た邪教徒のリーダーらしき者が、恐る恐る声をかけた。


 「ジューダム様……」

 「何かな?」

 「誠に恐縮至極にございますが……懇願させていただきたく……」

 「ほう、願いか。言ってみろ、自由にな」


 邪教徒リーダーは、一旦深呼吸してから答えた。


 「我らが悲願。それは、この腐りきった世界の終焉にあります」

 「――よかろう。その願い、この誰よりも自由な魔人、ジューダムが叶えてやろう」


 かくして、ここに契約は成立した。

 世界よ、どうなる――!?




 ◇




 『魔人ジューダムにより、香港島が消し飛びました。合計すると、これまでに実に数十億人の犠牲者が――』

 『専門家の意見によると、『これを止められるのは世界でただ1人』とのことで――』


 「派手にやるじゃねぇか」


 ここは、矢倍高校。

 2年の教室の1つで、不死身ふじみ無敵むてきがスマホでニュースを見ていた。

 ちなみに、このスマホは他人の物である。


 「今度は香港島かぁ。前はユーラシア大陸だったのに」

 「そのユーラシア大陸も、半分くらい消し飛んだからね」

 「次は日本か?」


 クラスメイト達に、危機感はまるで存在しなかった。平和ボケにしても異常なくらいである。


 「フン、構いやしねぇ。たかが大陸を消したごときで、私を傷つけられると思ったら大間違いだ」

 「まあ無敵がいるしな、何とかなるだろ」

 「最悪俺ら死んでも、無敵が俺らのこと覚えてるから勝ちでしょ」

 「そう! 俺達は選ばれし神の眷属! 無敵軍団だ!!!」

 『うおおおお!!!』


 その時だった。


 チュドォォォォン!!!


 突如として、矢倍高校を大爆発が襲った。

 衛星兵器もかくや、という威力に、矢倍高校の校舎は耐えられなかった。


 「クソが! どこの誰だ、こんなふざけたマネしやがったのは」


 しかし、無敵は生き残った。

 それどころか、傷一つついていない。勿論、普段から着用する白いセーラー服にもである。


 「これが! これが!!! これが有頂天うちょうてん無敵王むてきおうの御加護であり、御慈悲である!!! どこの馬の骨とも知れぬ魔人などに貫けるものではないッッッ!!!」

 「いやぁ、助かったぜ。狂信者の結界が無けりゃ、即死だった」

 「校舎は死んだが、俺達は生きてるから何も問題ないな!!!」


 矢倍高校の生徒は、全員が無事だった。

 それもそのはず。無敵のいる教室にいた狂信者が、生徒全員に結界を張ったのだから。


 この結界は、無敵の信仰心から始めた礼拝や儀式の副産物であり、無敵の硬さを可能な限り再現したものとなっている。

 その硬度は無敵には遠く及ばないものの、無敵本人からは一目置かれている。

 

 「しかし、一体誰がこんなことを?」

 「こんなことをできるのは世界でただ1人。魔人ジューダムだ」

 「なるほど。流石の慧眼けいがんだな、無敵。ところで、あの空に浮かんでるのは何だ?」

 「それもジューダムだ」

 「何!? ジューダムだと!? なるほどな、どうりでおかしいと思ったよ。人が飛んでるなんてな」


 無敵達のいる場所の上空には、魔人ジューダムが、翼を使って飛んでいた。

 それに対し、腹を立てたのが無敵である。


 「クソ野郎が、高みの見物か!? ブッ殺してやるッッッ!!! うぉぉぉぉ……らああああぁぁぁぁッッッ!!!」


 激怒した無敵は、校舎の残骸を無造作むぞうさつかみ取り、ジューダムへと投擲とうてきした。

 無敵の破壊的な超強肩きょうけんから繰り出されたそれは、音速を遥かに超えたスピードを出し、ジューダムへと迫った。


 『ほう……ズワァッ!!!』


 しかし、ジューダムとてそれを受ける道理は無い。

 気合いの一喝いっかつと共に、全身から衝撃波を放ち、飛来する瓦礫がれきを消し飛ばしたのだ。


 回避しなければ危うかっただろう威力。

 それを繰り出した無敵に興味が湧いたのか、ジューダムは無敵の方を見た。


 「降りてこい!!! いや、降りなくていい!!! 今から殺しに行くぞおおおおぉぉぉぉ!!!」


 無敵がそう宣言すると、奇妙なことが起こった。


 何と、瓦礫が独りでに動き出し、ジューダムへ向かう階段を作り上げたのである。


 「なんだ!? 階段が出来上がった!?」

 「磁力だ、無敵の身体から出た磁力が瓦礫で階段を作り上げたんだ」


 そう。無敵の身体から放たれる磁力は、常人とは比較にならないほど強い。

 つまり、物体を自在に操ることもできるのだ……尤も、無敵はそれを全く制御していない。


 「死ねええええぇぇぇぇ!!!」


 出来上がった階段を、全速力で駆けあがる無敵。

 勿論、黙ってみているジューダムではない。指先から、無数のビームを放ってきたのだ。

 そのビームが命中した階段は崩壊したが、無敵は怯みすらしなかった。


 『ククク、人間ではないようだな。しかし、それで空を飛んだつもりか?』

 「馬鹿が、私は人間よォ。んでもって、私が空を飛ぶんじゃねぇ。空の方が落ちてくるんだよおおおおおおおおぉぉぉぉッッッ!!!」

 『なにっ』


 崩れ行く階段から跳んだ無敵は、空中で叫んだ。

 すると、ジューダムが揚力を保てなくなり、地面へと堕とされた。


 『これは……!?』

 「重力だ。無敵の雄叫びで局所的な重力崩壊が起こり、元に戻そうとする重力が流れ込んできたんだ。その結果、ジューダムも巻き添えを食らったんだ」

 「その通り!!! これでテメェは飛べねぇぜ!?」

 『ククク……オレから自由を奪うとはな……覚悟はいいか?』


 怒ったジューダムから極大のプレッシャーが放たれた。

 圧力にあてられた生徒の何人かは、結界を貫通する圧によって消し飛ばされた。


 「来いよぉ!!! 世界より硬ぇ、この不死身無敵様を倒せるもんならなぁッッッ!!!」

 『面白い……魔人ジューダム。我が名において、森羅万象の一切を肯定するッッッ!!!』


 女子高生VS魔人!!!

 極限バトルが、今始まるッッッ!!!




 ◇




 「悉く灰燼と化す焔の杖レーヴァテインッッッ!!!」


 まずは無敵の先制攻撃。

 無敵は体内の温度を数十億度にまで高め、口から炎のレーザーを撃ち出した。

 射線上に存在する物体全てを消滅させ、細い太陽が地表を抉り取る。


 『ハァァァァッッッ!!!』


 ジューダムも負けていない。

 触れる物全てを蒸発させる炎を、バリアを作り出すことで防ぎ切ったのだ。


 『中々やるな! こちらから行くぞ!』

 「! これは鎖……いや、アンカーか!」


 無敵の身体に鎖が巻き付いた。

 それは、先が『U』の形をした巨大なアンカーだったのだ。


 「うおおおお!?」


 一般的な女子高生の平均体重をまあまあ超える無敵が、ジューダムの怪力に振り回される。

 しかし、常人ならばグチャグチャになる衝撃を受け続けてなお、無敵にダメージは無かった。


 「紺碧なる後ろ襟ィィィィ!!!」

 『なにっ』


 無敵はセーラー服の後ろ襟で鎖を切断し、死のメリーゴーランドから脱出した。

 そのまま勢いでジューダムに接近し、殴る。


 『ぐおお!?』

 「どうだ美味いか!? 私のアッパーの味は!?」


 遠心力を生かした強力極まりないアッパーが、ジューダムの顎にクリーンヒットし、上空に打ち上げられた。

 いかな魔人であるジューダムとて、無敵の怪力で顎殴られたことで、意識が朦朧とする。


 『何の……これしき!』


 しかし、上空の冷気が気付けとなったことで、ジューダムは意識を取り戻す。

 彼は右腕を大砲のように変化させ、技名を叫んだ。


 『メイルシュトロォォォォムッッッ!!!』


 全てを押し流し、飲み込んでしまう水の奔流。意思を持った水の魔物が唸りを上げる!

 今この攻撃で、日本の大地の約9割が水に沈んだ。


 「やっちまったなぁ、ジューダム! 日龍がキレるぜ!?」

 『日龍……?』


 その時、突如として巻き起こる地震。

 山々は噴火し、大地は粉微塵に割れ、果ては空間すら歪曲する!


 「な、何だぁぁぁぁ……」

 「何かに吸い込まれぇぇぇぇ……」


 矢倍高校の生徒のみならず、日本国民が消えてゆく。

 そして、無敵を除いた人間が日本だった大地から消失すると、そいつは姿を現した。


 『グオオオオォォォォッッッ!!!』

 『なにっ!? ドラゴンだと!?』


 日本そのものが龍となり、顕現した。

 この龍の名は『日龍』。はるか昔、眠りについたことで、その上に日本ができたのだ。


 日龍は全ての日本国民と融合、同化吸収し、究極の力を得た。

 今や、日龍そのものが日本なのである。


 『ギャオオオオッッッ!!!』

 『ゾッボボボボ!!!』


 メイルシュトロームと日龍は争いを始めた。

 しかし、滾る日の力の前に、水が蒸発してしまうことで、日龍が優勢のようだ。


 『メイルシュトロームがッッッ』

 「よそ見してる場合かぁッ!?」

 『なにっ』


 超巨大な日龍の身体を蹴ることで、無敵はジューダムの背後まで跳躍する。

 そして、後ろからジューダムの首に太い脚を絡めた。


 『こっ、これは……!?』

 「これは海賊王だった頃のお前を殺した技! 『海賊絞首刑かいぞくこうしゅけい』ィィィィッッッ!!!」


 ガッチリとホールドされたまま、爆速で落下する。

 それはさながら、罪人を地獄へ送る処刑台のようだった。


 『ぐおおおおッッッ』


 無敵の脚による圧力、落下による衝撃などが合わさり、ジューダムの首が飛んだ。


 『み、見事だ……無敵……よ……』


 その言葉を最後に、ジューダムは死んだ。

 魔人は不死身ではあるが、それ以上の不死身である無敵に殺されたことにより、復活できないのだ。

 消えゆく魔人の姿を見ながら、無敵は叫ぶ。


 「これが……かつて奴隷から海賊王に成り上がった男の末路か!? クソォォォォッッッ!!! ふざけるなああああぁぁぁッッッ!!!」


 空間が爆裂するほどの咆哮の後に残されたのは、戦いに勝利した日龍のみだった。



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新世界創世超絶対全宇宙銀河古今東西南北天上天下森羅万象究極不滅神話最強伝説 ~有頂天無敵王『不死身無敵』~ アースゴース @pigugara222

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