新世界創世超絶対全宇宙銀河古今東西南北天上天下森羅万象究極不滅神話最強伝説 ~有頂天無敵王『不死身無敵』~

アースゴース

第1章 不死身無敵 虚無編

第1話 学校に怪人がやってきた!!!


 不死身ふじみ無敵むてきは怒っていた。

 それは、とっておきのプリンを親父に食われたからではない。そもそも、そのプリンは父親のために買ってきたものだった。無敵にとってなんら痛手でもない。

 では何故怒っているのか。それは目の前の人物に関係があった。


 「大丈夫? 怪我は無いかい?」


 全身が真紅の装甲に覆われた人物。首に巻かれたマフラーが風に揺れる。

 彼は世に蔓延る怪人達と戦うヒーローの一人。名を『マスカレイド』と言った。無敵は彼に怪人から助けてもらったのだが、何やら納得していない様子である。


 「で怪我なんざするかよ。ああクソ、折角襲ってきた怪物だったから捕まえてやろうとしたのによ。アンタのせいで台無しだぜ」

 「う、うーん。ヒーローとしての活動で罵倒されることもあるけど、流石に怪人を捕まえる気だったって言うのは初めてだなぁ」

 「アンタの初めては私が頂いたぜ」

 「女の子がそんなこと言っちゃいけません」

 「うっす」


 無敵は怪人を捕獲し、学校で見せびらかす腹積もりだったようだが、その浅はかな企みは正義のヒーローによって怪人諸共爆発四散した。

 しかし、無敵の怒りはマスカレイドと話している内にきれいさっぱり消え去ったようだ。無敵は細かいことを気にしないタイプなのである。


 「ま、一応礼は言っとくわ。ありがとよ」

 「……どういたしまして。君もこれから学校かい? 気を付けてね」

 「まあね、そっちもご苦労さん。じゃあな。次は邪魔すんなよ?」


 そう言って無敵は学校への道を歩み出す。彼女が完全に見えなり、周囲に誰もいないことを確認してから、マスカレイドは変身を解除する。

 中から出てきたのは赤髪が特徴的な、二十代後半くらいの青年だった。


 「あー、もしもし? また怪人が出たんだ。場所は――」


 彼の名前は緋色ひいろ英雄ひでお。かつて、世界の平和を脅かす悪と戦い続け、見事世界を救った正義の味方ヒーローの一人である。

 彼は、無敵によって再び数奇な運命に巻き込まれることとなる……かもしれない。



 ◇



 甘粕あまかすにしきは恋をしている。それは、彼らの通っている学校である、『矢倍高校』の生徒や教師ならば誰しもが知っている事実である。

 知らないのは彼が恋をしている人物、牧島まきしま嶺緖ねおのみである。生徒も教師も皆、そのもどかしいすれ違いに歯がゆい思いをしている。

 気にしていないのは不死身無敵くらいだろう。


 「はぁ、薪島さん……」

 「錦ィ、いい加減告白したらどうなんだ。なぁ、無敵」

 「……? ああ、何だかわからんが、いいんじゃないか?」

 「(ダメだ、無敵はあてにあてならん)そろそろ俺たちも限界でよぉ。もどかし過ぎるんだわお前ら」


 クラスのムードメーカー的存在である中島なかじま盛高もりたかはうんざりしたように言った。

 無理も無い。錦は内に秘めた想いをストレートには告白せず、回りくどいアプローチを繰り返している。また嶺緖は、錦の回りくどい好意に全く気づいていない。

 それを毎回間近で見ており、もどかしい思いをしていた盛高はいい加減二人をくっつけてしまおうと思っていたのだが。


 「だからここらへんで俺が場を整え……?」

 「何だ?」


 学校中に警報が鳴り響く。もし誰かのいたずらでなければ、非常事態ということになる。


 『校内に怪人が侵入しました。先生の指示に従って速やかに避難してください』

 「か、怪人!? 冗談じゃねぇ……!」

 「は、速く逃げなきゃ!」

 「お、押すなって!」


 突然の事態に生徒達は混乱する。何せ侵入したのが不審者などではなく、銃火器も効かない怪人なのだから。彼らは恐怖に怯えるしかない。

 だが、一人例外がいた。無敵である。


 「うるせぇ」


 一言。ただそれだけで教室は静まり返る。この高校の頂点に君臨する鋼鉄の化身を前にして、怪人への恐怖など塵芥も同然である。


 「怪人なら私が食い止める。お前らは安心して逃げろ」


 自分が負けることなど微塵も感じさせない無敵の言葉は、生徒達を落ち着かせるには十分だった。


 「は、はは……何か、騒いでたのがバカらしいや」

 「そうだ、不死身さんがいるじゃないか」

 「おお……主よ、我らに鋼の加護を与えたまえ……」


 彼らは静かに、列を乱さず避難する。しかし、無敵だけは怪人を食い止めるため、彼らとは別方向へと向かう。


 ――ただ、無敵は怪人の居場所を知らなかった。




 ◇




 牧島嶺緖は不安だった。学校に怪人が侵入し、無敵が自ら囮になろうとしている。

 無敵がいるというのはそれだけで安心できる要素だが、怪人はどこにいるのかはわからない。無敵の進んだ方向に怪人がいる保証はどこにもないのだ。

 それを言わなかったのは、皆を不安にさせたくない為だった。


 「大丈夫かな……」

 「無敵なら大丈夫やろ」


 嶺緖はそういうことじゃないと言おうとしたが、それでは無敵の心配をせず、自分のことばかり心配していると思ったので、それを言わなかった。


 「車に轢かれてもピンピンしてる奴やで。あんなんヒーローか怪人や言われても信じるわ」


 寧ろそうじゃないとおかしいと、空恐ろしい美貌と、黄金比の均整を持つ少女、金田かねだ金子かねこは言った。金子は無敵のことを心配していない様子である。

 それから二人会話は二転三転し、怪人の話題になる。


 「侵入してきた怪人って、どんなカッコしとんのかな?」

 「さぁ……? でも、怪人って言うからには、変な格好なんじゃない?」

 「変ってなんやねん」

 「え? うーん……あ、ほら。あれみたいな」

 「あっ、ホンマや。まるで怪人みた……い……や……な」


 嶺緖が指さした方向を見た金子は言葉を失った。


 「やっと見つけたぞ……“器の女”……!」


 まるで虫を人型にしたような異形だった。

 赤く大きい複眼と細く短い触角は、この空間の全てを掌握しているのだろう。

 滑らかな丸みを帯びた深緑の外骨格は、刺々しいものが多い怪人にしては珍しい。

 太く強靭な脚は、彼女達の腰程もある。


 「かっ、怪人!?」


 彼は紛れもなく怪人だった。突如として現れた怪人に生徒達のほとんどは驚愕し、呆然としている。


 「ひぇ~! ウチはどうなってもええからお金だけはぁ~!」


 しかし、金子は怪人を見るや否や、土下座をした。

 あまりにも綺麗で、流れるような土下座だったので、怪人すら一瞬呆けたほどだった。


 「その年で己が生命よりも金か……憐れな。しかし、命を懸けるその姿勢は気に入った。邪魔立てしないのなら、見逃してやる。他の者達もな」

 「へっへっへ。お兄さん、話わかりますなぁ。何かお買い求めの際は、『怪獣かいじゅう商店街』及び金田商店をごひいきに。ウチ、これでも顔が利くんで、お安くなりまっせ」

 「金子ちゃん!?」


 そんな中、ほぼノータイムで土下座しながら命乞いならぬ金乞いを始めた金子を、怪人は心底憐れむ。

 しかし、見逃すと言った瞬間揉み手しながら実家の店と地元の商店街の宣伝を始めたのに対しては、呆れて物も言えない様子である。


 「……まぁいい。我が目的は“器”にある。そこの女、来てもらうぞ」


 怪人が指したのは、嶺緖だった。


 「……?」

 「違う! お前だ!」


 しかし、勘違いした嶺緒は後ろを見た。怪人はそれに対して、即座にツッコミを入れる。

 が、嶺緒はなおも勘違いを続ける

 

 「え? 誰?」

 「お前だ! 黒髪ショートの……」

 「ショート? 金子ちゃん?」

 「そいつはどこからどう見ても金髪だろうが! お前だ! 金髪の横の!」

 「ギャルちゃんの横……? ケン君?」

 「違う! 男じゃない! 今! 返事をしているお前だ!!!」


 ド級の天然ボケに、怪人はツッコミに回らざるを得ない。

 ようやく合点のいった嶺緒は、自分を指した。


 「え? 私ィ~!?」

 「そうだ!!」


 いきなり来いと言われた嶺緖は困惑した。怪人なんぞにノコノコついて行けば、何をされるか分かったものではない。しかし、力量差は一目瞭然。

 ならばと嶺緖は時間稼ぎ兼友人の安否確認に移行する。なお、今のが時間稼ぎだという認識は、嶺緒には無い。


 「待って!」

 「何だ」

 「無敵ちゃんは、無敵ちゃんはどうしたの!?」

 「無敵? 誰だそれは」

 「長い黒髪の、超超超凶悪な目つきの女の子よ! 貴方を止めに行ったはず!」

 「? 会ってないが……」

 「そもそも出会ってなかった!?」


 確かに無敵はその名の通り頑丈で力も強い。彼女の手にかかれば、砂利でさえショットガンと化すと、まことしやかに囁かれている。

 そして持久戦では無尽蔵のスタミナで真価を発揮し、一度食らいつくと滅多なことでは放さない。


 しかし、その能力も敵がいなければ全くの無意味である。

 目の前の怪人が無傷でここにいると言うことは、本当に出会っていないのだろう。


 「時間稼ぎは終わりか? なら来てもらうぞ」

 「ちょ、ちょっと!」


 怪人が嶺緖に手を伸ばしたその時だった。


 「牧島さんから離れろおおおおぉぉぉぉッ!!!」

 「ぬおッ!?」


 甘粕錦が大声を上げながら怪人へと突進し、怪人諸共揉みくちゃになりながら転がる。

 ある程度転がったところで停止し、立ち上がる。

 明らかにウェイトが違い過ぎる二人は向かい合い、対峙する。


 「ッ! 邪魔立てするか、人間!」

 「ああ! そうだよ! そのつもりだよ!」

 「何故邪魔をする?」

 「牧島さんを連れて行こうなんざ許せねぇからだ!」


 二人の男は、あれやこれやと問答を続ける。そこには男にしか分からない何かが存在していた。

 実際、怪人は何かを感じ取っていた。


 「……? 何故その女に拘る?」

 「てめぇに言う必要なんざ、これっぽっちもねぇ! こちとら、マリアナ海溝より深(ふけ)ぇ事情があるのよォ!」


 感じ取っていたのだが、肝心の錦が隠してしまったせいで、怪人は何も知ることができなかった。


 『アマッカスぅー! ここは一思いに言っちまう時じゃないのか!?』

 『負けるんじゃねーぞぉー!』

 『薪島さんの為だろぉー!?』

 「うおおお! 取りあえずぶっ飛ばしてやる!」

 「……この声援はなんとかならんのか」


 クラスメイトの応援の下、錦は威勢よく怪人に躍りかかる。しかし、彼は格闘経験など喧嘩が精々であり、見るからに達人然とした怪人にあっけなく躱された。


 「は、はえぇ!」

 『何やってやがる甘粕!』

 「先程は油断したが、次はそうは行かん」

 『当てろ! 次は当てろ!』

 「んー! 慣れた!」

 『嘘だろ錦!?』

 「何!?」


 しかし、錦は早くも怪人の速度に順応し始めたのだ。

 最初は掠りもしなかった拳が、今や掠り、当たるようにすらなっていたのだ。


 「な、馬鹿な……」

 『やっちまえよ、そんな怪人なんか!』

 「掴んだッ!!!」


 そして、が、怪人の滑らかな流線型を描く外骨格を力強く掴んだ。


 『うおーッ! あれは! かつて錦達が霊峰に籠り、厳しい修行を経て体得したと言われる奥義……! 極めればまさしく雷霆らいていの如き威力を持つというそれはァァァァッッッ!?』

 「必殺! オリュンポスおろぉぉぉぉしッッッ!!!」

 「ぐおおおおッ!?」


 錦の体格と怪力から繰り出される投げ技、オリュンポスおろし。

 かつて、最高神ゼウスより伝授されたといわれるその絶技は、怪人を容易く上空へ放り投げ、受け身もままならない内に地面へと叩きつけた。


 「お、おお……ぐッ! な、何という技……!」

 『流石錦! 100キロはくだらねぇだろう怪人を投げるなんて!』

 「どうだ参ったか!? これこそ無敵直伝・大江山おろしなりィッ!」

 「くっ! こうなれば、本気で行かせてもらう……!!!」


 そう言って、何とか立ち上がった怪人は構えた。

 上体を少し後ろへ反らしながら左脚を中心に重心を置き、更に右脚を膝を曲げた状態で上げ、つま先までピンと伸ばした、蹴りに特化させた独特の構えである。


 「最早“脚加減”はできんぞ!?」

 「上等だコラァ!!!」


 錦の渾身の右ストレートと、怪人の本気のキックが交差した。



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