13 冒険者ランク

「つーわけで、これが冒険者のギルドカードだ。失くすんじゃねぇぞ」


 冒険者ギルドに戻ってきてから1時間ほど。

 色々な手続きがあったのだろうことは、奥から聞こえてくるギルドマスターの声で理解できた。


 具体的に言えば、


「うるせぇ! オレが認めたんだ! 文句があるならお前が戦ってみろ!」


 とか、


「あんな逸材を埋もれさせる気か!? とっととSランクで承認しろ! 構わん!!」


 とかである。

 ギルドマスターの大声が事務所の方から響いてきていたのだ。


 ――私の時も色々あったって聞いたなぁ。


 最年少でSランク冒険者ということもそうだったのだろうが、なによりも私が成人直後だったことが大きいだろう。それで形式に縛られてるギルド幹部とか、妬みだとかそねみを向けてくるAランク冒険者が反対していたらしい。


 Sランクになって活動し始めてからはそんな陰口も聞かなくなったが、実力が証明されたからだと後からギルド職員から聞いた。所詮、人の評価などそんなものなのだろう。


 そんな私以上に色々言われそうな先生は、ギルドマスターから1枚のカードを受け取った。

 紙切れ並の薄さなのに金属のようなしっかりとした作りなのは、魔術的な防護が掛けられているからだ。


 個人情報も登録されてるからどこでも身分証として使えるし、ギルドカード加盟店なら支払いにも使える便利カードであり、ある種の魔道具とも言われている。どんな魔術が掛かってるかは、冒険者ギルドの企業秘密ということだ。


「ひとまずギルドの規定として、冒険者ランクや心得について説明してやる」

「なんでギルドマスターがやってるんですか? 暇なんですか?」

「フランよぉ……お前の先生が特別枠だからオレが出てきてやってんだよ」


 ギルドマスターの引きつった笑顔を見て、私は視線を逸らしながら頬をかいた。特別扱いしてくれたのに、私がケチをつけたみたいで気まずい。


「い、いやぁ……普通は受付嬢さんがやるもんだと思って」

「しょうがねぇだろ。ちと面倒な仕様もあるしな。カードの冒険者ランクを見てみろ」


 ギルドマスターにそう言われて、私は先生の冒険者カードを覗き込んだ。

 そこに記載されてあるランクは『C+++』だった。


「なんだこれ。シー、十字十字十字?」

「めっちゃ吸血鬼殺しそうですね」

「十字じゃねぇ、C+++トリプルプラスだ。言ったように特別なんだよ。ってわけで」


 バン、と音を立ててカウンターの上に、なにやら木板を置くギルドマスター。

 そこには冒険者ランクが、わかりやすく表になって描かれていた。 


「基本的なことを説明させてもらう。まずは冒険者ランクからだ」


 ギルドマスターの説明したことをまとめれば、以下の通りだ。本当に基礎の基礎からだが、先生にわかりやすく伝えてくれたと思う。


 まず冒険者ランクはE、D、C、B、A、Sの6段階。

 基本的に上のランクの依頼は受けられない。ただしパーティメンバーとパーティの職業構成、そして実績によっては上のランクの依頼も受託可能になる。


 ランクに関しては昇格試験を受けるか、上のランクのモンスターを安定して狩れるようになったとギルドが判断した場合、上がることができる。

 ただし素行や信頼も考慮されるので、普段の態度も注意が必要だということ。


 当然、実力を鑑みて留まることも可能で、ランクの昇格は強制ではない。


 下記の説明は、あくまでもソロ冒険者における目安。ちなみに戦闘力のみの話だが、ランクは『そのランク認定されたモンスターを危なげなく倒せる』という意味。つまりBランクのモンスターをなんとか倒せる者はまだまだCランクで、余裕で倒せる者がようやくBランクとなる。


 Eランク……完全な初心者。最初は戦闘行為を控えてもらい、安全地域での採取などがメイン。町中で失せ物探しや配達など、小遣い稼ぎ程度の依頼をこなす人たちもここ。


 Dランク……半人前。モンスターと渡り合うための基本的な知識や実力が必要。


 Cランク……一人前。引き際を理解できることが最低条件。多くの冒険者がこのランク。


 Bランク……熟練。後進を育てることも可能なほどの知識と実力を持つ。B以上になると冒険者の数はかなり減ってくる。


 Aランク……達人。冒険者として最高峰。強力なモンスターが現れた時、討伐依頼を半強制されることも。まだ一般人にも理解できる強さ。故に多くの冒険者の憧れ。


 Sランク……特別枠。人類として強さの枠外におり、強力なモンスター出現時は討伐を強制される。その分、報酬や待遇も破格。世界に十数人しかいない。変人が多く、普通の依頼を受けてくれない。


 といったギルドマスターによるザックリとした説明を聞き、先生はこちらを振り向いた。


「フランはSランクだったよな。かなり強いってことか?」

「人間の中では、ですけどね」


 先生を見ると自信を失くすのは内緒だ。そんな先生はなにかを思い出すように指であごをなぞる。


「そういや初対面の時も魔族にやられてたよなぁ」

「や、やられてないです! ちょっと油断しただけで!」


 慌てて反論したからなんか怪しくなったけど、これは本当だ。油断さえしなければ、あのまま押し勝てた可能性は高い。まあ油断したのは事実だから、それから逃げることはしないけど。


「しかも変人なのか?」

「この説明ひどくないですか!? 私は普通です!」


 確かにSランク冒険者には変人が多い。まともな冒険者では辿り着けないと言われているのも納得はする。

 

 ――でも私は違うし!


 必死に抗議すると、ギルドマスターはバツの悪そうな顔でハゲ頭をかいた。


「悪ぃな、フラン。ま、お前はともかく……Sランクほどの実力者はほとんど依頼を受けないんだよ。実態としては受けないっていうか、奴らに見合うレベルの依頼がないってことなんだが」


「依頼を受けないでどうやって暮らすんだ?」


 街で生きていくのなら金は必要だろう、と先生は至極当たり前のことを訊く。

 しかし、ギルドマスターはその質問を予想していたように滑らかに答えた。


「Sランクは報酬も破格。1つの依頼を達成するだけで、普通の人生なら遊んで暮らせるだけの金が得られることも少なくないんだよ。その結果、奴らは日常的には依頼を受けない」


 なるほどと先生は頷き、ふと私を見下ろすように振り向く。その瞳は、なんだかこちらを値踏みするようにあからさまだ。


「じゃあフランも受けないのか?」


 私が答えようとすると、ギルドマスターはまたもや頭をかいて先に口を開いた。


「フランはその辺、まだまともでな。報酬やらなんやらの関係でAランクが受けなかったものや、塩漬けになってる依頼を消化してくれたりするわけだ」


「もっと感謝してください! もっと! ほら早く!!」


 ギルドが困っている時に何度も手を差し伸べたのだ、私は。もちろん自分の修行が混ざっていないかと問われれば答えにくいけど。

 でも世間の為になって自分の為にもなるのなら、それでいいんじゃないかとも思う。

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