密室のおわり


 密室で、男二人が、話し合っている。


 ヒソヒソと互いの声さえわかればいい。それほど近い距離で、ただ二人だけの共通の話。


 二人の男たちは、意味のないかすかな会話を交わす。その裏で、男たちは細かな挙動を見せている。

 視線が、表情が、声色が、触れ方が。ただ二人にしか、わからない合図を繰り広げる。


 ためらい、戸惑い、いさかい、ほんの少しの本当のこと。

 男たちは、互いのためだけに話している。そこに、誰かが増えても、どちらかが欠けても成立はし得ない。暗号のような日常会話。


 彼らの真意は、目に見えない。

 密室は暴く事ができない。

 仮に誰かが聞き耳を立てても、全てを知ることはできないだろう。二人きりでも、全ての本音を曝け出すことは、そうそうできるものではない。人間という存在の、心自体が密室のようなものだ。


 会話が、止まる。

 密室には沈黙が降り、二人の男は数秒の間、見つめあっていた。


「じゃ、さよなら」

「さようなら」

 ドアは開いている。


 密室はもう、誰もいない。

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密室BL 塩野秋 @shio_no_book

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