朝の牛丼屋


 透き通る金の光が、閑散とした朝のチェーン店の中に広がる。朝食に飾り気のない牛丼の並と味噌汁、白菜の浅漬けのセットが二つ、若い青年たちのテーブルに置かれた。味噌汁の湯気をふうとふき揺らし、ブランド物のニット帽を被った青年が問う。


「何時に帰る? 今日……」

「新幹線は?」

 銀色のシンプルなリング型ピアスがいくつも耳を飾っている、黒髪の青年が浅漬けを口に運びながら返す。


「今は別に、遅れとかなさそー。指定席とっておく?」

 ニット帽の青年の言葉に、ピアスの青年は顔をあげた。その視線に首を傾げ、「家帰ってゆっくりしたくない?」と尋ねた。

「……お前は?」

 じっと上目で見つめられ、ニット帽の青年は少し目を泳がせてスマートフォンを見た。見透かされている。そう思うと、少しまごつく。


「行きたい店があんだけど」

「じゃあ行こう。服?」

 ピアスの青年は、牛丼に口をつける。細身のわりに、かきこむように豪快な食べ方をしていた。

「服とカフェ」

「はは」

 ふいに笑う彼につられて、ニット帽の青年も笑った。

「飯食ってんのにね。あんがと」

「ん」


 仏頂面の多い友人だが、視線はいつも、柔らかい。甘やかされているな、と思うと、どこか気恥ずかしい。


 味噌汁の湯気が鼻をかすめ、その温かさに鼻が潤んだ。

 ニット帽の青年はふいに目を上げる。ちょうど視線がかちあい、お互いにまた、笑いがこみあげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る