第9話

【 鮭とかえる 】6

◎ 第2章 夏

第6話 別れ


川が大きくなりました。

流れもおだやかになり、水の味も変わってきました。


以前、亀じいさんが言っていたことです。


「川が大きくなり、流れがおだやかになるころ。

水の味が変わったなぁと思ったら、その先が海じゃ。

鮭は海で大きくなっていくが、かえるは海では生きていけん。

だからそこで鮭とはお別れじゃぞ」


お別れのときです。



「鮭くん、あそこにしよう」


鮭くんの背中に乗ったかえるくんが言いました。


大きな橋の下。

すぐ近くには、電気を伝える大きな鉄柱もありますが、もちろんそれが何かはわかりません。

ただ、その大きな鉄塔は、ふるさとのブナの大木のようにみえるのです。


「あゝいいね。あの大きなのは、ふるさとのブナの木みたいだ」


「そうだね。」


「ここでお別れだよ。そしてここを待ち合わせ場所にしよう」


「秋になったらだね」


「そういや、あのブナの木の下で亀じいさんと会ったね」


「亀じいさんはいつも寝てばかりいたね」


「葉っぱに乗って遊んだりしたね」


「かくれんぼもしたね」


「ついこのあいだのことなのにね」


「ついこのあいだのことなのにね」


別れの寂しさを紛らすように、たくさん話して明るく笑うふたり。


そして・・・。


「かえるくん、そろそろ行くよ」


「うん。鮭くん、元気でね」


「かえるくん、秋になったら迎えにくるよ」


「うん。待ってるよ。」


鮭ちゃんも言います。


「かえるくん、心配しないで。わたしに任せてね」


「うん、ふたりとも元気でね」


「ちょっとだけサヨナラだよ」


「うん、ちょっとだけサヨナラだね」


川を下っていく鮭くんと鮭ちゃん。

そんなふたりの姿が見えなくなるまで手を振り続けるかえるくんです。

そして鮭くんたちの姿が見えなくなりました。


「さて、どこへ行こう」


「秋までどうしよう」


あたりを見渡すかえるくんです。

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