第7話

【 鮭とかえる 】4


◎ 第2章 夏

第1話 新しいなかま

川を下りだし、しばらくすると。

鮭くんと同じ身体をした、たくさんの鮭の子どもたちに会いました。

みんな川を降っていきます。

すると、1匹の鮭が近づいてきました。

鮭ちゃんです。

「変なの!

なんで鮭が違う生き物といっしょにいるのよ!

鮭は鮭だけでいっしょに旅をするものよ」


鮭ちゃんがこう言いました。


鮭くんもこう返します。


「だって僕らはいっしょに産まれた仲間だもん。僕らも一緒に旅をするのさ」


不満げに鮭ちゃんが言います。


「わけわかんない!

鮭は鮭だけで仲間になるものよ!」


鮭ちゃんのあまりの勢いに鮭くんが言い淀んだとき。

かえるくんがゆっくりと言いました。


「僕たちは生まれたときから、一緒にいるんだ。鮭くんと僕は、見た目は違うけど、それが間違いではないよ。

見た目が違っても、お互いが違うんだって認め合えば、新しい仲間になれると思うよ」


「えっ!それは、、、」


今度は鮭ちゃんが言葉に詰まりました。


「仲間だからね、お互いに得意なやり方で助け合えるし」


かえるくんはその場で飛び跳ねながらこう答えました。


「もーわけがわかんない!」


鮭ちゃんはぷんぷん怒って去っていきました。


そんなできごとがあっても。

2人はどんどん川を下っていきます。

◎ 第2章 夏

第2話 猫のキナコ・前編

亀じいさんと別れて、淵を出ていくふたり。

前へ前へ。

川を下っていきます。

鮭ちゃんと会ったり、たくさんの鮭くんの他の仲間と出会ったり、どんどん川を下っていきます。

この日の夕方。


「今日はこのあたりで休もうか」


そこは流れのおだやかな浅瀬。

大きな石のかげにある、水底の落葉をベットにウトウトしかけたときです。


音もなく近づいて来る生きものが。

ふたりはまだそれに気づいていません。

少しずつ、少しずつ。

音もなく、だんだんと近づいてくる生きもの。

トカゲです。

鋭い目にチロチロ動く、長い舌。

鮭くんとかえるくんを食べようとしています。

ふたりはまったく気がついていません。


いよいよ。

トカゲが飛びかかろうとした、そのときです。


「あっ!危ない!」


ようやく異変に気がついたかえるくんです。

鮭くんの前に立ち上がり、鮭くんを、庇おうとします。

かえるくんの3倍以上の大きさで迫るトカゲです。


「あ〜っ!」


絶体絶命!

大きな口を開けたトカゲが飛びかかってきます。

蛙くんが目を閉じて身構えたそのとき。

トカゲのさらにその上からジャンプしてきたものが!

するどい爪を持った手が、とかげに襲いかかります。


ニャー!

バシーン!


水面を飛び散る水しぶき。

あわてて逃げるとかげです。

あとにはニョロニョロと動く、とかげの尻尾が残されたのみ。


間一髪。

危機を免れたふたり。

見上げれば、途方もなく大きな生きものがふたりの前に。

大きな茶色い猫です。


「あーあ、逃しちまった」


猫はとかげを逃したことがよほど悔しいようです。

ニョロニョロ動くとかげの尻尾をその手でふり払います。


対して、生命を助けられたことを悟ったふたりです。


「助けてくれて、ありがとう」


「ありがとう」


水面に顔を出してお礼を言うふたりです。


小さなさかなと小さなかえる。

水の中から顔を出してお礼を言うので、逆にこれを驚く猫です。


「おれが怖くないのかい?」


亀じいさんよりもずっとずっと大きな生きものが言います。


「どうして?」


鮭くんが不思議そうに言いました。


「だって助けてくれたし」


「う〜んと、う〜んと・・・」


一生懸命に言葉を考えながら、かえるくんも言いました。


「怖くないよ。ぼくたちよりもとっても大きいのは立派だし。

それにみんな違うからおもしろいんだよ」


「そうか。違うからおもしろいか!」


「わはは。気にいった!」


大きな生きものは、その口元から牙をむき出して大笑いをします。


「おれはキナコ」


片目のない、大きなねこ。

隻眼ねこのキナコです。


「ぼくは鮭」


「ぼくはかえる」


水辺の石の上と下。

姿かたちに大きさも違う3匹の生きものが、友だちになった瞬間です。


「鮭とかえるが一緒にいるのは初めて見るぞ。

おまえたちはどうして一緒にいるんだい?」


「それはね・・・」


ふたりはこれまでのことを話します。

この川の上流で、ふたり一緒に生まれたこと。

そして友だちになったこと。

鮭くんが川を下るというので、かえるくんも途中まで一緒に下ることにしたことなど。


「そうか・・・」


話を聞き終えた猫のキナコ。


「おれにも仲の良い兄弟がいたんだがなぁ。」


キナコが語りはじめました。

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