第6話

第9話 旅立ち


鮭くんとかえるくんが、旅立ちを決めた翌日。

出発のときです。


ふたりは亀じいさんに別れのあいさつに。


「亀じいさん、それじゃあ行ってくるよ」


「そうか。気をつけて行ってくるんじゃよ」


「鮭は問題ないと思うが・・・」


続けて亀じいさんは諭すようにかえるくんに言いました。


「よいか、かえるよ。

何度も言うが、おまえは海では生きられないんじゃ。

海の水は川の水とは違う。

川が大きくなり、流れがおだやかになるころ。

水の味が変わったなぁと思ったら、その先が海じゃ。

だからそこで鮭とは一旦お別れじゃぞ」


「うん、わかった」


「季節が変わって、秋になる前に。

そして、鮭が海からもどったとき。

ふたたび会う鮭は、今とはまるで違う姿かたちだからな」


「えっ?」


今はまだほとんど同じ大きさの鮭くんとかえるくん。

お互いを見比べます。


「鮭くんは大きくなるの?」


「ぼくもわからないよ」


「鮭は今のおまえたちより何倍も大きくなるんじゃ。

わしよりも大きくなるぞ」


「へぇーすごいなぁ、鮭くん」


「へへへ」


鮭くんはなんだか誇らしげです。


そして亀じいさんが水の上を指差してこう言いました。


「ふたりともこの木を見てごらん」

「これがブナの木じゃ」


ふたりは水面から顔を出して木を見上げます。

いつも亀じいさんがいる大きな岩の上。

その大きな岩の上のうしろには、ひときわ大きなブナの木が生えています。

青々としたたくさんの葉を広げるブナの巨木です。


ときおり落ちてくる葉っぱ。

水に浮かぶ葉っぱに乗ったり、隠れたりと遊んだ木の葉。

この葉っぱがブナの木の葉でした。

ブナの葉っぱは、ふたりのいい遊び道具でした。

そんな葉っぱが青空いっぱいに広がっています。


たくさんの葉っぱは小枝につながり、たくさんの小枝はさらに太めの枝につながり、そしてさらに大きな枝は、最後に一本の幹へとつながります。

この巨木を始め、たくさんのブナの木やその他の木々が森を作っています。


「これがブナの木。そしてこのブナの木の幹、あんなふうに鮭はなるんじゃ」


「えっ?意味がわかんないよ」


「そうだよ。ぼくは魚だから木にはなれないよ」


「ホッホッホ」


笑いながら亀じいさんが優しく2人を抱き寄せてこう言いました。


「いずれわかるよ。

とにかくこのブナの木のようになって帰っておいで」


「なんかわかんないけど、ちゃんと帰ってくるからね」


「亀じいさんも元気でね」


「ああ、お前たちもな。

帰ってきたら外の話を聞かせておくれ」


「うん」


「楽しみにしててね」



緩やかな流れの淀みから外の世界へ。

いよいよふたりの旅が始まります。

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