第17話 入寮

 王都士官学院。


 街や王都を妖魔から守る兵士を統率するための指揮官を育成するために特化された学院。


 軍の指揮官を育成するための学院であるため国営である。


 国営ということは、運営資金が潤沢にあるということ。


 つまり。


「……でっけえな」


 初めて士官学院を見た俺の第一印象である。


 校舎も敷地面積も、俺が通っていた中等学院とは比べ物にならないほど大きくて広い。


 さすが国営の学院。規模が違う。


 そんなことを思いながら、ポカンと間抜け面を晒して校舎を見上げていると、声をかけられた。


「おい、お前新入生か? そんなところで突っ立ってないで、さっさと手続きをしろ。まあ、気持ちは分かるがな」


 その声にハッとすると、士官学院の校門を護っている守衛さんが俺のことを見ながら苦笑していた。


「あ、す、すみません。えっと、新入学生のフェリックス=カインドです」

「フェリックスね。フェリックス=カインド……お、あった。じゃあ、合格通知書と本人確認書類を出して」

「あ、はい」


 士官学院の施設に圧倒されてしまったことを誤魔化すように名前を名乗ると、守衛さんは詰め所に入り、何事もなかったかのように手続きを始めてくれた。


「……ん。よし。では、この書類を持って寮に行って入寮手続きをするように。寮はこの道沿いにあるからすぐに分かる。じゃあ、すまんがあとは自分でよろしくな」


 守衛さんはそう言うと、また詰め所から出て行った。


「おい! お前、新入生か!? いつまでも呆けてないで、早く手続きをしろ!」


 ……どうやら、初めて士官学院を見て呆けるのは俺だけじゃなくて結構な人数がいるらしい。


 そりゃ、いちいち構ってられないよな。


 俺は、守衛さんに声をかけられ赤くなりながら手続きをする新入生を見ながら教えられた寮への道を歩き出した。


 歩きだして数分後、校舎から離れたところにいくつかの建物があるのが見えてきた。


 その建物は、黒い屋根の建物、赤い屋根の建物がそれぞれ二棟ずつ建っており、剣士科と魔法科の男子寮と女子寮であると推測できた。


 その辺の説明はなかったけど、士官学院に入学する生徒ならそれくらい自分で判断しろってことなんだろう。


 とりあえず、俺は魔剣士科なので、この四棟とは別の建物を探した。


 すると、この建物の奥に、こじんまりとした建物が一棟あるのが見えた。


 屋根は紫。


 ……。


 あれ? 一棟?


 俺は改めて周りを見渡すが、この建物の他に建物はない。


 え、まさか、魔剣士科は男女同じ寮になるのか?


 まさかと思いつつ、俺はその紫屋根の建物に入った。


 玄関を入ってすぐにシューズボックスがある。


 よく見ると名前が書いてあり、そこに俺の名前も見つけた。


 そのシューズボックスの中にはスリッパが入っており、どうやらここでスリッパに履き替えて中にはいるらしい。


 俺はスリッパに履き替えて寮内に入る。


 ちょっと気になることもあったけど、とりあえず先に寮の責任者の人に挨拶と確認をしないといけない。


 寮に入ってすぐ、食堂を見つけたのでそこに入る。


「あの~、すみませーん」


 食堂に入りながらそう声をかけると、奥にあるキッチンと思われる場所からバタバタという足音が聞こえてきた。


「はいはい。どちらさまですか?」


 出てきたのは、頭に三角巾をしエプロンを装備した恰幅のいいおばさんだった。


 間違いなく寮母さんだろう。


「あ、俺、新入生のフェリックス=カインドといいます。入寮手続きに来たんですけど……」


 俺がそう言うと、寮母さんは「まあっ!」と目を輝かせて俺に近寄ってきた。


「まあまあ! あなたがフェリックス君ね? 私は寮母のサリナよ、よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「さて、じゃあ入寮の手続きをしましょうか。ここにサインをして……はい、これで完了。あとはこの書類を読んでおいてね。寮の規則とか書いてあるから」

「はい、分かりました」

「あと、皆が揃ってからになるんだけど、寮の監督生を決めないといけないから覚えておいてね」

「監督生ですか」

「ええ。本当なら前年度の成績優秀者が務めるんだけど、あなたたちは新設科だから新入生から決めないといけないの」


 新設科……やっぱりそうなんだな。


「でも、決めるってどうやって決めるんですか?」


 新設科なので新入生から決めるのは分かったけど、その方法が分からなくて聞いてみた。


 すると、サリナさんはニッコリ笑って言った。


「それはもちろん、皆で話し合うのよ」

「皆って、全員ですか? それは時間がかかりそうだな……。


 俺がそう言うと、サリナさんは一瞬キョトンとしたあとケラケラと笑い出した。


「あはは、大丈夫よ。なんせ……」


 その次にサリナさんが言った言葉に、俺は耳を疑った。


「だって、魔剣士科の新入生はあなたを入れて六人しかいないもの」


 ……新設の魔剣士科は、思ったより少数精鋭だったらしい…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る