エイルの挑戦状02

 異世界に転移して、魔族を助けたら魔王になった。

 

 魔王とは魔族と呼ばれる人々から選挙で選ばれた、リーダーの呼称だ。

 

 なぜ選ばれたのか?それはジェノサイド、つまり迫害を受けており、希望として選ばれたのだ。

 

 魔族を迫害し、絶滅へ追い込む存在は人間である。そして最大の脅威はエイルに、選ばれし勇者だ。

 

 支えて共に戦ってくれていた魔族の戦士達は勇者の情報と引き換えに皆殺しにされた。

 

 もし負ければ魔族にもう戦える者はいないので女も子供も皆殺しにされるだろう。

 

 魔族を守るために、希望を託して死んでいった者達のために、負けられない戦いが始まる。

 

 だってチート勇者がやる気満々で目の前にいるのだから。

 

 勇者の情報を今一度思い出そう。

 

 職業 勇者 人間 

 

 状態  魔族を絶滅させる祝福

 

 HP  10/10

 

 MP  0/0

 

 STR 9999京9999兆9999億9999万9999

 

 VIT 1

 

 AGI 9999兆9999億9999万9999

 

 DEX 1

 

 INT 1

 

 スキル

 

 神の福音エイルとの約束 効果 勇者のありとあらゆる望みを魔族を殲滅した時に神が叶える祝福。これにより勇者が魔族殲滅を諦めることはない。

 

 主人公補正ただの理不尽 効果 どんなピンチに陥ってもどんな連続攻撃を受けても、必ずHPを1残し、あらゆる状態異常から回復する。異世界であっても舞い戻り、魔族を殲滅する勇気を得る。

 

 

 脳筋勇者め、頭悪すぎて交渉すら出来ないじゃん!!それに主人公補正とそのオーバーキルな力は卑怯だぞ!!こうなればこちらも奥の手だ。助けて!!魔族の神様ざくれろ!!

 

「我を呼んだのは貴様か」

 

 魔族の神である我『ざくれろ』はこの場の地面より煙の様に湧き出でた。恰幅のいい厚い胸板。美しい我は身長が二メートルもあるターバンと仮面の謎の神。突然だがこの物語は我の主観へと変わる。

 

「がおぉーっ!」

 

 勇者が魔王から眼を離し、我を見て吠えた。筋力と敏京捷性がほぼ一垓と一京あって、体力と器用度と教養が一しかないっていう事はあれだな、でっかいカマキリみたいなもんだな。そうだお前はカマキリだ。そう決めた。

 

「しゃっ!」

 

 おっと危ない! 大きな鎌で首が切断されそうなところを間一髪かわしたぞ。さすがに素早いな。一発くらえば首チョンパだ。

 

 連続攻撃を食らうとさすがに我でも危うい。こういう時は作戦だ。カマキリさん、こちら♪ 手の鳴る方へ♪

 

「ぎゃーす!」

 

 頭の悪い勇者が我を見て追いかけてくる。連続攻撃は鬼の如く素早いが、器用度が一しかないから逃げる我になかなか当たらんのだよ。そうこうしている内に我らは町のビルディングの一階に辿りついた。待っていたエレベータに乗る。最上階へのボタンを押す。

 

「ぎゃーす!」

 

 我を逃さじと勇者もエレベータに乗り込んできて、そこで後方のドアは閉じた。我と勇者を詰め込んだ狭い密室は最上階へと上昇を始める。ノンストップだ。

 

「ぎゃーす!?」

 

 気づいたか。狭いエレベータの中ではお前の敏捷性は完全に封じられているのだよ。これは遊演体のPBM(郵便RPG)N96『こうもり城へようこそ』で敏捷性がめちゃめちゃ高い藤山学園ラスボスに我のPCが使った作戦なのだ。ついでに言うと当時の少年ジャンプの某漫画でそっくり同じシーンがあったがあれは何だったんだろうな。少なくとも我のこの作戦の方がその漫画よりも発表が早かったはずだが。……それはともかくもうこうなったらずっと我のターンだ。くらえ! ざくれろ・サイザー!

 

 スパーン!

 

 うむ。鎌を使うならこちらも得意だ。逃げられない勇者の首を落とすなど造作もない事。……ふむ。落ちた首がすぐ時間の巻き戻しの様に元に戻って身体にくっつくか。これが勇者の特殊能力か。ならばもう一度首を切り落とすまで。

 

 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!

 

 切られて落ちてまたくっつく。永遠にこの三拍子の繰り返しか。物理的状況で敏捷性が封じられた上、蘇生時HPが一しかなくてはリズミカルに首を落とす事などこのざくれろには造作ない事。……しかしその永遠にこれにつきあわされてはかなわん。首が落ちた隙にガムテープで頭部をグルグル巻きにしてやろう。どうだ、口も鼻も固くふさいだぞ。

 

「…………っ! …………」

 

 生き返った途端、窒息死。生き返った途端、窒息死。この永久機関に完全にハマったな、勇者。テープでグルグル巻きは状態異常ではないから回復も出来ないだろう。HPが一しかなく、テープを剥がす器用度もない哀しさよ。

 

 エレベータがようやく最上階に着いた。我はエレベータから屋上へ勇者の首を蹴り出す。この首をどうするか。そうだ。そこに置いてあるプランターの黒い土に埋めてやろう。ついでにヒマワリの種も埋めてやる。観察日記の土壌になりつつ、もう永遠に考える事をやめるがいいわ。

 

 どうだ、魔王よ。見せ場を奪ってしまったな。ともかく勇者は封じた。魔族もお前も我の庇護の中で存分に生きていくがいいぞ。何、礼は特に要らぬ。どうしてもと言うならサッキュバスの二〇人も付き添わせてくれればよいぞ。

 

 ではさらばだ! シャキーン!

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