ダイブ・アンド・ラン

美作為朝

HIGH

LT現地時刻05:28。ロー・アンド・オーダー法と秩序のない荒野の上空を飛ぶ貨物用のB-777。

 シリア上空。

 高度は3万3千フィート1万メートル

 その荒野を逐われた難民は万人単位。

 三人しか乗っていないB-777コックピットでは機長の下卑げびた話しが延々と続く。


「俺は行ったすべての場所のフォワー娼婦と必ずやることしてるんだけど、、、」


 サングラスをかけた機長の自嘲気味のクスクス笑い。

 夜間飛行にサングラス。ただマッチョを演じたいだけ。ナメられたら負けと思っているタイプ。

 機長とコ・パイロットの後ろに座るアコスタは視線をそらす。これが一時間半続いている、最悪SNAFU


「七大大陸って意味ではもう制覇してるんだよな、、。今度は人種でいくか?」


 機長の嫌な小さな笑い。いくcomingいくcomingがかかってる。

 面白くないユーモアは凶器だ。

 一方の若いコ・パイロットはまるでサイボーグ。若いイケメン。背筋を伸ばし言葉や笑顔を一つ見せず仕事をこなしているだけ。どうしてこいつがパイロット機長になれていないのかわからない。

 機長、コ・パイロットともに名前は知らないが典型的なファッキン・レッドネックサイテーな白人


 コ・パイロットが航路図をチェックし言う。


「降下まで5分」


 アコスタは装備の最終チェックを行う。

 今回アコスタが行うのはHALO降下高高度降下低高度開傘

 内陸部にあり防空能力のほぼない国に潜入するにはこれが一番とされている。

 マッハ1近くで飛行する航空機から高度1万メートルで機外に飛び出す。大気温度は氷点下50度。このコックピットは与圧されているが飛び出したJUMP気圧は地上1/4。与圧スーツなし。付けるのは酸素マスクだけ。

 そしてパラシュートを開くのは地上すれすれの高度1000フィート300メートル

 パラシュートでひらひら降下していることの地上からの視認を避けるためだ。

 夜間にこのヘイロー降下を任務で行うのはアコスタも始めて。


「よー、だんまりの特殊部隊員デルタ・ボーイズさんよ、今まで何人ぐらい殺したんだ?。どうせデルタならウォー・ジャンキー戦争中毒なんだろ?」

「あんたらが運んだ兵器が殺した人間よりは少ないな」


 アコスタが小さな声で答えた。

 サングラスの機長は鼻息きで笑い飛ばした。


「おれたちはウォー・ヘッド核弾頭だって運んだぜ」


 この貨物用のB-777は民間航空輸送会社を装っているが実際はラングレーが飛ばしている公用機だ。

 その証拠にヘイロー降下用の特殊ハッチが装備されている。

 そしてこの機長とコ・パイロットもおそらく元空軍か米4軍いずれかのパイロット。

 パイロットは技量が落ちれば落ちるほどエンジンがたくさんついた大きな飛行機に乗ることになる。戦闘機の操縦者がベリー・ザ・ベスト最高

 だが大型機であろうが普通のパイロットは軍に残っている。

 おそらくこの二人、年金資格も剥奪の不名誉除隊か軍刑務所での服役を回避するためにこの仕事に付いているに違いない。

 アコスタのようなエージェントを運ぶ事自体がサイテーな仕事Dirty Jobだから。


「よーモーティマー、お高くとまってたDディーボーイが始めて口を利いてくれたぜ。あんただってチンコのついた兵器みたいなもんだろ。デルタは小指一本で人を殺せるって聞いたぜ」


 またもやサイテーSNAFU

 徒手格闘は特殊部隊員の重要な技術だがそんなのは冒険小説か映画での話しだ。

 アコスタは無視した。


「最終行程に入ります。左へ急旋回。進路270へ。降下まで残り3分」


 B-777がもし客室があったならそこから苦情が出そうなほど傾いて旋回する。

 レーダー追尾や視認されていた場合へのギリギリの対策。

 旋回終了。

 

「減速開始。スラスト推進力20%カット」


 GPSロケーターと連動した計器パネルの進路図の警報が軽く鳴る。


「降下まで30秒」

「よー、ディー・ボーイズさんよ冥土の土産に今まででサイコーのファックの話しをしてやろう。コスタリカでさぁ4人の立ちんぼストリート・ガールズ共を買って全員で俺のケツの穴からあそこまで同時にナメさせたときにな、、、」


 アコスタが面体と酸素ボンベだけチェックして席を立つと言った。


「その4人ビッチーズのうち一人は俺の従姉妹いとこかもしれないな」

「えっ?」


 機長はアコスタから返事が来るとは思っていなかったようだ。

 驚いた顔をしてシートから振り向いた。

 アコスタは小さなパラシュートだけ背負ってコクピットの後部ハッチから出ようとしていた。

 そして、最初のハッチを開けたまま次のハッチを開けた。


「ちょっと待ったそこは閉じないと、、」


 機長はそこまで言うのが限界だった。

 コックピット内で嵐が起こった、気温と気圧差で白い渦が巻き起こり至るところから警報音がなった。

 <プルダウン。プルダウン>

 操縦シートの上部からは緊急用の酸素マスクが飛び出してきて機長の頭に当たった。

 書類、機長のコンドームの入ったかばんはすべて真後ろに吸引されていった。

 コックピット内は急減圧された。 

 パイロットの二人が規則レギュレーションを守っていたら死ぬことはないだろう。

 アコスタの祖父母はコスタリカ出身だった。

 デルタ・ボーイズの鉄則その一。

 <もう二度と会うことのないやつにはなにをやっても良い>

 アコスタは後部にある側部のハッチからB-777の水平尾翼にだけ気をつけて飛び出た。

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