九着目「からっぽ」

「はい!私は、御社の商品やサービスの提供を通じて、一人でも多くの人に、喜びと安心な生活のサポートをしたいと考え、志望致しました」


別に何かやりたい事があるわけじゃないが、僕はあれからすぐ転職活動を開始した。

せめての希望条件があるとすれば、労基を守っている事。でも、この国ではそれが一番難しい。

ネットで調べたら、ココも割と黒らしい……


要するに、今僕のやってる事は、社畜という首輪を外され、また新たな社畜になる為の首輪を探し回ってるんだよな……アホだな自分、アホ。。。


僕のこれまでの経歴は散々なものだ。

新卒で入った会社は、相当なブラック企業で、一年で辞めてしまった。

どんな事があってもしがみつくと決めていた今回も、世界的金融危機から歯車が狂い3年でクビになってしまった。

さすがに、これ以上は親に迷惑を掛けられない、という思いだけで転職活動をしている。


世間体だけで動いている。

世の中、そんなもんだ。と言ってしまえば、そうなのかもしれない。


だけど、心が弱っていて、モチベーションをどこに持って行けば良いかわからない状態の僕に、今の雰囲気は耐えられない。


そんな中身のない経歴と、空っぽの僕の言葉に、面接官の表情が険しくなっていく。


「……はぁ」

面接官は、完全にハズレを引いた顔をしている。


うぅ……溜息ってされると辛いんだな。。。


「でも、それウチじゃなくてもいいですよね?」

バッサリと切り捨てる面接官。


えっ??こっちだって、就職アドバイザーに紹介されて来たのに、他のトコなんて知らねーよ。そりゃ受かればどこだっていいよ……

っと、言いたいところをグッと堪え


「はい!いや、いえ、、、え~と、そうですね~~、そのように思われるかもしれませんが、やはり、御社のお客様を大切にされてる姿勢と、その行動力は他社にないものであり、何より御社の理念に共感をして、私としては、ここを活躍の場としたいと思い応募しました」

引きつる笑顔に、宙を泳ぐ目、誰でも言いそうなフワッとした言葉。


終わったな。この面接終わったな……はぁ、帰りたいぃ……


「では、あなたは弊社でどのような活躍をして頂けますか?」


「はい、前職で培ったITスキルを活かしたいと思います。ワード、エクセル、パワーポイントは一通り出来ます」


「他には?」


「はい、あとCATIAV5です」


「そのソフトは、私は知りませんが、弊社の業務では使いませんよね?」


「はい、しかし……」

なんとか、挽回しようとする僕を遮り、話を続ける面接官


「マクロは組めますか?」


「いえ、現段階では出来ませんが、出来るよう努力します」


「う~ん、努力は誰でも出来るんですよね~、努力されてもな~」

面接官の声色は明らかに、小バカにするニュアンスだった。


「あの、コールセンターの仕事にマクロ組む必要あるんですか?」

一瞬ギロリと睨む面接官。つい言い返してしまった一言に、自分の煽り耐性のなさを反省する。


「まぁ、初めの段階では無いかもしれませんが……追々ランクが上がるに連れ、もしかしたら、そういったお仕事もあるかもしれないというのを仮定のお話として捉えて頂けたらと思います」

今までとは違い、なんとなく、歯切れの悪い面接官に『結局、使う必要ないんかーい!!』と、心の中で突っ込んでおく。。。


僕は、イマイチこの茶番的な、日本の面接システムについていけない。


「それでは、内定につきましては、後日、あなたの担当就職アドバイザーさんを通じてお知らせします。」


「この度はお忙しい中、面接のお時間を頂きありがとうございました。失礼致します!」

僕は席を立ち、深々と一礼した後、退出した。


我ながら、さすがのMR.ALLTHREEだ。

ザ・普通の人物を演じるなら、右に出るものはいないであろう。

いや、演じる何も、特徴の無いのが、特徴。これが僕だ……


もう、何の為に生きてるんだろう……

活きなくとも、生きていかなきゃいけないのか。

何にもない自分を改めて、ほんと情けなく思うよ……


「あーあ、ほんと、からっぽ」

灰色のアスファルトを眺めて、溜息交じりに呟いた。

僕の言葉は、行き交う人々の喧騒にかき消された。

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